最低賃金の引き上げはいつから?令和8年度(2026年度)最新動向を社会保険労務士が解説

「最低賃金 引き上げ いつから」と検索されている方の多くは、自社の賃金台帳を見直す経営者・人事労務担当者の方、あるいはアルバイト・パートとして働く労働者の方ではないでしょうか。最低賃金は毎年見直され、例年10月前後に新しい金額が適用されますが、「いつ発表され、いつから実際に適用されるのか」という具体的な時期やルールは、法律の条文レベルで正確に理解している方は多くありません。

本記事では、社会保険労務士の立場から、厚生労働省の報道発表資料や最低賃金法の条文といった一次情報のみに基づき、最低賃金改定の仕組み・スケジュール・最新動向・企業実務での注意点を整理して解説します。特定の政策の是非について論評することは控え、制度の事実関係を中立的にお伝えすることを心がけています。

目次

1. 最低賃金制度とは何か(法的根拠)

最低賃金制度は、最低賃金法(昭和34年法律第137号)に基づき、国が賃金の最低限度を定め、使用者に対してその金額以上の賃金の支払いを義務付ける制度です。

最低賃金法第9条第1項では、賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障するため、地域別最低賃金はあまねく全国各地域について決定されなければならないと定められています。また同条第2項では、地域別最低賃金は「地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない」とされており、同条第3項では、生計費を考慮するにあたっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとされています。

最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業について定められる「特定最低賃金(産業別最低賃金)」の2種類がありますが、本記事では検索意図として最も多い「地域別最低賃金」の改定スケジュールを中心に解説します。

参考:厚生労働省「最低賃金制度とは」

2. 最低賃金はどのようなプロセス・スケジュールで決まるのか

最低賃金の改定は、毎年ほぼ同じスケジュールで進められます。厚生労働省が公表している資料および最低賃金法の条文に基づくと、大まかな流れは以下のとおりです。

(1)厚生労働大臣からの諮問・中央最低賃金審議会での審議(毎年6〜7月頃)

まず、厚生労働大臣から中央最低賃金審議会に対して、その年度の地域別最低賃金額改定の目安について諮問が行われます。中央最低賃金審議会の中に設置される「目安に関する小委員会」で複数回にわたる審議が行われ、都道府県を経済実態に応じてA・B・Cの3ランクに区分したうえで、ランクごとの引上げ額の目安(公益委員見解)がまとめられます。

(2)中央最低賃金審議会からの答申(例年7月下旬)

目安に関する審議結果は、中央最低賃金審議会として厚生労働大臣に答申されます。この目安は、あくまで各地方最低賃金審議会が議論する際の「参考」として示されるものであり、この時点ではまだ金額は確定していません。

(3)地方最低賃金審議会での調査審議・答申(例年8〜9月)

各都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が、中央最低賃金審議会の目安を参考にしつつ、地域における賃金実態調査の結果や参考人(労使団体等)の意見も踏まえて調査審議を行い、都道府県労働局長に答申します。

最低賃金法第10条第1項では、「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(中略)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金の決定をしなければならない」と定められています。

(4)公示・異議申出の受付(例年9月)

都道府県労働局長は、地方最低賃金審議会からの意見(答申)を受けたときは、厚生労働省令の定めるところにより、その意見の要旨を公示しなければなりません(最低賃金法第11条第1項)。

この公示があった日から15日以内であれば、当該地域の労働者または使用者は、都道府県労働局長に対して異議を申し出ることができます(同条第2項)。異議の申出があった場合、都道府県労働局長は再度地方最低賃金審議会に意見を求める必要があり(同条第3項)、公示の日から15日を経過するまでは正式な決定を行うことができません(同条第4項)。

(5)都道府県労働局長による決定・発効(例年10月)

異議申出の手続きを経たうえで、最終的に都道府県労働局長が地域別最低賃金額を正式に決定し、公示します。そして、この決定の効力発生時期についても、最低賃金法にルールが定められています。

最低賃金法第14条第2項は、「地域別最低賃金の決定(中略)は、前項の規定による公示の日から起算して30日を経過した日(公示の日から起算して30日を経過した日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日)から、その効力を生ずる」と規定しています。

つまり、法律上の原則は「公示日から起算して30日を経過した日」に効力が発生するというルールですが、決定の中で別途日にちが定められている場合は、その日(指定日発効)から効力が生じることになります。例年、この「別に定める日」として10月1日前後が指定されることが多く、これが「最低賃金は10月から変わる」というイメージの法的な根拠になっています。

