育児休業等終了時報酬月額変更届とは?社会保険労務士が要件・手続き・注意点を徹底解説

育児休業を終えて職場に復帰した従業員から、「時短勤務になって給料が下がったのに、社会保険料は休業前のままで負担が重い」といった相談を受けたことはないでしょうか。こうした場合に活用できるのが「育児休業等終了時報酬月額変更届」という制度です。

本記事では、社会保険労務士の立場から、この制度の法的根拠、対象となる要件、随時改定との違い、手続きの流れ、実務上の留意点までを、日本年金機構の公表資料や関係法令に基づいて整理します。人事労務担当者の方はもちろん、制度の利用を検討している育児休業取得者ご本人にも役立つ内容を目指しています。

目次

1. 育児休業等終了時報酬月額変更届とは

育児休業等終了時報酬月額変更届は、育児休業等を終了した被保険者が、休業終了後に時短勤務などで報酬が下がった場合に、通常の随時改定の要件を満たさなくても、標準報酬月額を早期に改定できる制度です。

日本年金機構の説明によれば、育児・介護休業法に基づく満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業および育児休業に準ずる休業)の終了日に3歳未満の子を養育している被保険者は、一定の条件を満たす場合、随時改定に該当しなくても、育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月間に受けた報酬の平均額に基づき、4カ月目の標準報酬月額から改定することができるとされています(日本年金機構「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出」)。

この制度のポイントは、通常の随時改定(月額変更届)よりも改定の要件が緩やかに設定されている点にあります。育児短時間勤務などで収入が減った従業員の社会保険料負担を、実態に即して早期に軽減できる仕組みといえます。

2. 制度の法的根拠となる条文

本制度は、行政の運用ルールではなく、健康保険法および厚生年金保険法に明確な根拠を持つ法定の制度です。

2-1. 健康保険法第43条の2

健康保険法第43条の2は、育児休業等を終了した被保険者が、育児休業等終了日において当該育児休業等に係る3歳に満たない子を養育する場合において、事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、通常の随時改定に関する規定にかかわらず、育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間(継続して使用された期間に限り、報酬支払の基礎となった日数が17日未満である月を除く)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する旨を定めています。ただし、育児休業等終了日の翌日に産前産後休業を開始している被保険者については、この限りでないとする除外規定も置かれています。

2-2. 厚生年金保険法第23条の2

厚生年金保険についても、健康保険法第43条の2とほぼ同様の内容が、厚生年金保険法第23条の2に規定されています。健康保険と厚生年金保険は、標準報酬月額の改定に関して基本的に同一の枠組みで運用されているため、育児休業等終了時改定の届出も原則として両保険を1枚の様式でまとめて行うことになります。

2-3. 育児・介護休業法上の「育児休業等」の範囲

条文中の「育児休業等」とは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児・介護休業法)第2条第1号に規定する育児休業、同法第23条第2項の育児休業の制度に準ずる措置、同法第24条第1項(第2号に係る部分に限る)の規定により講じられる育児休業に準ずる措置、または政令で定める法令に基づく育児休業を指します。単なる会社独自の制度による休業ではなく、法律上の育児休業等に該当することが前提となっている点に注意が必要です。

3. 対象となる方・改定のための要件

日本年金機構の案内によれば、育児休業等終了時改定の対象となるには、次の要件をいずれも満たす必要があります。

  • 要件1(等級差):これまでの標準報酬月額と、育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月分の報酬の平均額に基づき算出した改定後の標準報酬月額との間に、1等級以上の差が生じること。
  • 要件2(支払基礎日数):育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月のうち、少なくとも1カ月における支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること。

なお、短時間就労者(パート等)について、3カ月のいずれも支払基礎日数が17日未満である場合は、そのうち15日以上17日未満の月の報酬月額の平均によって算定することとされています。

この制度は、被保険者本人からの申出に基づいて事業主が届出を行う仕組みであり、事業主が一方的に届け出ることはできません。育児休業等終了時に3歳未満の子を養育している被保険者からの申出を受けて、事業主が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出する流れになります。

