副業と雇用保険はどうなる?加入条件・二重加入・労働時間通算・労災まで社労士が徹底解説

副業・兼業を始める、あるいは副業先で従業員を受け入れる場面で、多くの方が疑問を抱くのが「雇用保険はどうなるのか」という点です。「副業先でも雇用保険に入れるのか」「本業と副業の両方で保険料が引かれるのか」「万が一のケガや失業のときはどうなるのか」——これらは制度の仕組みを正確に理解していないと誤解が生じやすいテーマです。

本記事では、社会保険労務士の立場から、雇用保険法・労働基準法・労働者災害補償保険法など根拠法令や厚生労働省の公表資料に基づき、副業・兼業と雇用保険(および関連する労災保険)の関係を体系的に整理します。特定の働き方を推奨したり不安を煽ったりする内容ではなく、制度の正確な理解を目的とした中立的な解説であることをあらかじめお断りしておきます。なお、本記事では税務に関する内容は扱いません。

目次

1. 雇用保険とは何か——制度の目的と全体像

雇用保険は、労働者が失業した場合や、育児・介護などにより雇用の継続が困難になった場合に必要な給付を行うことで、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進することを目的とした政府管掌の社会保険制度です。手続きの窓口は全国のハローワーク(公共職業安定所)が担っています。

雇用保険は「強制保険制度」であり、適用事業所に雇用され、後述する一定の要件を満たす労働者については、本人の意思にかかわらず加入させる義務が事業主に課されています。この点は正社員・パート・アルバイトといった雇用形態の違いによって左右されるものではありません。

2. 雇用保険の基本的な加入要件

雇用保険法上、被保険者となるための一般的な要件は次の2点です。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 同一の事業主のもとで31日以上雇用されることが見込まれること

この要件は、厚生労働省が公表しているリーフレット「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」でも明示されており、雇用形態を問わず、この2要件をいずれも満たす労働者は雇用保険の被保険者となります。逆に、いずれか一方でも満たさない場合は、原則として雇用保険法第6条の定める適用除外に該当し、加入義務は生じません(雇用保険法第6条。学生であるアルバイトなど、別途適用除外とされる場合もあります)。

なお、2017年(平成29年)1月1日施行の雇用保険法改正により、雇用保険の加入における上限年齢は撤廃されており、65歳以上の労働者であっても、上記の要件を満たせば「高年齢被保険者」として雇用保険の対象となります。

3. 副業・兼業をしている場合、雇用保険は「二重加入」できるのか

副業・兼業を検討する際に最も誤解が生じやすいのがこの点です。結論として、雇用保険は同時に複数の事業所で二重に加入することができません。健康保険・介護保険・厚生年金保険とは異なり、雇用保険はあくまで「生計を維持するために必要な主たる賃金を受ける一つの事業所」でのみ適用される仕組みになっているためです。

具体的なパターンを整理すると、次のように分類できます。

3-1. 本業(正社員等)ですでに雇用保険に加入している場合

本業先で週20時間以上・31日以上の雇用見込みという要件を満たしてすでに雇用保険に加入している労働者が、副業先でも新たに雇用契約を結んで働く場合、副業先の労働時間が週20時間以上に達していたとしても、二重に加入することはできません。この場合、被保険者資格は先に取得した本業側の事業所に置かれたままとなります。副業先の担当者が誤って二重に資格取得手続を行ってしまうことのないよう、副業を行っている旨、及びすでに雇用保険に加入済みである旨を副業先に申し出ておくことが実務上望ましい対応です。

3-2. 副業先の所定労働時間が週20時間未満の場合

副業先での所定労働時間が週20時間に満たない場合は、そもそも雇用保険の加入要件(週20時間以上)を満たさないため、副業先での雇用保険加入は生じません。この場合、副業による雇用保険料の追加負担も発生しません。

3-3. 複数の副業先の労働時間がいずれも週20時間未満の場合(65歳以上の例外)

原則として、複数の職場の労働時間を合算して雇用保険の加入要件を判定することはできません。しかし、この原則には後述する「雇用保険マルチジョブホルダー制度」という重要な例外が設けられています。

