カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?2026年10月義務化に向けて社労士が解説する企業対応の全知識

目次

はじめに

近年、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉を耳にする機会が急激に増えました。飲食業や小売業、コールセンター、医療・福祉、公共サービスなど、顧客と直接接する業種を中心に、悪質なクレームや迷惑行為によって従業員が精神的・身体的な苦痛を受けるケースが社会問題化しています。

こうした状況を受け、国は労働施策総合推進法を改正し、2026年(令和8年)10月1日から、事業主にカスタマーハラスメント防止措置を講じることを法的に義務付けることになりました。あわせて東京都では全国に先駆けて「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が2025年(令和7年)4月1日から施行されています。

本記事では、社会保険労務士(社労士)の立場から、厚生労働省・東京都などが公表している一次情報(法令、指針、告示、調査データ等)のみに基づき、カスタマーハラスメントの定義、法改正の内容、企業が講じるべき具体的な対策について、公平・中立な視点で整理して解説します。なお、税務に関する内容は本記事の対象外です。


1. カスタマーハラスメントの定義

1-1. 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」による定義

厚生労働省は2022年2月に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」において、カスタマーハラスメントを、要求内容の妥当性に照らして手段や態様が社会通念上不相当であり、それによって労働者の就業環境が害されるものと整理しています(出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」2022年2月、厚生労働省サイト)。

重要なのは、顧客等からのクレームすべてがカスタマーハラスメントに該当するわけではないという点です。商品やサービスの改善を求める正当な指摘・クレームは、企業活動の質を高める上でむしろ重要なものであり、これと悪質な迷惑行為とは明確に区別する必要があります。

1-2. 改正法・指針における3要素の定義

2026年10月施行の改正労働施策総合推進法に基づく指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています(出典:厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」、厚生労働省PDF)。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. その言動により、労働者の就業環境が害されるものであること

なお、この「顧客等」には、実際の顧客・取引先だけでなく、駅・空港・病院・学校・福祉施設・公共施設等の利用者、さらには今後商品の購入やサービス利用をする可能性がある者も含まれるとされています。また、対面だけでなく、電話やSNS等のインターネット上で行われる言動も対象に含まれる点に留意が必要です(同資料より)。

1-3. 「社会通念上許容される範囲を超える」言動の具体例

同リーフレットでは、判断の目安として以下のような例が示されています。

要求の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの

  • そもそも要求に理由がない、または商品・サービスと全く関係のない要求
  • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難、または対応が不可能な要求
  • 不当な損害賠償請求

手段・態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
  • 威圧的な言動
  • 継続的・執拗な言動
  • 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

ロイヤル総合研究所の解説記事によれば、令和8年の指針では、「言動の内容」と「手段・態様」のいずれか一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合であっても、カスタマーハラスメントに該当し得るとされています(出典:ロイヤル総合研究所「令和8年10月から義務化 カスハラ・求職者等セクハラ対策」、記事リンク)。


2. 統計データで見るカスハラの実態

企業がカスハラ対策に取り組む必要性を裏付けるデータとして、厚生労働省が委託実施した「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(実施:PwCコンサルティング合同会社)の結果があります。

  • 過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)」を受けたと回答した労働者は**10.8%**であり、パワーハラスメントの19.3%に次いで高い割合となっています。
  • 過去3年間にカスハラに関する労働者からの相談があったと回答した企業の割合は**27.9%**で、令和2年度調査(19.5%)と比較して8.4ポイント増加しています。

(出典:政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介」、記事リンク。原データは厚生労働省「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査」)

パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントについては減少傾向が見られる一方で、カスハラに関する企業への相談割合は増加しており、社会的な関心の高まりとあわせて、対応の緊急性が高い分野であることがうかがえます。


3. 法改正の内容:改正労働施策総合推進法とカスハラ対策の義務化

3-1. 改正の概要と施行日

2025年(令和7年)6月4日に改正され、同年6月11日に公布された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)により、労働施策総合推進法が改正されました。この改正法により、カスタマーハラスメント防止措置および求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止措置が、事業主の雇用管理上の義務として法定化されます(出典:全国商工会連合会「改正労働施策総合推進法(令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!)について」、記事リンク)。

施行日は2026年(令和8年)10月1日であり、この日以降、すべての事業主(企業規模を問わない)がカスタマーハラスメント防止措置を講じる法的義務を負うことになります。

3-2. 関連告示(指針)

改正法の施行にあわせ、厚生労働省は2026年2月26日付で以下の指針を告示しました(出典:ロイヤル総合研究所、前掲記事)。

  • カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
  • 求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第52号)

これらの指針は、既存のパワーハラスメント防止指針・セクシュアルハラスメント防止指針と同様の法的位置づけであり、事業主が講ずべき具体的な措置内容を示すものです。


4. 事業主が必ず講じなければならない措置(10項目)

厚生労働省のリーフレットでは、事業主が必ず講じなければならない措置として、以下の項目が整理されています(出典:厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」、前掲PDF)。

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

  1. カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
  2. カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容(管理監督者への報告体制、単独対応の回避、悪質な言動については警察への通報等)を労働者に周知する

(2)相談体制の整備

  1. 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
  2. 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする

(3)事後の迅速かつ適切な対応

  1. 事実関係を迅速かつ正確に確認する
  2. 被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を行う
  3. 再発防止に向けた措置を講ずる

(4)対応の実効性を確保するための抑止措置

  1. 特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知するとともに、当該対処を行うことができる体制を整備する

(5)そのほか併せて講ずべき措置

  1. 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
  2. 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

