就活ハラスメントとは?社会保険労務士が解説する定義・事例・企業が取るべき法的対応【2026年最新版】

目次

はじめに

「就活ハラスメント」という言葉を耳にする機会が増えました。就職活動やインターンシップに参加する学生・求職者に対して、企業の採用担当者やリクルーターが優越的な立場を利用してセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントを行う問題です。

厚生労働省の調査では、就職活動中にセクシュアルハラスメントを受けた経験のある人が一定数存在することが明らかになっており、社会的な関心も高まっています。さらに2025年6月には、就活生・求職者に対するセクシュアルハラスメント防止を事業主の法的義務とする改正法が公布され、2026年10月1日から施行されることが決まりました。

本記事では、社会保険労務士の立場から、就活ハラスメントの定義・厚生労働省の調査データ・具体的な事例・現行および改正後の法的根拠を、法令条文や行政官庁が公表している一次資料に基づいて整理します。なお、本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的判断や対応は、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。また、税務に関する内容は取り扱っておりません。

1. 就活ハラスメントとは何か

1-1. 厚生労働省による定義

厚生労働省は、就活ハラスメントについて「就職活動中やインターンシップ中の学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント」と説明しています(厚生労働省「就活ハラスメント防止対策企業事例集」)。

より正式には、厚生労働省委託事業による実態調査の中で「就職活動中又はインターンシップ中の学生に対するセクハラ」を指す用語として「就活等セクハラ」という表現が用いられています(厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」)。つまり「就活ハラスメント」という呼称自体は法令上の正式名称ではありませんが、行政資料・指針の解説においても広く用いられている実務用語です。

立場の弱い学生・求職者の尊厳や人格を不当に傷つける行為であり、決して許されるものではないという位置づけが、厚生労働省の各種資料で一貫して示されています。

1-2. 「オワハラ」との違い

就活ハラスメントと混同されやすい言葉に「オワハラ(就活終われハラスメント)」があります。オワハラは、内定を出す代わりに他社の選考辞退や就職活動の終了を強要する行為を指す俗称で、主にパワーハラスメント的な性質を持ちます。これに対し、就活ハラスメントはセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントの両方を包含するより広い概念として使われている点に留意が必要です。

2. 就活ハラスメントの実態:厚生労働省調査データから

厚生労働省は2012年度以降、概ね数年おきに「職場のハラスメントに関する実態調査」を実施しています。2021年に公表された令和2年度調査から、就活等セクハラも調査対象に加えられました。

2-1. 令和2年度調査の結果

令和2年度の調査結果では、過去に就活等セクハラを経験したと回答した人の割合は約4人に1人に上ることが示されています(厚生労働省委託事業「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)。また、同調査では、就活等セクハラの該当事案の内容として「食事やデートへの執拗な誘い」が最も高い割合を占めたことが報告されています。

2-2. 令和5年度調査の結果

その後に実施された令和5年度調査では、就活等セクハラを経験したと回答した割合が約3人に1人となり、令和2年度調査と比較して増加している点が指摘されています(厚生労働省委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)。行為者としては「インターンシップで知り合った従業員」が多く挙げられ、内容としては性的な冗談やからかいなどが多いことも報告されています。

なお、パワハラ・セクハラ等の他のハラスメント類型については減少傾向が見られる一方、就活等セクハラは増加傾向にあるとされており、採用活動のオンライン化やインターンシップの拡大に伴う接点の多様化が背景として指摘されています。

2-3. 相談の多い業種

令和5年度調査の企業調査では、就活等セクハラに関する相談があった企業の割合が高い業種として、電気・ガス・熱供給・水道業、宿泊業・飲食サービス業、教育・学習支援業が上位に挙げられています(厚生労働省委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)。特定の業種に限られる問題ではなく、幅広い業種で発生し得ることがうかがえます。

3. 就活ハラスメントの具体的な事例

厚生労働省の資料や好事例集の紹介内容を踏まえ、就活ハラスメントに該当し得る行為の類型を整理します。個別の事案が実際に法令上の「ハラスメント」に該当するかどうかは、状況や態様によって判断が分かれるため、以下はあくまで一般的な行為類型の紹介です。

3-1. セクシュアルハラスメント型の事例

  • OB・OG訪問や面談の際に、食事やデートへの執拗な誘いを行う
  • 性的な冗談やからかいの言動を行う
  • 交際関係や身体的特徴について不必要に質問する
  • 面接や懇談の場を私的な誘いの口実として利用する

