懲戒解雇と懲戒免職の違いとは?社会保険労務士が法令に基づき徹底解説

「懲戒解雇」と「懲戒免職」。どちらも新聞やニュースで目にする言葉ですが、この二つは似ているようでいて、根拠となる法律も、手続きも、退職金や失業給付への影響もまったく異なります。混同して使われることも多いのですが、正確に理解しておくことは、人事労務の実務に携わる方はもちろん、就職・転職を考える方にとっても大切です。

本記事では、社会保険労務士の立場から、労働基準法・労働契約法・国家公務員法・地方公務員法・雇用保険法・国家公務員退職手当法など、実際の法令の条文や行政機関が公表している一次情報のみを根拠として、懲戒解雇と懲戒免職の違いを整理します。特定の企業や個人を評価・批判する意図はなく、あくまで制度としての客観的な解説であることをあらかじめお断りしておきます。

目次

1. 結論から:懲戒解雇と懲戒免職は「適用される人」が違う

先に結論を述べると、両者の最も大きな違いは適用対象となる働き手の身分にあります。

  • 懲戒解雇…民間企業などに雇用される労働者に対して、使用者が労働契約法・労働基準法等の民事法(私法)上のルールに基づいて行う、最も重い懲戒処分としての労働契約の解除
  • 懲戒免職…国家公務員や地方公務員に対して、国家公務員法・地方公務員法という公法(行政法)上のルールに基づいて行われる、最も重い懲戒処分としての職員の身分の喪失

つまり、「懲戒解雇」は労働契約関係にある民間の労働者に使われる言葉であり、「懲戒免職」は公務員という特別な身分関係にある職員に使われる言葉です。似た結果(職を失う)をもたらす処分ですが、法的な性質はまったく別のものとして設計されています。以下、それぞれの根拠法令に沿って詳しく見ていきます。

2. 懲戒解雇とは何か(民間労働者の場合)

2-1. 懲戒処分の法的根拠

民間企業における懲戒処分は、使用者が労働契約に付随して有する「企業秩序維持権」に基づくものとされ、就業規則にその種類と事由をあらかじめ定めておくことが前提となります。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成・届出を義務付けており、同条第9号では「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を就業規則に記載すべき事項として定めています(相対的必要記載事項)。厚生労働省が公表している「モデル就業規則」でも、けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇などの制裁の種類が例示されています。

参照:労働基準法第89条|e-Gov法令検索モデル就業規則について|厚生労働省

つまり、懲戒解雇を行うためには、あらかじめ就業規則にその処分の種類(懲戒解雇)と、どのような行為が該当するのか(懲戒事由)を明記し、労働者に周知しておくことが不可欠です。就業規則に定めのない事由による懲戒解雇は、そもそも根拠を欠くことになります。

2-2. 懲戒解雇にも「解雇権濫用法理」が及ぶ

懲戒解雇は「解雇」の一種であるため、労働契約法第16条が定める解雇権濫用法理の適用を受けます。同条は、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、その権利を濫用したものとして無効とすると規定しています。

参照:労働契約法第16条|e-Gov法令検索

したがって、就業規則に懲戒解雇事由として定めがあるからといって、直ちに有効な懲戒解雇ができるわけではありません。行為の重大性、情状、会社への影響、過去の処分事例との均衡、弁明の機会を与えたかどうかなど、処分の相当性が総合的に問われることになります。この点の最終的な判断権限は裁判所にあり、社会保険労務士が個別の事案について「有効・無効」を断定的に判断することはできません。実務では、就業規則の整備に加え、弁明の機会の付与や事実確認の手続を丁寧に行うことが、後のトラブル予防の観点から重要とされています。

2-3. 解雇予告の原則と例外

懲戒解雇であっても、労働基準法第20条が定める解雇予告の原則が及びます。同条第1項は、使用者が労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、予告をしない場合には30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めています。

参照:労働基準法第20条|e-Gov法令検索

ただし、同項ただし書では「労働者の責に帰すべき事由」に基づいて解雇する場合には、この限りでないとされています。もっとも、この除外を受けるためには、所轄労働基準監督署長による「解雇予告除外認定」を受けることが必要です。単に会社が「懲戒解雇だから即日解雇できる」と判断できるわけではなく、行政官庁による認定という手続を経て初めて、予告や予告手当なしの即時解雇が認められる点に注意が必要です。

