「就活 ハラスメント」というキーワードで検索されている方は、就職活動やインターンシップの最中に不快な言動を受けて不安を感じている学生の方、あるいは自社の採用活動を見直したいと考えている企業の人事・採用担当者の方が多いのではないでしょうか。
本記事では、社会保険労務士の立場から、就活ハラスメント(就活セクハラ・就活パワハラ)について、法律の条文、厚生労働省の指針、行政機関が公表している調査データという一次情報に基づき、できる限り公平かつ正確に整理します。特定の企業や個人を非難する意図はなく、あくまで制度と実務の正しい理解を目的としています。
なお、本記事では税務に関する内容は取り扱いません。また、法改正の内容は今後の政省令・通達等により変更される可能性がありますので、最終的には厚生労働省や所轄労働局の公表資料をご確認ください。
1. 就活ハラスメントとは何か
厚生労働省は、就活ハラスメントを次のように説明しています。
「就活ハラスメント」とは、「就職活動中やインターンシップ中の学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント」のことを指し、立場の弱い学生等の尊厳や人格を不当に傷つける許されない行為です。
(出典:厚生労働省「就活ハラスメント防止対策企業事例集を作成しました!」)
つまり就活ハラスメントは法律上の単一の用語ではなく、企業の採用担当者や社員が、就職活動中・インターンシップ中の学生等に対して行う
- セクシュアルハラスメント(就活セクハラ/求職者等セクハラ)
- パワーハラスメントに類する行為(いわゆる「オワハラ」を含む)
を包括的に指す言葉として使われています。
2. 就活ハラスメントの実態~行政調査に見るデータ~
就活ハラスメントは決して一部の特殊な事例ではありません。厚生労働省が委託して実施した「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和6年3月、PwCコンサルティング合同会社)によれば、2020〜2022年度卒業者を対象とした調査で、次の結果が示されています。
- インターンシップ中にセクハラを一度以上受けた者の割合:30.1%
- インターンシップ以外の就職活動中にセクハラを一度以上受けた者の割合:31.9%
- セクハラを受けた際の相手先企業の従業員規模は「99人以下」が最も多い(インターンシップ中37.7%、就活中35.3%)
- セクハラの行為者は、インターンシップ中は「SNSで知り合った従業員」(47.4%)、就活中は「大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員」(38.3%)が最多
(出典:厚生労働省「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)
また、これに先立つ「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書」でも、約4人に1人が就活ハラスメントの被害を経験していたと報告されており、行政としても継続的に問題視してきた経緯があります(出典:厚生労働省「就活ハラスメント防止対策企業事例集を作成しました!」)。
このように就活ハラスメントは、企業規模の大小を問わず、また対面・オンラインを問わず発生し得る、構造的な課題であることがデータから読み取れます。
3. 2026年10月施行「求職者等セクシュアルハラスメント」防止措置の義務化
3-1. 法改正の背景
これまで、セクシュアルハラスメントの防止措置義務(男女雇用機会均等法第11条)は、あくまで事業主が雇用する「労働者」を対象としており、就職活動中の学生など「労働者」ではない求職者等は、法律上の直接の保護対象になっていませんでした。企業側の対応も、指針上「望ましい取組」として位置づけられるにとどまっていたのです。
この状況を踏まえ、令和7年の男女雇用機会均等法改正により、新たに第13条が設けられ、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(以下「求職者等セクハラ」)について、事業主に防止措置を講じることが法律上の義務として明記されました。
条文は次のとおりです。
(求職活動等における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等) 第十三条 事業主は、求職者その他これに類する者として厚生労働省令で定めるもの(以下この項及び次項並びに次条において「求職者等」という。)によるその求職活動その他求職者等の職業の選択に資する活動(以下この項及び同条第一項において「求職活動等」という。)において行われる当該事業主が雇用する労働者による性的な言動により当該求職者等の求職活動等が阻害されることのないよう、当該求職者等からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 2 事業主は、労働者が事業主による求職者等からの前項の相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
(出典:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律〔男女雇用機会均等法〕第13条)
この改正法は、2026年(令和8年)10月1日から施行されます。
3-2. 求職者等セクハラ防止指針の公表
