副業とは?定義と法律上の位置づけを社会保険労務士が解説

目次

はじめに

「副業」という言葉は、ニュースや求人サイト、社内制度の案内などで日常的に目にするようになりました。しかし、いざ「副業とは何か」を正確に説明しようとすると、意外と難しいと感じる方は多いのではないでしょうか。

実は、「副業」という言葉には、法律上の明確な定義は存在しません。それにもかかわらず、社会保険・労働保険・労働時間管理など、実務上は非常に重要な取扱いが数多く定められています。本記事では、社会保険労務士の立場から、法令・通達・行政官庁の公表資料等の根拠に基づき、「副業」という言葉の位置づけと、それに伴う実務上の取扱いを整理して解説します。

なお、本記事では税務(所得税・住民税・確定申告等)に関する内容は取り扱いません。税務に関するご相談は税理士等の専門家にご確認ください。

「副業」に法令上の定義はあるのか

結論から言うと、労働基準法をはじめとする労働関係法令、健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法、労働者災害補償保険法のいずれにも、「副業」という用語そのものを定義する条文はありません。

一方で、厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定、令和4年7月改定)は、企業や働く方が現行の法令のもとでどのような事項に留意すべきかを整理した行政上の指針として、実務上の重要な拠り所となっています。このガイドラインでは、副業・兼業を「本業以外の就業」として位置づけ、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であるという考え方を前提に、企業と労働者双方が安心して副業・兼業に取り組めるようルールの明確化を図っています。

つまり、「副業」は法律用語ではなく、実務・行政上の呼称として使われている言葉であり、その内実は「本業となる主たる勤務先を持ちながら、それ以外の場所・形態で就労すること」を指す、と整理することができます。

副業・兼業・複業・ダブルワークの違いを整理する

実務上、「副業」と似た言葉として「兼業」「複業」「ダブルワーク」が使われることがあります。これらについても法令上の統一的な定義はありませんが、一般的には次のようなニュアンスで使い分けられることが多いとされています。

  • 副業:本業を主としつつ、それを補う形で行う仕事
  • 兼業:複数の仕事を並行して行うこと。副業とほぼ同義で使われることが多い
  • 複業:どちらも主業として並行して行う働き方を指すニュアンスで使われることがある
  • ダブルワーク:主にアルバイト・パートなど雇用形態を問わず掛け持ちで働くことを指す口語的な表現

厚生労働省のガイドラインでは「副業・兼業」という表記が一貫して用いられており、法令・行政上の整理としては「副業」と「兼業」を特に区別せず、同じ枠組みで取り扱っていると理解してよいでしょう。企業が就業規則等でルールを定める際には、社内でどの言葉をどの働き方に対応させるかをあらかじめ整理しておくことが望ましいといえます。

厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の位置づけ

このガイドラインが策定された背景には、政府の働き方改革実行計画において示された「副業・兼業を希望する方は近年増加している一方、これを認める企業は少ない」という課題認識があります。労働者の健康確保に留意しつつ、原則として副業・兼業を認める方向で普及促進を図るという方針のもと、平成30年1月にガイドラインが策定されました。

あわせて、厚生労働省はモデル就業規則を改定し、それまであった「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」という規定に改めています。これは、副業・兼業を制限するのではなく、原則として認める方向に社会の枠組みを転換していく姿勢を明確に示したものといえます。

ガイドラインでは、副業・兼業の裁判例を踏まえ、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であり、企業がこれを制限できるのは、労務提供上の支障がある場合、業務上の秘密が漏洩する場合、競業により自社の利益を害する場合、自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合など、合理的な理由がある場合に限られると解されています。

労働基準法第38条にみる「労働時間の通算」という考え方

副業・兼業を検討するうえで最も重要な法令上の根拠のひとつが、労働基準法第38条です。同条第1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しています。

この「事業場を異にする場合」については、事業主を異にする場合も含むと解釈されています。これは、労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号)により示された行政解釈であり、現在に至るまで踏襲されています。つまり、労働者が自社と副業先の両方で「雇用」されている場合には、それぞれの事業場での労働時間を通算して、法定労働時間(原則として1日8時間・1週40時間)や時間外労働の上限規制等の適用を考える必要がある、ということです。

このため、企業が労働者の副業・兼業を認める場合には、労働者からの自己申告等により副業先での労働時間を把握し、通算した労働時間が法定労働時間を超える場合の割増賃金の取扱いなどを整理しておく必要があります。ガイドラインでは、実務上の目安として「原則的な労働時間管理の方法」と、労使双方の手続き負担を軽減する「簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)」の2つの考え方が示されています。

なお、労働者が事業主や労働基準法上の管理監督者の立場で副業・兼業を行う場合や、フリーランス・業務委託など「雇用」以外の形態で副業を行う場合には、労働基準法の労働時間規制がそのまま適用されるわけではありません。もっとも、この場合であっても、過重労働による健康障害を防ぐ観点から、就業時間を把握し、長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています。

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の取扱いと「二以上事業所勤務届」

副業先でも雇用され、それぞれの事業所で健康保険・厚生年金保険の加入要件(いわゆる社会保険の適用要件)を満たす場合には、労働者は同時に2か所以上の事業所で被保険者資格を取得することになります。この場合、労働者本人が「所属選択・二以上事業所勤務届」を作成し、主たる事業所として選択する事業所を管轄する年金事務所(健康保険組合に加入する場合は当該組合を経由)に提出する必要があります。