2-4. 退職金への影響

民間企業における退職金は、法律上当然に発生する権利ではなく、就業規則や退職金規程等の労働契約上の定めによって支給の有無・金額・不支給事由が決まります。多くの企業の退職金規程には、懲戒解雇の場合に退職金の全部または一部を支給しない旨の定めが置かれていますが、これはあくまで各社が任意に定める契約内容であり、全国一律の法律で不支給が義務付けられているわけではありません。この点は、後述する公務員の退職手当の仕組みと大きく異なります。

3. 懲戒免職とは何か(公務員の場合)

3-1. 国家公務員の懲戒処分の根拠

国家公務員については、国家公務員法第82条第1項が懲戒処分の根拠を定めています。同項は、職員が①同法・国家公務員倫理法またはこれらに基づく命令に違反した場合、②職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合、③国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合のいずれかに該当するときは、任命権者は当該職員に対し懲戒処分として「免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる」と規定しています。

参照:国家公務員法|e-Gov法令検索

懲戒処分の種類は免職・停職・減給・戒告の4種類であり、このうち最も重い「免職」が、いわゆる「懲戒免職」にあたります。

処分の具体的な運用基準については、人事院が「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職―68、人事院事務総局職員福祉局長通知)を公表しており、非違行為の類型ごとの標準的な処分量定が示されています。

参照:懲戒処分の指針について|人事院

3-2. 地方公務員の懲戒処分の根拠

地方公務員についても同様の枠組みがあり、地方公務員法第29条第1項が、①同法・同法第57条に規定する特例法・これらに基づく条例等に違反した場合、②職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合、③全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合に、任命権者が懲戒処分として戒告・減給・停職・免職の処分をすることができると定めています。

参照:地方公務員法|e-Gov法令検索

懲戒処分の具体的な手続(弁明の機会の付与、処分書の交付方法等)は、国家公務員法第84条に基づく人事院規則や、地方公務員法第29条第2項・第4項に基づき各地方公共団体が定める条例(懲戒の手続及び効果に関する条例等)によって定められています。

3-3. 分限処分との違いにも注意

公務員の身分を失わせる処分には「懲戒免職」のほか「分限免職」もあります。分限処分は、勤務実績不良や心身の故障など、職員の責めに帰すべき非違行為を前提としない処分であり、制裁としての性質を持つ懲戒処分とは制度上区別されています。国家公務員法では第75条以下(分限)、第82条以下(懲戒)として章立てが分かれており、地方公務員法でも第27条・第28条(分限)と第29条(懲戒)が区別されています。この違いは、本記事のテーマである「懲戒解雇と懲戒免職の違い」を理解するうえでの前提知識として押さえておく必要があります。

3-4. 退職手当への影響

国家公務員が懲戒免職処分を受けた場合の退職手当の扱いは、国家公務員退職手当法によって法律上明確に規定されています。同法第12条は、懲戒免職等処分を受けて退職した者などについて、退職手当管理機関が、職務や責任の程度、非違行為の内容・程度、公務に対する国民の信頼への影響等を勘案して、退職手当の全部または一部を支給しないこととする処分を行うことができると定めています。

参照:国家公務員退職手当法|e-Gov法令検索

このように、公務員の場合は退職手当の不支給・減額について法律上の明文規定が存在する点が、就業規則等の契約内容に委ねられている民間企業の退職金とは大きく異なります。地方公務員についても、各地方公共団体の退職手当条例において同様の不支給・返納規定が置かれるのが一般的です。

4. 懲戒解雇と懲戒免職の違いを一次情報で比較する

ここまでの内容を整理すると、両者の違いは主に次の観点に集約されます。

4-1. 根拠法令の違い

懲戒解雇は労働契約法・労働基準法という私法(労働法)に基づく労働契約上の措置であるのに対し、懲戒免職は国家公務員法・地方公務員法という公法に基づく行政処分です。懲戒免職は行政処分であるため、処分に不服がある職員は、国家公務員法第89条以下・地方公務員法第49条以下が定める審査請求などの不服申立て制度を利用できる点も、民間の労働契約関係とは異なる特徴です。