なお、同資料では、自社の労働者が取引先等の労働者に対してカスタマーハラスメントを行った場合、取引先事業主から事実確認等への協力を求められた際は、これに応じるよう努めることも求められています。


5. 対策を講じる際の留意点

厚生労働省の資料や政府広報オンラインの解説では、カスハラ対策を講じるにあたり、以下の法令等にも留意する必要があるとされています。

  • 消費者法制により定められている消費者の権利:正当なクレームや権利行使まで一律に排除してはならないこと
  • 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法):障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止、合理的配慮の提供義務があること

(出典:厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」、前掲PDF/政府広報オンライン、前掲記事)

カスハラ対策は「顧客対応を一律に厳しくする」ことが目的ではありません。正当な指摘・要望と、社会通念上不相当な言動とを適切に見極める視点が、企業にも、そして対応する労働者にも求められます。


6. 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例との関係

国の法改正に先行し、東京都議会は2024年(令和6年)10月4日、全国で初めてとなる「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を可決・成立させ、2025年(令和7年)4月1日から施行しています(出典:東京都「4月1日から東京都カスタマーハラスメント防止条例を施行します」、東京都公式サイト)。

同条例の主な内容は次のとおりです。

  • 何人も、あらゆる場においてカスタマーハラスメントを行ってはならない旨を定める(第4条)
  • 条例の適用に当たっては、顧客等の権利(正当なクレームなど)を不当に侵害しないよう留意しなければならない旨を定める(第5条)
  • 事業者は、カスタマーハラスメントを防止するために手引の作成等の必要な措置を講ずるよう努めなければならない旨を定める(第14条)

(出典:東京都、前掲サイト)

この条例には罰則規定は設けられていませんが、「カスタマーハラスメント」という概念とその違法性・不当性を条例上明記した点に大きな意義があるとされています。あわせて東京都は2024年12月に「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」を策定し、2025年3月には業界団体向けの「各団体共通マニュアル」を公表しています(出典:東京都「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」、TOKYOはたらくネット)。

東京都内で事業を行う事業者は、2026年10月施行の国の法改正への対応に加え、この東京都条例・指針にも留意した対応が求められます。


7. 厚生労働省が提供する業種別マニュアル等の活用

厚生労働省は、業種・業態によってカスハラの態様が異なることを踏まえ、業界団体等が業界内の実態を踏まえた対応方針を策定・発信できるよう支援するモデル事業を実施しています。令和6年度(2024年度)にはスーパーマーケット業界向けのマニュアル・啓発ポスター・研修動画を作成し、令和7年度(2025年度)は宅配業向けの作成が予定されています(出典:厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援」、厚生労働省特設サイト)。

自社の業界に対応したマニュアルがすでに公表されている場合は、それを出発点として自社の実態に即した対策マニュアルを整備することが効率的です。厚生労働省は、業界団体が独自にマニュアルを作成する際の参考として「業種別カスタマーハラスメント対策マニュアルの策定手順例」も公表しています(出典:同上)。


8. 社労士の視点から:企業が今から準備すべきこと

2026年10月の義務化を見据え、社会保険労務士の立場から、企業に対して次のような準備を推奨します。ただし、個別の対応方針の適法性や妥当性については、事案ごとの事実関係を踏まえた専門家への相談が不可欠であることを申し添えます。

  1. 社内方針の明文化:カスタマーハラスメントに対して毅然と対応し、労働者を保護するという事業主の方針を、就業規則や社内規程、対応マニュアル等の形で明文化し、周知する
  2. 相談窓口の整備:既存のハラスメント相談窓口(パワハラ・セクハラ相談窓口)にカスハラも対象として組み込むか、専用の窓口を設けるかを検討する
  3. 初期対応フローの整備:単独対応を避け、管理監督者への報告・指示を仰ぐ体制、悪質な言動については警察への通報を含めた対応フローをあらかじめ定める
  4. 記録・証拠保全の仕組み:事実関係の迅速かつ正確な確認のため、通話録音や記録簿など、証拠を残す仕組みを整える
  5. 研修の実施:管理職・従業員に対し、カスハラの定義や社内の対応方針を周知するための研修を行う
  6. プライバシー保護と不利益取扱いの禁止の明確化:相談者や関係者のプライバシー保護、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止を明文化する

これらは、既に義務化されているパワーハラスメント防止措置の体制を土台としつつ、カスハラに特有の要素(顧客対応特有の初期対応フロー、悪質事案への抑止的対応など)を追加していく形で整備するのが実務上効率的です。


まとめ

カスタマーハラスメントは、2026年(令和8年)10月1日の改正労働施策総合推進法の施行により、事業主にとって「望ましい取組」から「法的義務」へと位置づけが変わります。あわせて、東京都では条例に基づく先行的な取組がすでに進んでいます。

厚生労働省の実態調査が示すとおり、カスハラに関する相談は増加傾向にあり、多くの企業にとって避けて通れない経営課題となっています。一方で、対策の実施にあたっては、顧客の正当な権利や障害者差別解消法上の合理的配慮義務にも留意しながら、公正なバランスを保つことが求められます。

自社の業種・規模・顧客接点の特性を踏まえた対応マニュアルの整備や社内体制の構築については、顧問社会保険労務士など専門家に相談しながら、施行日までに計画的に準備を進めることをお勧めします。


参考文献・出典一覧

※本記事は上記一次情報(法令・告示・行政機関公表資料)に基づき2026年8月時点の情報を整理したものです。制度の詳細や個別事案への適用については、必ず厚生労働省・東京都等の最新の公表資料をご確認いただくとともに、顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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