参考:

3.【最新】令和8年度(2026年度)の最低賃金はいつから引き上げられるのか

2026年8月時点での最新の一次情報をもとに、令和8年度(2026年度)の状況を整理します。

中央最低賃金審議会の目安(令和8年7月28日公表)

厚生労働省は令和8年7月28日、第75回中央最低賃金審議会において取りまとめられた「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安」を公表しました。この答申のポイントは以下のとおりです。

  • 各都道府県の引上げ額の目安は、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円
  • 都道府県は経済実態に応じてA・B・Cの3ランクに区分(Aランク6都府県、Bランク28道府県、Cランク13県)
  • 仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合、全国加重平均額は1,176円となる見込み(令和7年度の1,121円から55円の引上げ、引上げ率換算で4.9%)

なお、これはあくまで中央最低賃金審議会が示した「目安」であり、実際の最低賃金額は、この後に各都道府県の地方最低賃金審議会での審議を経て決定される点にご留意ください。

参考:厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(令和8年7月28日)

今後の流れと発効時期の見込み

前章で解説した法定のプロセス(地方審議会の答申→公示→15日間の異議申出期間→都道府県労働局長による決定)を経て、実際の金額と発効日が都道府県ごとに確定します。例年のスケジュールに沿えば、令和8年度についても9月頃に各都道府県の改定額が公示され、10月以降に順次発効する見通しです。

ただし、最低賃金法第14条第2項の「別に定める日」の規定により、都道府県によっては発効日が10月より後ろ倒しになるケースも生じ得ます。実際、令和7年度の改定では、10月1日から令和8年3月31日までの間で発効日が都道府県ごとに分散しました。自社の所在地の正確な発効日は、確定後に都道府県労働局または厚生労働省の公表資料で必ず確認する必要があります。

参考:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(改定額・発効日が確定次第、随時更新されるページです)

4. 参考:令和7年度(2025年度)の改定内容

比較の参考として、直近に確定した令和7年度(2025年度)の改定内容を確認しておきます。

厚生労働省は令和7年9月5日、各都道府県の地方最低賃金審議会が答申した令和7年度の地域別最低賃金の改定額を取りまとめて公表しました。

  • 全国加重平均額は1,121円(令和6年度は1,055円)で、引上げ額は66円
  • この66円という引上げ額は、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
  • 都道府県別では63円〜82円の引上げとなり、39道府県で中央最低賃金審議会の目安額を上回る結果
  • 今回の改定により、初めて全都道府県で最低賃金が1,000円を超えた
  • 答申された改定額は、都道府県労働局での異議申出の手続きを経たうえで、都道府県労働局長の決定により、令和7年10月1日から令和8年3月31日までの間に順次発効

参考:厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について」(答申・令和7年8月4日)

5. 発効日が地域によって異なる理由

「最低賃金はいつから」という疑問に対して、もう一つ押さえておきたいのが、発効日が全国一律ではないという点です。

最低賃金法第14条第2項の「公示の日から起算して30日を経過した日後の日であつて当該決定において別に定める日があるときは、その日」という規定により、各都道府県の決定において、法定の原則(30日経過日)よりも遅い日を発効日として個別に指定することが可能です。この結果、同じ年度の改定であっても、都道府県によって発効日が数か月単位でずれるケースが生じます。

自社が複数の都道府県に事業所を持つ場合や、パート・アルバイトを都道府県をまたいで雇用している場合は、都道府県ごとの発効日を個別に確認し、対応時期を管理することが実務上重要になります。

6. 最低賃金の対象となる労働者・賃金の範囲

最低賃金は、正社員に限らずパートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣労働者など、雇用形態を問わずほぼすべての労働者に適用されます(一部、精神または身体の障害により著しく労働能力の低い方等について、都道府県労働局長の許可を受けた場合の減額特例があります。次章で解説します)。

また、最低賃金額と比較する賃金には、含めるものと除外するものがあります。除外されるものとしては、臨時に支払われる賃金(結婚手当・退職金等)、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)、所定労働時間を超える労働に対して支払われる割増賃金、所定労働日以外の労働に対する割増賃金、深夜労働の割増部分、精皆勤手当・通勤手当・家族手当などが挙げられます(最低賃金法第4条第3項、同法第1条関係の解釈)。基本給や諸手当のうち上記に該当しないものは、原則として比較の対象に含まれます。

