副業はなぜ禁止されるのか?社会保険労務士が法的根拠から徹底解説

「副業をしたいけれど、就業規則で禁止されている」「そもそも会社はなぜ副業を禁止できるのか」——このような疑問をお持ちの会社員・人事労務担当者の方は少なくありません。

結論から先にお伝えすると、現在の裁判実務および厚生労働省の公式見解では、「副業・兼業は原則として自由」とされています。企業が副業を一律に禁止できる法律上の直接的な根拠は、実は存在しません。それにもかかわらず「禁止」とする企業が多いのは、就業規則という契約上のルールと、過去の裁判例が認めてきた「例外的な制限事由」によるものです。

本記事では、社会保険労務士の立場から、労働基準法・労働契約法の条文、厚生労働省が公表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」、および実際の裁判例といった客観的根拠にのみ基づいて、副業がなぜ禁止(制限)されるのか、その法的な構造をわかりやすく解説します。なお、本記事では税務(確定申告等)に関する内容には触れておりませんので、税務面については税理士等の専門家にご相談ください。

目次

1. そもそも「副業」に法律上の定義はあるのか

まず押さえておきたいのは、労働基準法をはじめとする労働関係法令には、「副業」「兼業」という言葉自体を直接規制する条文が存在しないという点です。副業を行うかどうかは、労働契約上の「勤務時間外」という私生活の時間の使い方の問題であり、法律が真正面から禁止・許可を定めているわけではありません。

そのため、副業ができるかどうかは、①各企業の就業規則にどう定められているか、②その就業規則の定めが裁判例上有効と認められる範囲に収まっているか、という2つの視点で判断する必要があります。

2. 副業は「労働者の自由」が大原則――裁判例が示す基本ルール

厚生労働省が公表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和4年7月最終改定)では、副業・兼業に関する裁判例の到達点として、次のように整理されています。

副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされています。

これは、労働契約は労働者の生活全体を拘束するものではなく、あくまで所定労働時間内の労務提供に関する契約であるという考え方に基づいています。憲法が保障する職業選択の自由(憲法第22条第1項)の趣旨とも整合的な整理といえます。

2-1. 副業を制限できる「4つの例外事由」

もっとも、労働者の自由が「無制限」というわけではありません。同ガイドラインでは、企業が副業・兼業を制限することが許されるのは、次の4つの場合に限られるとされています。

  1. 労務提供上の支障がある場合(本業の業務に具体的な支障が生じる場合)
  2. 業務上の秘密が漏洩する場合
  3. 競業により自社の利益が害される場合
  4. 自社の名誉や信用を損なう行為・信頼関係を破壊する行為がある場合

この4類型は、後述する裁判例の積み重ねをもとに厚生労働省が整理したものであり、就業規則に副業禁止・制限規定を設ける場合も、この範囲を超える制限は無効と判断されるリスクがあります。

3. 副業を巡る代表的な裁判例

抽象的なルールだけでは実務のイメージが湧きにくいため、実際に副業・兼業が争点となった裁判例を紹介します。

3-1. 十和田運輸事件(東京地裁判決 平成13年6月5日)

運送会社の運転手が、年に1〜2回程度、貨物運送のアルバイトを行ったことを理由に解雇された事案です。裁判所は、その頻度では会社の業務に具体的な支障が生じたとはいえず、職務専念義務違反や信頼関係の破壊があったとまではいえないとして、解雇を無効と判断しました。回数がごく限られ、実害が生じていない副業を理由とする解雇には、裁判所が慎重な姿勢を示していることがわかります。

3-2. マンナ運輸事件(京都地裁判決 平成24年7月13日)

運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4回にわたって不許可としたことが争われた事案です。裁判所は、労働者は勤務時間外の時間を事業場の外で自由に利用できるのが原則であり、会社が正当な理由なく副業を不許可とし続けたことについて、不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料)を一部認容しました。許可制を採用している企業であっても、合理的理由のない不許可は違法となり得ることを示した事案です。

3-3. 東京都私立大学教授事件(東京地裁判決 平成20年12月5日)

大学教授が無許可で同時通訳業務や語学学校講師を行い、講義を休講したことを理由に懲戒解雇された事案です。裁判所は、副業が夜間・休日に行われており本業への具体的な支障が認められないことなどから、懲戒解雇を無効と判断しました。

3-4. その他の参考裁判例

このほか、厚生労働省の審議会資料では、小川建設事件(東京地裁判決 昭和57年11月19日)や橋元運輸事件(名古屋地裁判決 昭和47年4月28日)などが、例外的に副業の制限が認められた裁判例として紹介されています。これらは、副業による極度の長時間労働や、無断兼業により職場の企業秩序に具体的な影響が生じた事案とされています。

これらの裁判例を総合すると、副業を理由とする不許可・懲戒処分・解雇が有効と認められるのは、あくまで「本業への具体的な支障」等の実質的な問題が認められる場合に限られるというのが、裁判実務の一貫した傾向であることがわかります。

4. 厚生労働省「モデル就業規則」の大転換

前述の裁判例の考え方を踏まえ、厚生労働省が各企業に参考として提供している「モデル就業規則」も、大きく方向転換しています。

かつてのモデル就業規則では、労働者の遵守事項として「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という原則禁止型の規定が置かれていました。

しかし、平成29年3月の「働き方改革実行計画」の決定を受け、平成30年1月の改定でこの規定は削除され、現行のモデル就業規則(令和4年11月版)では次のような規定に置き換えられています。

