副業を「業務委託」で始める前に知っておきたい法律知識|社会保険労務士が解説

目次

はじめに

近年、本業を持ちながら「業務委託」という形で副業に取り組む方が増えています。クラウドソーシングサイトの普及やフリーランス向けマッチングサービスの拡大により、企業に雇用されるのではなく、個人事業主として仕事を請け負う働き方は、もはや特別なものではなくなりました。

しかし、「副業=雇用契約」を前提とした情報は世の中に多く出回っている一方で、「副業=業務委託契約」の場合に適用される法律やルールについては、意外と正確に整理されていない情報も見受けられます。業務委託は雇用契約とは法的な性質が大きく異なるため、労働基準法をはじめとする労働関係法令の多くがそのままでは適用されません。その代わりに、令和6年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」など、業務委託契約に特有のルールが存在します。

本記事では、社会保険労務士の立場から、業務委託によって副業を行う際に押さえておくべき法律上のポイントを、厚生労働省・公正取引委員会・中小企業庁など行政官庁が公表している資料や、労働基準法研究会報告などの公的な根拠に基づいて整理します。なお、本記事では税務(確定申告・所得区分等)に関する内容は取り扱いません。税務上の取扱いについては税理士等の専門家にご相談ください。

1. 「業務委託」とはどのような契約か

1-1 業務委託契約の法的な位置づけ

「業務委託契約」という言葉は法律上の正式な契約類型ではなく、実務上の呼称です。民法上は、業務委託契約の多くが「請負契約」(民法第632条)または「委任契約・準委任契約」(民法第643条、第656条)のいずれか、あるいはその混合的な性質を持つ契約として位置づけられます。

  • 請負契約:仕事の完成を目的とし、成果物の納品に対して報酬が支払われる契約
  • 委任契約・準委任契約:一定の事務処理や役務の提供そのものを目的とし、成果物の完成を必須としない契約

いずれの場合も、業務委託契約は当事者間で対等な事業者同士が結ぶ契約であり、雇用契約のように使用者の指揮命令に服する関係を前提としていません。

1-2 雇用契約との根本的な違い

雇用契約(労働契約)では、労働者は使用者の指揮命令の下で労務を提供し、その対価として賃金の支払いを受けます。これに対して業務委託契約では、受託者(副業をする側)は原則として自らの裁量で業務の進め方を決定し、発注者から具体的な指揮命令を受けない立場にあります。

この違いは単なる契約書の名称の問題ではなく、後述するように、労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されるかどうかを左右する重要な分岐点になります。

2. 業務委託は労働基準法の「労働者」に当たるのか

2-1 労働者性の判断基準(昭和60年労働基準法研究会報告)

労働基準法第9条は、同法が適用される「労働者」について「事業又は事務所…に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。しかし、実際の契約が「業務委託」という名称であっても、その実態が雇用契約と変わらない場合には、労働基準法上の「労働者」に該当し、労働基準法の保護を受けることがあります。

この判断基準を整理したのが、旧労働省(現厚生労働省)が策定した「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(昭和60年12月19日)です。同報告では、労働者性の有無は次の2つの基準を総合した「使用従属性」によって判断されるとされています。

  • 指揮監督下の労働であるか(仕事の依頼への諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無など)
  • 報酬が労務の提供に対する対償(賃金)としての性格を持つか

この2つの基準だけで判断が困難な限界的な事例については、事業者性の有無(機械・器具の負担関係、報酬の額など)や専属性の程度といった要素も総合的に考慮して判断するとされています(厚生労働省労働基準局「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」令和6年10月時点)。

2-2 業務委託だからといって労働法が一切適用されないわけではない

ここで重要なのは、「業務委託契約」という契約形式を選んでいても、実態として発注者の指揮命令の下で時間的・場所的に拘束されて働いているような場合には、労働基準法上の「労働者」と判断され、労働基準関係法令(労働時間規制、割増賃金、労災保険など)が適用され得るという点です。副業を業務委託の形で行う場合であっても、発注企業側・受託者側の双方が、契約の名称だけでなく実態を踏まえて注意する必要があります。

3. 副業・兼業の促進に関するガイドラインとの関係

厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定、令和4年7月改定)を公表しており、副業・兼業を行う労働者や、それを認める企業が留意すべき事項を整理しています。

もっとも、このガイドラインが主に想定しているのは、労働者が他の会社に「雇用される」形で副業・兼業を行うケースです。ガイドラインでは、労働者が事業主を異にする複数の事業場で労働する場合の労働時間の通算方法(原則的な労働時間管理の方法、簡便な方法である「管理モデル」)や、健康管理の考え方などが示されています。

これに対し、業務委託契約に基づいて個人事業主として副業を行う場合は、前述のとおり労働基準法上の「労働者」に該当しない限り、このガイドラインが定める労働時間通算の仕組みはそのままでは適用されません。ただし、ガイドラインにおいても、労働者が雇用契約以外の形態(フリーランス、独立、起業など)で副業・兼業を行う場合についても触れられており、健康確保の観点から、労働者本人が自らの就業時間や健康状態を管理することが望ましいとされています。

3-1 本業の就業規則との関係

副業・兼業をする際には、本業の勤務先の就業規則との関係も確認が必要です。厚生労働省が示す「モデル就業規則」では、労働者は勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができるとした上で、事前の届出を求める規定が置かれています。

裁判例においても、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であり、企業が副業を制限できるのは、労務提供上の支障が生じる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう場合、競業により企業の利益を害する場合などに限られると解されています(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」参照、マンナ運輸事件・京都地判平成24年7月13日など)。業務委託により副業を行う場合であっても、本業の会社の就業規則上の届出義務や競業避止に関する規定には注意が必要です。