3-1. 産前産後休業へ引き続く場合は対象外

健康保険法第43条の2ただし書のとおり、育児休業等を終了した日の翌日に引き続いて産前産後休業を開始した場合は、この申出はできません。産前産後休業を開始した場合には、産前産後休業終了時改定など別の制度の対象となるため、時系列の確認が重要です。

4. 随時改定(通常の月額変更届)との違い

育児休業等終了時改定と混同されやすいのが、固定的賃金の変動に伴う通常の随時改定です。両者は目的も要件も異なりますので、以下に整理します。

比較項目随時改定(通常)育児休業等終了時改定
対象者固定的賃金に変動があった全被保険者育児休業等終了時に3歳未満の子を養育する被保険者
固定的賃金の変動必須の要件要件とされていない
標準報酬月額の等級差2等級以上の差が必要1等級以上の差で足りる
支払基礎日数3カ月とも17日(短時間労働者は11日)以上必要3カ月のうち1カ月以上17日(短時間労働者は11日)以上でよい
届出の性質要件に該当すれば事業主に届出義務被保険者本人の申出があってはじめて届出が可能な任意の制度

日本年金機構の随時改定の解説では、随時改定は昇給・降給などの固定的賃金の変動があり、変動月以後継続する3カ月の報酬の平均額により算出した標準報酬月額に、従前と比べて2等級以上の差が生じ、かつその3カ月とも支払基礎日数が17日以上であることが要件とされています。これに対し、育児休業等終了時改定は固定的賃金の変動そのものを要件としておらず、時短勤務による稼働時間の減少など非固定的な要因による報酬変動であっても対象になり得る点が大きな違いです。また、支払基礎日数の要件も3カ月のうち1カ月以上で足りるなど、育児休業からの復帰直後という特殊な就労状況に配慮した緩和がなされています。

5. 手続きの流れと提出先・提出方法

5-1. 提出先

届出は、事業所を管轄する年金事務所(事務センター)または加入している健康保険組合に提出します。健康保険組合に加入している事業所の場合は、健康保険分は健康保険組合へ、厚生年金保険分は年金事務所へ提出することになります。

5-2. 提出方法

日本年金機構の案内では、窓口への持参、郵送、電子申請(e-Gov)のいずれかの方法で提出できるとされています。電子申請を利用すれば、窓口への来訪や郵送の手間を省くことができます。

5-3. 提出のタイミング

この届出は、賃金変動後の3カ月間の給与実績が確定してから行うものであるため、育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月目の給与支払いが完了した後に、速やかに提出することが求められます。法令上、通常の随時改定のように「速やかに」という表現はありますが、一律の提出期限日が明示されているわけではないため、給与計算や社会保険料控除への反映タイミングを踏まえ、余裕を持って準備することが実務上重要です。

5-4. 使用する様式

提出する様式は「健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者育児休業等終了時報酬月額相当額変更届」です。日本年金機構のウェブサイトでは、PDF形式・エクセル形式の様式に加え、記入例も公開されていますので、実際の作成にあたっては最新の様式・記入例を必ずご確認ください。

6. 記入上の注意点

日本年金機構が公表している記入例等を踏まえると、次のような点に注意が必要です。

  • 支給月欄には、育児休業等終了日の翌日が属する月から3カ月分を記入すること。
  • 「給与計算の基礎日数」には、月給者は暦日数、日給者は出勤日数等、給与支払の対象となった日数を記入し、給与の支払日と混同しないこと。
  • 報酬の「通貨」欄には金銭で支払われた給与・手当等の合計額を、「現物」欄には食事・住宅・被服・定期券等、金銭以外で支払われるものの価額(厚生労働大臣が定める価額等に基づき算定した額)を記入すること。
  • 「⑨総計」は、支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)の月の合計額を用いて算定し、パートで3カ月とも17日以上の月がない場合は、15日以上17日未満の月の合計額を用いること。

これらは制度の要件と直結する部分であり、記入誤りがあると改定内容そのものに影響するため、日本年金機構が公開している最新の記入例を都度参照することをおすすめします。