4. 【重要】雇用保険マルチジョブホルダー制度(65歳以上の特例)

2020年(令和2年)の雇用保険法改正により、2022年(令和4年)1月1日から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が施行されています。これは、複数の事業所で働く65歳以上の労働者を対象に、通常は加入要件を満たさない働き方であっても、一定の条件のもとで特例的に雇用保険への加入を可能にする制度です。

4-1. 制度の適用要件

厚生労働省の公表資料によれば、マルチ高年齢被保険者となるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。

  • 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  • 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間がそれぞれ5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 2つの事業所それぞれについて、雇用見込みが31日以上であること

4-2. 手続きの特徴

この制度で特徴的なのは、通常の雇用保険のように事業主が資格取得の手続きを行うのではなく、労働者本人がハローワークに申出を行うという点です。申出を行った日から特例的に被保険者(マルチ高年齢被保険者)としての資格が発生します。事業主には、労働者から求められた場合に雇用の事実や所定労働時間等の証明を行う義務があり、また、この申出を理由として労働者に対し解雇や労働条件の不利益変更といった不利益な取扱いを行うことは認められません。

なお、加入後の任意脱退は認められておらず、いずれかの事業所で雇用契約が終了するなど要件を満たさなくなった場合を除き、任意に加入事業所を切り替えることもできない点に留意が必要です。

5. 副業・兼業と労働時間の通算——割増賃金にも影響

雇用保険とあわせて、副業・兼業を行う労働者や、副業人材を受け入れる企業が正確に理解しておくべきなのが「労働時間の通算」というルールです。

労働基準法第38条第1項は、労働時間について「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。そして、この「事業場を異にする場合」には、同一事業主のもとでの複数事業場だけでなく、事業主を異にする場合も含まれることが、古くからの行政解釈(労働基準局長通達 昭和23年5月14日付け基発第769号)によって示されています。

この解釈は、厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月及び令和4年7月改定)においても踏襲されており、労働者が労働基準法上の労働者として複数の事業場で働く場合、企業は自社の労働時間と副業・兼業先の労働時間を通算して法定労働時間との関係を管理する必要があるとされています。具体的には、契約締結の順序に従って所定労働時間を通算し、後から契約した事業場での労働時間が法定労働時間を超える部分については、時間外労働の割増賃金支払義務が生じ得る、という考え方が採られています。

ただし、この労働時間通算のルールが及ぶのは、あくまで労働基準法上の「労働者」に該当する働き方をしている場合に限られます。フリーランスとして請負・委託契約で副業を行う場合や、管理監督者・機密の事務を取り扱う者など労働時間規制の適用が除外される者については、通算の対象外です。また、副業・兼業の内容把握にあたっては、労働者に対して必要以上の情報提供を求めないよう配慮することも、同ガイドラインが示す留意点の一つです。

なお、副業・兼業に関する労働時間通算や割増賃金制度のあり方については、現在も厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会において、実務上の負担等を踏まえた見直しの要否が継続的に議論されている段階にあります。今後の制度動向についても、注視が必要な分野といえます。

6. 副業・兼業中の労災保険の取扱い——複数事業労働者への保険給付

雇用保険とあわせて労働保険を構成するのが労災保険(労働者災害補償保険)です。副業・兼業を行う労働者の労災保険についても、2020年(令和2年)9月1日施行の労働者災害補償保険法改正により、大きな見直しが行われています。

6-1. 賃金額の合算

改正前は、労災が発生した勤務先(災害発生事業場)の賃金のみを基礎として、休業補償給付などの保険給付額が算定されていました。しかし2020年9月1日以降に発生した傷病等については、複数の事業主のもとで働く「複数事業労働者」の保険給付額は、すべての就業先の賃金額を合算した額を基礎として決定されることになりました。これにより、一つの事業場だけの賃金で算定していた場合よりも、実態に即した給付水準が確保されることになります。