改正法を受け、厚生労働大臣は同法第13条第3項に基づき、2026年2月26日に「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)を公表しました(出典:厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和8年厚生労働省告示第52号)。
この指針では、「求職者等」の範囲や「求職活動等」の範囲、事業主が講ずべき具体的な措置などが明記されています。
4. 「求職者等」「求職活動等」とは誰・何を指すのか
指針上、保護の対象となる「求職者等」には次のような人が含まれます。
- 企業の求人に応募する求職者
- 企業が実施する採用に資する活動に参加する者(会社説明会参加者など)
- 教育実習・看護実習その他の実習を受ける者(インターンシップ参加者を含む)
一方で、授業の一環としての社会科見学や、専ら教育を目的として行われる講演会等への参加者は対象に含まれないとされています。
また、「求職活動等」に該当する具体例として、指針では以下が挙げられています。
- 企業の採用面接への参加
- 企業の就職説明会への参加
- 企業の雇用する労働者への訪問(OB・OG訪問等)
- インターンシップへの参加
- 教育実習、看護実習等の実習の受講
なお、SNS等のオンラインを介したやり取りや、企業が指定した場所以外で行われるものも対象に含まれる点は、実務上重要なポイントです(出典:厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和8年厚生労働省告示第52号)。
5. 求職者等セクハラに該当し得る具体例
厚生労働省の指針・パンフレットでは、求職者等セクハラの典型例として、次のようなケースが示されています(あくまで限定列挙ではなく、個別の状況によって判断が異なり得る点に留意が必要です)。
- 少人数の説明会において、労働者が求職者等の身体に触れ、当該求職者等が苦痛に感じて求職活動等の意欲が低下した
- インターンシップにおいて、労働者が求職者等に対し性的な冗談やからかいを意図的・継続的に行った
- インターンシップにおいて、性的な内容を含むポスターや画面表示等を行っている
- 面接中、面接官が性的な事実関係について質問した
- OB・OG訪問等で労働者に性的な関係を求められた
- インターンシップ中に労働者が求職者等を執拗に私的な食事に誘った
(出典:厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」)
これらは、いわゆる「性的な言動」(性的な内容の発言・性的な行動)に該当し、当該求職者等の求職活動等が阻害される程度に達している場合に、求職者等セクハラと評価され得るものです。
6. 就活パワハラ(いわゆる「オワハラ」等)の位置づけ
学生からの相談で多いもう一つの類型が、いわゆる「オワハラ(就活終われハラスメント)」に代表される、パワーハラスメントに類する行為です。内定辞退を強引に妨げる、他社の選考を辞退するよう強要する、といった行為がこれにあたります。
現行の労働施策総合推進法上のパワーハラスメント防止措置義務(第31条)は、事業主が雇用する「労働者」を対象とするものですが、パワーハラスメント防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、事業主及び労働者の責務規定の趣旨に鑑み、「当該事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい」とされ、就職活動中の学生への配慮が指針上明記されています(出典:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針〔令和2年厚生労働省告示第5号〕)。
つまり、就活パワハラは求職者等セクハラのように直接の措置義務とはされていないものの、指針において「望ましい取組」として企業の対応が求められている領域です。企業としては、法的義務の有無にかかわらず、社会的信用の観点からも真摯に取り組むことが望ましいといえます。
7. 企業(事業主)が講ずべき具体的な措置
求職者等セクハラ防止指針では、事業主が講ずべき措置として、主に以下の項目が挙げられています。
- 事業主の方針の明確化及び周知・啓発 求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること。
- 厳正な対処方針の規定・周知 求職者等セクハラを行った者について厳正に対処する旨の方針及び内容を、就業規則等に規定し周知すること。
- 求職活動等に関するルールの明確化 面談の時間・場所の指定、実施体制(複数人対応など)、連絡に用いるSNSの種類の指定等をあらかじめ定め、労働者・求職者等双方に周知すること。
- 相談窓口の設置と求職者等への周知 相談窓口をあらかじめ定め、ホームページやパンフレット等を通じて求職者等にも周知すること。人事担当者に相談しづらい実情を踏まえ、人事担当者以外を相談窓口担当者とすることも考えられるとされています。
- 事実関係の迅速かつ正確な確認
- 行為者・被害者への適正な措置
- 再発防止措置
- プライバシー保護のための措置と周知
(出典:厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和8年厚生労働省告示第52号、厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」)