7. 改定後の標準報酬月額はいつまで適用されるか

決定された標準報酬月額の適用期間についても、日本年金機構は明確なルールを示しています。1月から6月までの間に改定された場合は、再び随時改定等がない限り、その年の8月までの各月に適用されます。一方、7月から12月までの間に改定された場合は、翌年の8月までの各月に適用されます。これは、毎年7月に行われる定時決定(算定基礎届)による標準報酬月額の見直しサイクルと連動した仕組みです。

8. 「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」との関係

育児休業等終了時改定によって標準報酬月額を引き下げると、当面の社会保険料負担は軽減される一方、将来の厚生年金の年金額の計算に用いられる標準報酬月額も下がってしまうという側面があります。この不利益を回避するための制度が、厚生年金保険法第26条に基づく「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」です。

日本年金機構の案内によれば、3歳未満の子を養育する被保険者または被保険者であった方で、養育期間中の各月の標準報酬月額が、養育を開始した月の前月の標準報酬月額を下回る場合、被保険者が「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を事業主を経由して提出することで、将来の年金額の計算においては、養育期間開始前の従前の標準報酬月額を用いることができるとされています。申出日より前の期間についても、申出日の前月までの2年間についてみなし措置が認められる点も特徴です。

育児休業等終了時報酬月額変更届を提出する際には、この養育期間標準報酬月額特例申出書もあわせて提出することで、目先の保険料負担の軽減と将来の年金額の確保を両立できます。社会保険労務士としては、両制度をセットで案内することが望ましいと考えます。

9. 実務上の留意点(社会保険労務士の視点から)

9-1. あくまで任意の制度であること

育児休業等終了時報酬月額変更届は、被保険者本人の申出があってはじめて手続きが可能な任意の制度です。通常の随時改定のように要件を満たせば事業主に届出義務が生じるものではないため、事業主が制度を知らずに案内をしなければ、対象者が制度の恩恵を受けられないまま終わってしまう可能性があります。育児休業からの復帰面談等の機会を活用し、制度の内容を丁寧に説明したうえで、本人の意向を確認するプロセスを設けることが望まれます。

9-2. 標準報酬月額引き下げに伴う影響への配慮

標準報酬月額が下がることで、将来の老齢厚生年金の計算基礎となる報酬額が下がるほか、傷病手当金や出産手当金など、標準報酬月額を基礎として算定される給付の額にも影響が及ぶ可能性があります。制度の利用を検討する被保険者に対しては、目先の保険料負担軽減というメリットだけでなく、こうした将来的な影響についても中立的な立場から説明し、前述の養育期間標準報酬月額特例申出とあわせて検討するよう案内することが、社会保険労務士としての公平な情報提供のあり方だと考えます。

9-3. 産前産後休業との先後関係の確認

前述のとおり、育児休業等終了日の翌日に引き続いて産前産後休業を開始する場合は、この届出の対象外となります。第二子以降の妊娠・出産が続くケースでは、育児休業終了日と産前産後休業開始日の先後関係を正確に確認したうえで、適用すべき制度を見極める必要があります。

10. まとめ

育児休業等終了時報酬月額変更届は、健康保険法第43条の2および厚生年金保険法第23条の2を根拠とし、育児休業等からの復帰後に報酬が下がった被保険者の社会保険料負担を、通常の随時改定よりも緩やかな要件で早期に見直すことができる制度です。1等級以上の差、かつ3カ月のうち1カ月以上の支払基礎日数17日(短時間労働者は11日)以上という要件のもと、被保険者本人の申出に基づき事業主が日本年金機構または健康保険組合へ届け出ることで手続きが完了します。

一方で、標準報酬月額の引き下げは将来の年金額や各種給付額にも影響するため、養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置とあわせて検討することが、育児休業取得者にとって望ましい選択につながります。制度の詳細や個別の該当可否については、最新の法令・日本年金機構の公表資料をご確認いただくとともに、必要に応じて社会保険労務士等の専門家にご相談ください。


参考文献・出典

本記事は、以下の法令および行政機関の公表資料に基づいて作成しています。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の事案への適用可否を保証するものではありません。実際の手続きにあたっては、日本年金機構または健康保険組合の最新の公表情報をご確認いただくか、顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。また、本記事では税務に関する事項は取り扱っておりません。税務上の取扱いについては税理士等の専門家にご相談ください。

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