第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

つまり、条文構造そのものが「原則禁止・例外許可」から「原則容認・例外制限」へと逆転したのです。この4つの制限事由は、前述したガイドラインの4類型(労務提供上の支障、秘密漏洩、競業、名誉信用毀損)と同一の内容です。

もちろんモデル就業規則はあくまで「ひな型」であり、各企業が独自に副業を届出制・許可制とすることや、一定の制限規定を設けること自体は可能です。しかし、合理的な理由のない一律禁止規定は、前述の裁判例に照らして無効と判断されるリスクがある点に留意が必要です。

5. 企業側の視点:なぜ「一律禁止」にしてきたのか

ここまで見ると「副業は原則自由」という結論ですが、実務上、企業が副業を禁止・制限したくなる理由にも合理性があります。厚生労働省のガイドラインでは、企業が副業・兼業を認めるにあたり負う法的義務として、主に次の3点を挙げています。

5-1. 安全配慮義務(労働契約法第5条)

労働契約法第5条は、使用者に対し、労働者の生命・身体等の安全に配慮する義務を課しています。副業により労働者の総労働時間が過重になり、健康被害が生じた場合、本業の使用者も安全配慮義務違反を問われ得るとされています。

5-2. 秘密保持義務・競業避止義務・誠実義務

労働契約に付随する信義則(労働契約法第3条第4項)に基づき、労働者は使用者に対して秘密保持義務や競業避止義務を負っていると解されています。副業先で自社の営業秘密が漏洩したり、同業他社で就労することで自社の利益が害されたりする場合には、これらの義務違反として副業を制限する根拠になり得ます。

5-3. 労働時間の通算義務(労働基準法第38条第1項)

企業が副業を認める際に最も実務負担が大きいのが、労働時間の通算です。労働基準法第38条第1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しており、この「事業場を異にする場合」には事業主が異なる場合も含まれるという解釈が、古くからの行政通達(労働基準局長通達 昭和23年5月14日付基発第769号)で示されています。

つまり、労働基準法の適用を受ける労働者が副業を行う場合、本業と副業の労働時間は通算され、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える部分は、時間的に後から契約した会社での時間外労働として扱われ、割増賃金(労働基準法第37条第1項)の支払義務が発生します。さらに、時間外労働と休日労働の合計について「単月100時間未満・複数月平均80時間以内」とする上限規制(労働基準法第36条第6項)も、通算した労働時間に適用されます。

この通算管理の煩雑さを軽減するため、ガイドラインでは「管理モデル」という簡便な労働時間管理の方法も示されています。これは、本業・副業それぞれの使用者があらかじめ労働時間の上限を設定し合うことで、相手方の実労働時間を逐一把握しなくても法令を遵守できる仕組みです。

こうした義務の存在が、企業が副業を「許可制」にしたり、届出を求めたりする実務上の合理性の源泉となっています。ただし、これらはあくまで「適切に管理するための制度設計」の話であり、「一律禁止」を正当化する理由にはならないという点が重要です。

6. 副業・兼業に関連するその他の制度

副業を行う場合、労働時間管理以外にも、以下の制度上の取扱いに留意が必要です。

  • 労災保険:複数の会社で働く労働者が業務災害・通勤災害に遭った場合、令和2年の雇用保険法等の一部改正(令和2年法律第14号)により、非災害発生事業場の賃金額も合算して保険給付額が算定される仕組みが導入されています。また、複数就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う仕組みも整備されています。
  • 雇用保険:原則として、生計を維持するための主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。65歳以上の労働者については、本人の申出により複数の事業所の労働時間を合算して適用する制度が試行的に運用されています。
  • 社会保険(厚生年金保険・健康保険):適用要件は事業所ごとに判断されます。複数の事業所で被保険者要件を満たす場合は、いずれかの事業所を選択したうえで、各事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額が算定されます。

これらの制度も、副業を行う労働者・企業双方にとって実務上重要な論点ですが、いずれも「副業自体を禁止する根拠」ではなく、「副業を行う場合の取扱いを定めるルール」である点に注意してください。

7. まとめ:社会保険労務士からのアドバイス

最後に、社会保険労務士の立場から、本記事の要点を整理します。

  • 副業・兼業を直接禁止する法律上の規定は存在せず、裁判実務・行政ガイドラインともに「原則自由」という立場をとっています。
  • 企業が副業を制限できるのは、①労務提供上の支障、②秘密漏洩、③競業による利益侵害、④名誉・信用毀損や信頼関係の破壊、という4類型に該当する場合に限られます。
  • 厚生労働省のモデル就業規則も、平成30年の改定以降「原則禁止」から「原則容認・例外制限」の規定へと転換しています。
  • 副業を認める場合、企業には安全配慮義務・秘密保持義務等への対応に加え、労働基準法第38条第1項に基づく労働時間の通算管理という実務上の対応が求められます。

企業の人事労務担当者の方は、自社の就業規則が「一律禁止型」のまま据え置かれていないか、この機会に見直すことをおすすめします。合理的な理由のない一律禁止規定は、前述の裁判例に照らしてトラブルの原因となりかねません。就業規則の改定や労働時間通算の実務対応については、社会保険労務士等の専門家に相談しながら進めることが望ましいでしょう。


参考文献・出典

本記事は、以下の法令・行政資料・裁判例情報に基づいて作成しています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。個別の労務対応については、顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。 ※本記事では税務(確定申告等)に関する事項は取り扱っておりません。税務面については税理士等の専門家にご相談ください。

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