社会保険労務士の立場から付言すると、就業規則・ハラスメント防止規程の改定、採用担当者・OB/OG訪問受入担当者向け研修の実施、採用ホームページや募集要項への相談窓口明記は、いずれも施行日(2026年10月1日)を待たずに準備に着手すべき事項です。特に、複数の指針(パワハラ・セクハラ・求職者等セクハラ・カスタマーハラスメント)が同時期に改正・施行されるため、既存のハラスメント防止規程を一体的に見直すことが実務上効率的です。
8. 学生・求職者側が知っておきたいこと
就職活動中に困った言動を受けた場合、まず知っておいていただきたいのは、**「ハラスメントに該当するかどうか判断に迷う段階でも、相談してよい」**ということです。厚生労働省の指針も、事業主に対し「ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること」を求めています。
相談先としては、次のようなものが考えられます。
- 応募先企業の相談窓口(採用ホームページ等に記載がある場合)
- 大学等のキャリアセンター・就職相談窓口
- 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)
なお、都道府県労働局長は、求職者等セクハラを含む紛争について、当事者からの求めに応じて助言・指導・勧告を行うことができるとされています(男女雇用機会均等法第23条等)。一人で抱え込まず、まずは相談することが重要です。
9. 企業が対応を誤った場合のリスク
男女雇用機会均等法及び労働施策総合推進法は、いずれも、事業主が措置義務規定に違反している場合、厚生労働大臣が勧告を行い、事業主がこれに従わなかったときはその旨を公表することができると定めています(男女雇用機会均等法第36条、労働施策総合推進法第42条)。
法的な行政上のリスクに加え、就活ハラスメントは学生の間やSNS上で情報が広がりやすく、企業の採用ブランドや社会的信用に直結する経営リスクでもあります。厚生労働省の調査でも、ハラスメントに起因する問題として「事業主が社会的信用を失うことなどの経営的な損失」が指摘されています(出典:厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和8年厚生労働省告示第52号)。
10. まとめ
- 就活ハラスメントとは、就職活動中・インターンシップ中の学生等に対するセクハラ・パワハラに類する行為の総称である。
- 厚生労働省委託調査によれば、インターンシップ中に約30.1%、就職活動中に約31.9%の学生がセクハラを経験したと回答している。
- 2025年の男女雇用機会均等法改正により、求職者等セクハラの防止措置が新たに法律上の義務となり、2026年10月1日に施行される。
- 具体的な措置内容は、令和8年厚生労働省告示第52号「求職者等セクハラ防止指針」に定められている。
- 就活パワハラ(オワハラ等)は現時点で措置義務の対象ではないが、パワハラ防止指針上「望ましい取組」として企業の対応が求められている。
- 企業は施行日を待たず、就業規則の改定、研修の実施、相談窓口の周知などの準備を進めることが望ましい。
就活ハラスメントの防止は、学生一人ひとりの尊厳を守るとともに、企業にとっても採用活動の健全性・社会的信用を支える重要なテーマです。制度の詳細や自社の就業規則への落とし込み方について不明な点がある場合は、顧問社会保険労務士など専門家への相談をご検討ください。
参考文献・出典(一次情報)
本記事は、以下の法令条文・厚生労働省告示・行政公表資料に基づいて作成しています。
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第11条、第13条、第14条、第23条、第36条
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第31条、第32条、第42条
- 厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
- 厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
- 厚生労働省「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和6年3月、PwCコンサルティング合同会社委託事業) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001541299.pdf
- 厚生労働省「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001259093.pdf
- 厚生労働省「就活ハラスメント防止対策企業事例集を作成しました!」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31563.html
- 厚生労働省ポータルサイト「あかるい職場応援団」 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
※本記事は2026年8月時点で確認できる情報に基づき作成しています。制度の詳細は今後、厚生労働省令・通達等により明確化される可能性がありますので、最新情報は厚生労働省ホームページ及び所轄の都道府県労働局でご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言に代わるものではありません。