4-2. 解雇予告制度の適用の有無

民間の懲戒解雇には、前述のとおり労働基準法第20条の解雇予告制度(または除外認定)が及びます。一方、懲戒免職は労働契約の解除ではなく行政処分としての身分の喪失であるため、労働基準法上の解雇予告制度がそのまま適用される場面ではありません。懲戒免職の手続は、国家公務員法・地方公務員法およびこれらに基づく人事院規則・条例が定める処分手続(処分説明書の交付等)に従って行われます。

4-3. 雇用保険(失業給付)上の扱い

民間労働者が離職した場合、雇用保険法に基づく求職者給付(基本手当)の対象となり得ますが、懲戒解雇に該当する場合は「特定受給資格者」とはならず、給付制限の対象となることがあります。雇用保険法第33条第1項は、被保険者が「自己の責めに帰すべき重大な理由」によって解雇された場合には、一定期間、基本手当を支給しないと定めています。実務上、いわゆる「重責解雇」に該当するかどうかは、就業規則の懲戒解雇条項の内容や、懲戒委員会の議事録等の資料をもとに、公共職業安定所長が個別に認定します。

参照:雇用保険法第33条|e-Gov法令検索

一方、国家公務員・地方公務員の多くは共済制度の枠組みで処遇されており、雇用保険が適用されない職種が存在するなど、民間の雇用保険制度とは前提が異なります。適用の有無は職種や任用形態によって異なるため、個別の制度(国家公務員退職手当法、各共済組合法等)を確認する必要があります。

4-4. 退職金・退職手当への影響

前述のとおり、民間の退職金は契約(就業規則・退職金規程)に基づくものであり、懲戒解雇時の不支給・減額の可否や範囲は会社ごとに定めが異なります。これに対し、国家公務員の退職手当は、国家公務員退職手当法第12条という法律の明文規定に基づき、懲戒免職等処分を受けた場合の不支給処分が制度化されています。地方公務員についても各自治体の条例で同様の枠組みが設けられているのが一般的です。

5. 実務上、社会保険労務士が留意しているポイント

社会保険労務士は、主に民間企業における就業規則の整備や労務管理の助言を通じて、懲戒解雇に関わる実務支援を行っています。ここでは、公平な立場から一般的に重要とされている留意点を整理します。

  • 就業規則への明記:懲戒解雇事由・手続を就業規則に明記し、労働基準法第89条に基づき所轄労働基準監督署へ届け出るとともに、労働者への周知を徹底すること
  • 手続の適正性:処分に先立ち、対象者に弁明の機会を与えるなど、適正な手続を踏むこと
  • 解雇予告手続の確認:即時解雇を行う場合は、労働基準監督署長による解雇予告除外認定の要否を事前に確認すること
  • 処分の相当性の検討:労働契約法第16条の趣旨を踏まえ、行為の重大性や過去の処分事例との均衡等、処分の相当性を慎重に検討すること
  • 退職金規程の整備:懲戒解雇時の退職金の取扱いについて、あらかじめ退職金規程に明確な定めを置くこと

なお、懲戒処分の有効性や個別の事案の適法性については、最終的には裁判所の判断に委ねられる事項であり、社会保険労務士はあくまで就業規則の整備や手続面の助言を行う専門家という立場にあることを付言します。

6. まとめ

懲戒解雇と懲戒免職は、いずれも組織における最も重い制裁としての処分である点は共通していますが、その法的根拠は次のように明確に異なります。

  • 懲戒解雇:労働契約法・労働基準法に基づく、民間労働者に対する労働契約上の措置
  • 懲戒免職:国家公務員法・地方公務員法に基づく、公務員に対する行政処分

解雇予告制度の適用、雇用保険の給付制限、退職金・退職手当の取扱いといった具体的な効果の面でも、両者には制度上の違いがあります。人事労務に携わる方は、自社が民間企業なのか、あるいは公務員に関する制度を扱う立場なのかを踏まえたうえで、該当する法令に基づいた正確な理解と対応を心がける必要があります。


参考・引用一次情報

※本記事は、上記の法令・行政機関公表資料等の一次情報に基づき、一般的な制度解説として作成したものです。個別の事案における懲戒処分の有効性等については、就業規則の内容や事実関係により判断が異なりますので、具体的な対応については顧問社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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