参考:厚生労働省「最低賃金制度とは」

7. 最低賃金の減額特例

最低賃金法第7条では、次のいずれかに該当する労働者について、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、最低賃金額に労働能力等の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した金額で最低賃金を支払うことができる旨が定められています。

  • 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
  • 試用期間中の者
  • 認定職業訓練を受ける者のうち厚生労働省令で定める者
  • 軽易な業務に従事する者、断続的労働に従事する者その他厚生労働省令で定める者

これらはあくまで都道府県労働局長の許可を要件とする例外的な制度であり、使用者が独自の判断で最低賃金を下回る賃金を支払ってよいわけではない点に注意が必要です。

8. 最低賃金違反の罰則

最低賃金法第4条第1項は、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」と定めています。同条第2項では、最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約はその部分が無効となり、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされると規定されています。

この第4条第1項に違反した場合(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る)は、最低賃金法第40条により50万円以下の罰金に処せられます。また、法人の代表者や従業者が業務に関して違反行為をした場合には、行為者本人だけでなく法人に対しても罰金刑が科される両罰規定が置かれています(同法第42条)。

厚生労働省の労働基準監督署は、最低賃金の履行確保に向けた監督指導を重点的に行っており、実際に賃金不払いが最低賃金法違反として書類送検された事例も公表されています。

参考:厚生労働省 山形労働基準監督署 報道発表資料(最低賃金法違反容疑での書類送検事例)

9. 企業が今から準備すべき実務対応

社会保険労務士の立場から、最低賃金の改定を控えた企業に向けて、賃金台帳や労働契約の面から確認しておきたいポイントを整理します。

① 時給・日給・月給者すべての賃金水準の確認 時給制のパート・アルバイトだけでなく、月給制の正社員についても、所定労働時間で除して時間額に換算した際に新しい最低賃金額を下回っていないか確認が必要です。

② 労働条件通知書・就業規則の確認 最低賃金額の改定に伴い、雇用契約書や労働条件通知書に記載している賃金額の見直しが必要になる場合があります。

③ 都道府県ごとの発効日の管理 複数拠点を持つ企業は、事業場の所在地ごとに適用される地域別最低賃金と発効日が異なる点に留意し、都道府県ごとに対応スケジュールを管理することが望まれます。

④ 最低賃金の周知 最低賃金法第8条では、最低賃金の適用を受ける使用者は、その最低賃金の概要について、常時各作業場の見やすい場所へ掲示する等の方法により、労働者に周知しなければならないと定められています(違反した場合、同法第41条により30万円以下の罰金の対象となります)。

なお、賃金改定に伴う社会保険料の取扱いなど、税制以外の各種手続きについて不明な点がある場合は、事業所を管轄する年金事務所や労働局、または顧問の社会保険労務士に確認することをおすすめします。

10. まとめ

  • 最低賃金の改定は、中央最低賃金審議会の目安(例年7月下旬)→地方最低賃金審議会の答申(例年8〜9月)→公示・15日間の異議申出期間(最低賃金法第11条)→都道府県労働局長による決定という法定プロセスを経て確定します。
  • 発効日は、最低賃金法第14条第2項により「公示の日から起算して30日を経過した日」が原則ですが、決定において別に定める日(指定日)があればその日となり、例年10月前後に設定されることが多くなっています。
  • 令和8年度(2026年度)については、令和8年7月28日に中央最低賃金審議会から全国加重平均で55円引上げ(目安額1,176円)とする目安が公表されており、今後の地方審議会での審議を経て、例年どおりこの秋以降に確定・順次発効する見通しです。
  • 最終的な金額・発効日は都道府県ごとに異なるため、必ず厚生労働省または各都道府県労働局が公表する確定情報をご確認ください。

本記事は、厚生労働省の報道発表資料および最低賃金法の条文等の一次情報に基づいて作成しています。制度は今後の審議状況により変更される可能性がありますので、最新の情報は厚生労働省の公式サイトでご確認いただくとともに、個別の労務管理に関するご相談は顧問社会保険労務士へお問い合わせください。


参考文献・出典一覧

※本記事の内容は執筆時点(2026年8月)の情報に基づきます。最低賃金額および発効日は都道府県ごとの審議を経て確定するため、必ず最新の一次情報をご確認ください。

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