厚生労働省は、就活ハラスメントにおけるセクシュアルハラスメントについて、若手社員がリクルーターとして活動するOB・OG訪問や面談の場面で起こりやすい傾向があると紹介しています(厚生労働省「就活ハラスメント防止対策企業事例集」)。

3-2. パワーハラスメント型の事例

  • 面接で人格を否定するような発言を行う
  • 応募者の能力や経歴を不必要に侮辱する
  • 内定後に過度な連絡や指示を繰り返し、私生活に過度に立ち入る

これらは、職場におけるパワーハラスメントの6類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)の考え方が、採用選考の場面にも参考として当てはまり得るものです(厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号)。

3-3. オワハラ型の事例

  • 内定と引き換えに、他社の選考辞退や就職活動の終了を強く求める
  • 内定承諾書の即日提出を強要する
  • 他社の選考状況をしつこく聞き出し、辞退を促す

3-4. OB・OG訪問・リクルーター経由の事例

厚生労働省の企業事例集では、リクルーターの行動指針やマニュアルの策定、リクルーターに対する研修の実施が、就活ハラスメント防止の有効な対策として紹介されています(厚生労働省「就活ハラスメント防止対策企業事例集」)。同事例集で取り上げられた企業10社の取組に共通する要素として、「公正な採用選考」に基づいた面接の実施、リクルーターの行動指針・マニュアルの策定、応募者の個人情報の限定利用の3点が挙げられています。

4. 就活ハラスメントに関する現行の法的根拠

4-1. 男女雇用機会均等法とセクハラ防止指針

現行の男女雇用機会均等法11条は、事業主に対し、職場における性的な言動により労働者の就業環境が害されることのないよう、雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けています。この規定に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)では、事業主・上司・同僚だけでなく取引先や顧客等もセクシュアルハラスメントの行為者になり得るとされています(厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。

ただし、現行の均等法11条および同指針が直接の対象とするのは「労働者」であり、就職活動中の学生や求職者そのものを直接の保護対象とする明文規定ではない点が、これまで指摘されてきた法制度上の課題でした。

4-2. 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)

職場におけるパワーハラスメントについては、労働施策総合推進法30条の2第1項が次のとおり定めています。

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

同条2項では、労働者が相談を行ったこと等を理由とする不利益取扱いの禁止も定められています。この規定は令和元年6月5日公布の改正法により新設され、令和2年6月1日から大企業に、令和4年4月1日から中小企業にも適用されています(厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。

4-3. 現行制度における「限界」

前述のとおり、均等法11条・労働施策総合推進法30条の2はいずれも「労働者」を保護対象とする規定であり、採用選考段階の学生・求職者に対する行為を直接の対象とする明文の措置義務規定はこれまで存在しませんでした。厚生労働省の「就活ハラスメント防止対策企業事例集」等による周知・啓発と、企業の自主的な取組に委ねられてきたのが実情です。この状況を受け、後述する法改正が行われました。

5.【最新情報】2026年10月施行 求職者等セクハラ防止措置の義務化

5-1. 改正の概要(令和7年法律第63号)

令和7年6月11日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)が公布されました。この改正により、カスタマーハラスメント対策とあわせて、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる「求職者等セクハラ」)の防止措置が事業主の法的義務となります。施行日は令和8年(2026年)10月1日です(厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。

これにより、これまで各企業の自主的な取組に委ねられていた就活ハラスメント対策のうち、少なくとも性的な言動に起因する問題については、労働者に対するセクハラ防止措置と同様に、法律上の明確な義務として位置づけられることになります。

5-2. 求職者等セクハラ防止指針(令和8年厚労省告示第52号)の内容

上記改正を受け、令和8年2月26日に「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)が告示されました。この指針は厚生労働省の公式サイトで公開されています。

また、厚生労働省の特設ポータルサイト「あかるい職場応援団」では、求職者等に対するセクシュアルハラスメントについて、「求職者等によるその求職活動等において行われる当該事業主が雇用する労働者による性的な言動により当該求職者等の求職活動等が阻害されること」と説明されています(厚生労働省「あかるい職場応援団」求職者等に対するセクシュアルハラスメントの定義に関するページ)。