4. 業務委託で副業をする人を守る「フリーランス新法」

4-1 フリーランス新法の概要

令和6年11月1日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆるフリーランス新法)が施行されました。この法律は、個人が事業者として業務委託を受けて安定的に働くことができる環境を整備することを目的としており、公正取引委員会と中小企業庁、厚生労働省が共同で所管しています。

法律上、保護の対象となるのは「特定受託事業者」、すなわち、従業員を使用していない個人(またはそれに準ずる法人の代表者一人のみの場合等)であり、副業として業務委託を受ける会社員も、要件を満たせばこの「特定受託事業者」に該当します。

4-2 発注事業者に課される主な義務

フリーランス新法では、特定受託事業者に業務委託をする事業者(従業員を使用する事業者)に対して、主に次のような義務が課されています。

  • 業務委託をした際に、給付の内容、報酬の額、支払期日等を書面または電磁的方法により明示する義務(法第3条)
  • 報酬の支払期日を、原則として給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で定め、支払う義務(法第4条)
  • 一定期間(1か月以上)継続する業務委託について、受領拒否・報酬減額・返品・買いたたき・不要な物の購入強制などの禁止行為(法第5条)
  • 募集情報の的確な表示、育児介護等と業務の両立に対する配慮、ハラスメント対策のための体制整備など、特定受託業務従事者の就業環境整備に関する義務(法第12条〜第14条)
  • 契約を中途解除する場合等の事前予告義務(法第16条)

これらの規定は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が公表している「フリーランス・事業者間取引適正化等法の考え方」(令和6年5月)や、各種パンフレットで詳しく解説されています。

4-3 トラブル発生時の相談窓口

フリーランス新法違反が疑われる場合、特定受託事業者は公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が設置する共通の申出受付窓口や、弁護士に無料で相談できる「フリーランス・トラブル110番」(令和2年11月設置)を利用することができます。副業として業務委託を受ける方も、発注事業者との取引でトラブルが生じた場合には、これらの公的な窓口を活用することが可能です。

5. 労災保険の特別加入制度による備え

業務委託契約に基づいて働く個人事業主は、労働基準法上の「労働者」に該当しない限り、労災保険(労働者災害補償保険)の適用対象にはなりません。もっとも、令和6年11月のフリーランス新法施行に合わせて、労災保険の特別加入制度の対象範囲が拡大され、業種・職種を問わず、企業等から業務委託を受けて働くフリーランス(特定フリーランス事業)が特別加入できるようになりました。

特別加入は任意の制度であり、加入を希望する場合は、厚生労働大臣の承認を受けた特別加入団体を通じて手続きを行う必要があります。加入すると、業務中や通勤中のケガ・病気・死亡について、労働者に準じた補償を受けられるようになります。副業を業務委託で行う方にとっても、本業とは別に、業務委託先での業務に伴うリスクに備える選択肢として押さえておく価値があります。

6. 社会保険・雇用保険との関係

6-1 健康保険・厚生年金保険

健康保険・厚生年金保険(社会保険)は、適用事業所に「使用される」者を被保険者とする制度です。業務委託契約に基づく副業収入は、労働基準法上の労働者性が認められない限り、原則として社会保険の被保険者資格の取得事由にはなりません。本業の会社で社会保険に加入している場合、業務委託による副業収入があっても、その副業先で新たに社会保険に加入することは通常ありません。

6-2 雇用保険とマルチジョブホルダー制度

雇用保険についても、業務委託契約に基づく就労は、労働者として「雇用される」ことを前提とする雇用保険の適用対象にはなりません。なお、参考情報として、65歳以上の方が複数の事業所に「雇用」されている場合には、2つの事業所の労働時間を合算して一定要件を満たすことで、本人の申出により雇用保険に加入できる「雇用保険マルチジョブホルダー制度」(令和4年1月1日施行)がありますが、これはあくまで複数の雇用契約を前提とした制度であり、業務委託による副業には適用されません。

7. まとめ:業務委託で副業を行う際のチェックポイント

業務委託の形で副業を行う場合、雇用契約を前提とした労働関係法令の多くはそのままでは適用されませんが、それは「何のルールもない」ということを意味しません。むしろ、フリーランス新法という業務委託契約に特化した法律が整備されたことで、書面等による契約内容の明示や、報酬の支払期日、禁止行為に関する新たなルールが定められています。

副業を業務委託で行おうとする方、また副業人材に業務委託を行おうとする企業の担当者の方は、次の点を確認しておくとよいでしょう。

  • 契約の実態が「業務委託」ではなく「雇用」に近いものになっていないか(指揮命令の程度、時間的・場所的拘束の有無)
  • 業務委託契約の内容が書面または電磁的方法で明示されているか(フリーランス新法第3条)
  • 報酬の支払期日等の取引条件が適正に定められているか
  • 本業の就業規則上、副業に関する届出や許可の手続きが必要とされていないか
  • 労災保険の特別加入など、業務委託ならではのリスクへの備えを検討したか

業務委託と雇用契約とでは、適用される法律も、企業・個人それぞれが負う義務やリスクも大きく異なります。副業を検討する際は、契約書の名称だけで判断せず、実態を踏まえて慎重に確認することが大切です。ご不明な点がある場合は、社会保険労務士など専門家への相談をご検討ください。


参考資料・出典

※本記事は、上記の法令・行政資料等をもとに、社会保険労務士の立場から一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。個別の契約内容や事案の判断については、顧問社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。また、本記事では税務に関する事項は取り扱っておりません。

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