日本年金機構の案内によれば、この届出により、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した額をもとに標準報酬月額が決定されます。決定された標準報酬月額に厚生年金保険料率や、選択した事業所が適用される健康保険料率を乗じて算出した保険料額は、各事業所で支払われる報酬額の比率に応じて按分され、それぞれの事業所が負担・納付する仕組みとなっています。

たとえば、A事業所で月額20万円、B事業所で月額10万円の報酬を得ている場合、合算した30万円をもとに標準報酬月額が決定され、算出された保険料をA事業所が3分の2、B事業所が3分の1の割合で負担する、という按分が行われることになります。この届出を怠ると、資格取得の手続きや保険料の精算が事後的に発生し、給与計算の修正など事務負担が大きくなるおそれがあるため、副業先でも社会保険の加入要件を満たす見込みがある場合には、早めの手続きが重要です。

雇用保険の取扱いと「雇用保険マルチジョブホルダー制度」

雇用保険については、原則として一人の労働者が同時に複数の事業所で被保険者になることはできず、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける一つの事業所においてのみ、被保険者となる取扱いとなっています。副業・兼業を行っていても、雇用保険に加入できるのは通常いずれか一つの事業所に限られる点は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の取扱いと大きく異なる点であり、実務上、混同しないよう注意が必要です。

もっとも、65歳以上の労働者については例外的な取扱いがあります。令和4年1月1日から施行された「雇用保険マルチジョブホルダー制度」では、複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者について、(1)2つの事業所(いずれも1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満であること)の労働時間を合算して1週間の所定労働時間が20時間以上となること、(2)2つの事業所それぞれの雇用見込みが31日以上であることなどの要件を満たす場合に、本人がハローワークに申し出ることで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができます。

この制度は、通常の雇用保険の適用要件(1つの事業所で週20時間以上)を満たさない高年齢労働者について、複数就業による労働時間の合算を認めることで、雇用のセーフティネットを拡充する目的で創設されたものです。制度の施行後5年を目途に効果等が検証される予定とされています。

労災保険(複数事業労働者への保険給付)の取扱い

労働者災害補償保険法は、令和2年9月1日施行の改正により、複数の事業場で働く労働者(複数事業労働者)に関する保険給付の算定方法を見直しました。改正前は、労働災害が発生した事業場の賃金額のみを基礎として保険給付額が算定されていましたが、改正後は、複数の事業場等の賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が算定される仕組みに改められています。

この改正の対象となるのは、休業(補償)等給付、障害(補償)等給付、遺族(補償)等給付、葬祭料等、傷病(補償)等年金など、給付基礎日額を用いて算定される主要な保険給付です。厚生労働省が公表している解説資料の例では、A社から月20万円、B社から月10万円の賃金を受けている複数事業労働者について、それぞれの給付基礎日額を算定したうえで合算し、休業給付等の額を算定する具体的な計算例が示されています。

また、この改正にあわせて、複数の事業の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定を行う「複数業務要因災害」という考え方も導入されました。いずれの事業場における負荷を個別に見れば労災認定の基準に至らない場合であっても、複数の事業場における負荷を総合的に評価することで、労働災害として認定される場合があるという点は、副業・兼業を行う労働者やその使用者にとって重要な制度変更といえます。

企業が副業・兼業を導入する際に留意すべきポイント

以上を踏まえ、企業が副業・兼業を制度として認める場合に留意すべき点を整理します。

第一に、就業規則等において、副業・兼業に関する届出・許可等の手続きを明確に定めることです。厚生労働省のガイドラインは、労働者の健康確保や労務提供上の支障の有無を確認するため、副業・兼業の内容等を労働者に自己申告・届出させることが望ましいとしつつも、その確認にあたっては必要以上の情報を労働者に求めないよう留意すべきであるとしています。

第二に、労働時間を通算して管理する必要がある場合(労働者が副業先でも「雇用」される場合)には、法定労働時間や時間外労働の上限規制、割増賃金の取扱いについて、あらかじめ社内のルールを整理しておくことです。

第三に、社会保険・雇用保険・労災保険それぞれで取扱いが異なる点を正確に理解し、該当する手続き(二以上事業所勤務届など)を適切なタイミングで行うことです。特に社会保険については、届出が遅れると保険料の遡及徴収など事務負担が生じる可能性があるため、人事労務担当者は副業・兼業を行う従業員の状況を早期に把握できる体制を整えておくことが望まれます。

まとめ

「副業」という言葉自体には法令上の明確な定義はありませんが、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」により「本業以外の就業」という形で実務上の位置づけが与えられ、労働基準法第38条による労働時間の通算、社会保険における二以上事業所勤務の取扱い、雇用保険マルチジョブホルダー制度、労災保険における複数事業労働者への給付など、法令・通達に基づく具体的なルールが数多く整備されています。

副業・兼業を検討する労働者にとっても、これを制度として受け入れる企業にとっても、こうした法令・行政解釈に基づく正確な理解が、トラブルを未然に防ぐための第一歩となります。ご自身の状況に即した個別具体的な取扱いについては、最寄りの年金事務所・ハローワーク・労働基準監督署、または社会保険労務士等の専門家にご相談されることをおすすめします。


参考文献・出典

※本記事は、上記の法令・通達・行政官庁公表資料に基づき、令和8年8月時点の情報を整理したものです。制度は改正される可能性があるため、最新の内容は各行政官庁の公表情報をご確認ください。また、本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。

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