5-3. 対象となる「求職活動等」の範囲

「あかるい職場応援団」の解説によれば、保護の対象となる「求職者等」には、企業の求人に応募する求職者本人に加え、次のような者が含まれるとされています。

  • 事業主が実施する労働者の採用に資する活動(就職説明会、インターンシップ、OB・OG訪問等)に参加する者
  • 教育実習、看護実習その他の実習を受ける者

つまり、単なる採用選考の応募者だけでなく、インターンシップ参加者やOB・OG訪問者、教育実習生なども保護の対象に含まれる点が特徴です(厚生労働省「あかるい職場応援団」求職者等に対するセクシュアルハラスメントに関するページ)。

厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課が令和8年4月24日に公表した「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」では、こうした対象範囲の解釈を含む実務上の疑義がQ&A形式で整理されています。改正法の施行と同時に適用される事項について、企業担当者は同資料を確認しておくことが望ましいといえます。

5-4. 事業主が講ずべき措置

現行のパワハラ防止指針・セクハラ防止指針が事業主に求めている措置の枠組み(方針の明確化・周知啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシー保護等)は、求職者等セクハラ防止指針においても基本的な考え方として踏襲される内容になっています。具体的な内容は前掲の指針(令和8年厚生労働省告示第52号)に定められているため、施行に向けて自社の就業規則・ハラスメント防止規程・相談窓口の対象範囲を確認しておくことが重要です。

6. 企業が今から取るべき対策

6-1. 方針の明確化と周知

まず、求職者・学生に対するハラスメントを許さないという事業主の方針を明確化し、採用担当者・リクルーター・面接官を含む労働者に周知・啓発することが基本になります。既存の職場におけるハラスメント防止方針に、求職者等を対象に含める形で改定する対応が考えられます。

6-2. 相談窓口の整備

厚生労働省の「就活ハラスメント防止対策企業事例集」で紹介された10社の取組では、就活生が利用できる相談窓口の設置が共通する取組の一つとして挙げられています。労働者向けの既存の相談窓口を求職者等にも開放するか、別途専用窓口を設けるかを含め、体制の整備が求められます。

6-3. リクルーター・面接官への研修

同事例集では、リクルーターの行動指針・マニュアルの策定と、リクルーターに対する研修の実施が有効な対策として紹介されています。特にOB・OG訪問のように、企業の目が届きにくい1対1の場面で発生しやすい傾向が指摘されているため、行動基準を具体的に示すことが重要です。

6-4. 好事例集・行政資料の活用

厚生労働省は「就活ハラスメント防止対策企業事例集」のほか、ポータルサイト「あかるい職場応援団」において、就活ハラスメント対策研修用の資料や動画を公開しています。自社の研修設計にあたっては、これらの一次資料を活用することが、内容の正確性を担保するうえでも有効です。

7. 就活生・求職者が被害に遭った場合の相談先

就職活動中やインターンシップ中にハラスメントを受けた場合、厚生労働省は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーへの相談を案内しています。相談は匿名でも可能とされ、プライバシーは厳守されるとされています(厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。また、厚生労働省委託事業として、就活ハラスメントに関するメール・SNS相談窓口も設けられています。一人で抱え込まず、大学のキャリアセンターや外部の相談窓口も含めて相談することが推奨されます。

8. まとめ

就活ハラスメントは、これまで法令上の明文規定を欠いたまま、企業の自主的な取組と行政の周知・啓発によって対応が図られてきた問題でした。厚生労働省の実態調査では、就活等セクハラを経験したと回答する割合が令和2年度調査の約4人に1人から令和5年度調査の約3人に1人へと増加しており、対策の必要性は一層高まっています。

令和7年法律第63号による改正で、2026年10月1日から求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止措置が事業主の法的義務となることは、企業の採用活動に実務上大きな影響を与える変化です。就業規則やハラスメント防止規程、相談窓口の対象範囲の見直し、リクルーター・面接官への研修など、施行までに準備すべき事項は少なくありません。

自社の対応状況に不安がある場合は、顧問社会保険労務士などの専門家に相談し、行政が公表する指針・通達等の一次情報に基づいた正確な対応を進めることをお勧めします。


参考文献・一次情報(すべて厚生労働省公表資料)

※本記事は2026年8月時点で厚生労働省が公表している法令・指針・調査報告書等の一次情報に基づき作成しています。今後の政省令・指針の改正等により内容が変更される可能性がありますので、最新情報は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案への当てはめや法的判断については、顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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