6-2. 複数業務要因災害の新設

同改正では、給付基礎日額の算定方法の見直しに加え、「複数業務要因災害に関する保険給付」という新たな保険給付類型も設けられました。これは、いずれか一つの事業場における業務上の負荷だけでは労災認定の基準に至らない場合であっても、事業主を異にする複数の事業場における業務上の負荷(労働時間や心理的負荷等)を総合的に評価することで、労災認定を行うことを可能にする仕組みです。脳・心臓疾患や精神障害の労災認定において、副業による負荷の集積が問題となり得るケースを想定した制度といえます。

これらの取扱いは、厚生労働省が公表しているリーフレット「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」に整理されており、対象となるのは、けが・病気の原因発生時点で事業主を異にする複数の事業場に同時に就業していた労働者(特別加入者を含む)です。一方、一つの事業場のみで就業している労働者の労災保険給付の取扱いは、この改正によって変更されていません。

7. 失業給付との関係——副業をしながら基本手当は受け取れるか

もう一点、副業・兼業に関連してよく質問が寄せられるのが、雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)と副業の関係です。

基本手当は、あくまで「失業の状態にあること」を前提とした給付です。ハローワークの実務上、1日4時間以上または週20時間以上といった一定以上の労働を行っている場合には「就労(就職)」とみなされ、その日は基本手当の支給対象から外れる取扱いとなります。基本手当の受給中に副業やアルバイトを行うこと自体が一律に禁止されているわけではありませんが、収入や労働時間の状況を正しく申告しないまま基本手当を受給した場合には、不正受給として厳しい返還・納付命令等の対象となり得るため、収入があった場合には失業認定の際に正確に申告することが不可欠です。

また、本業を退職した後も、副業からの収入によって生計が維持できる状態にある場合は、「失業の状態」に該当しないと判断され、原則として基本手当の対象とはなりません。フリーランスや個人事業主として独立する場合も同様に、就労・所得の実態に応じて受給の可否が判断されます。

8. 企業の実務担当者が押さえておくべきポイント

最後に、副業・兼業を認める企業の実務担当者向けに、雇用保険・労災保険に関する留意点を整理します。

  • 副業の届出・申告の仕組みを整えること:労働時間の通算管理や労災保険の適切な適用のためには、労働者からの自己申告により副業・兼業先での就業状況を把握する体制が前提となります。厚生労働省のガイドラインも、労使双方での事前の情報共有を推奨しています。
  • 雇用保険の二重加入を防ぐ確認を行うこと:新たに雇い入れる人材が他の事業所ですでに雇用保険に加入していないか確認し、必要に応じて雇用保険被保険者証等で確認することが望まれます。
  • マルチジョブホルダー制度の対象者への協力:65歳以上の従業員からマルチジョブホルダー制度の申出に必要な証明を求められた場合、事業主は速やかに対応する義務があり、申出を理由とする不利益取扱いは禁止されています。
  • 健康確保措置への配慮:労働時間の通算規制が及ばない場合であっても、長時間労働による健康障害を防止する観点から、副業・兼業先での就業状況を把握し、過重労働とならないよう配慮することが労働契約法第5条の安全配慮義務の観点からも求められます。

9. まとめ

副業・兼業と雇用保険の関係は、「原則として二重加入はできない」という基本ルールを起点に、「65歳以上を対象としたマルチジョブホルダー制度」という重要な例外、そして労働基準法第38条に基づく「労働時間の通算」、2020年改正による「複数事業労働者の労災保険給付」という、複数の制度が組み合わさって成り立っています。それぞれの制度は根拠となる条文や厚生労働省の通達・ガイドラインが明確に存在しており、感覚的な理解ではなく、根拠に基づいた正確な整理が欠かせません。

副業・兼業を検討している方、あるいは副業人材の受け入れを検討している企業の担当者の方は、本記事で触れた各制度の要件を確認したうえで、個別の事情については所轄のハローワークや、社会保険労務士などの専門家に相談されることをおすすめします。


参考文献・出典

※本記事は一般的な制度の解説を目的としたものであり、個別の事案への適用可否を保証するものではありません。具体的な取扱いについては、所轄のハローワークまたは顧問社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

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