【社労士が解説】2026年、人事労務担当者が押さえるべき法改正まとめ|最低賃金・社会保険・カスハラ対策まで徹底整理

目次

はじめに|なぜ今、人事労務担当者に「情報のアップデート」が求められるのか

人事労務の仕事は、労働基準法、労働契約法、労働施策総合推進法、育児・介護休業法、健康保険法、厚生年金保険法、障害者雇用促進法など、多数の法令によって支えられています。これらの法令は社会情勢の変化に合わせて頻繁に改正されており、担当者が「知らなかった」では済まされないケースも少なくありません。

特に2026年は、最低賃金の大幅な引き上げ、社会保険の適用拡大(いわゆる「106万円の壁」の撤廃)、カスタマーハラスメント対策の義務化、障害者雇用率の引き上げなど、給与計算・労務管理・採用活動のいずれにも直結する制度変更が集中する年です。

本記事では、社会保険労務士の立場から、厚生労働省などの公的機関が公表している一次情報に基づき、2026年に人事労務担当者が実務上おさえておくべきポイントを整理します。個別の制度適用や就業規則の見直しについては、自社の状況によって判断が異なりますので、詳細は顧問の社会保険労務士や所轄の労働局・年金事務所にご確認いただくことをおすすめします。


1. 2026年度(令和8年度)最低賃金の引き上げ

1-1. 目安額は全国加重平均1,176円、引き上げ幅は55円

厚生労働省の中央最低賃金審議会は、2026年7月28日に「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安」を取りまとめました。目安額は、Aランクの都府県(埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪)で54円、B・Cランクのその他の都道府県で56円の引き上げとされています。目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円とされています。

この目安どおりに改定が行われた場合、全国加重平均は1,176円となり、上昇額は55円(昨年度66円)、引上げ率は4.9%(昨年度6.3%)となる見込みです。前年度に続く高水準の引き上げですが、上昇幅そのものはやや落ち着いた水準となっています。

1-2. 改定の実施スケジュール

中央最低賃金審議会が示す目安は、あくまで「目安」であり、実際の改定額は各都道府県に設置された地方最低賃金審議会での審議を経て決定されます。例年、目安の答申後、8月中旬にかけて地方審議会での議論が行われ、官報での公示を経て、10月1日を基準日として順次発効するスケジュールとなっています。

1-3. 人事労務担当者が確認すべきこと

最低賃金は、正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣社員を含むすべての労働者に適用されます。最低賃金は国が最低賃金法によって定める賃金の下限額であり、違反した場合は罰則(50万円以下の罰金)の対象となります。自社の従業員の時給・日給・月給を時間換算した額が、改定後の地域別最低賃金を下回っていないか、10月の発効前に確認しておくことが重要です。また、都道府県ごとに定められる地域別最低賃金のほか、特定の産業に適用される特定最低賃金がある場合は、両方を確認したうえで高い方の額を適用する必要があります。


2. 社会保険の適用拡大|「106万円の壁」が2026年10月に撤廃

2-1. 制度改正の根拠

2024年に成立した健康保険法および厚生年金保険法の改正(令和6年法律第52号)に基づき、2026年10月1日から、短時間労働者に対する社会保険の適用要件が見直されます。これまで加入要件の一つとされてきた「月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円以上)」という賃金要件が撤廃されることになりました。

2-2. 改正後に残る加入要件

賃金要件の撤廃後、短時間労働者が厚生年金保険・健康保険の被保険者となる要件は、次の点に整理されます。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 雇用期間の見込みが2か月を超えること
  • 学生でないこと
  • 一定規模以上の企業(特定適用事業所)に勤務していること

企業規模要件についても段階的な引き下げが予定されており、賃金要件の撤廃と合わせて、企業規模の要件(従業員数)も段階的に見直され、2035年10月にはすべての企業が対象とされる予定です。

2-3. 「106万円の壁」から「週20時間の壁」へ

賃金要件がなくなることで、就業調整の基準は労働時間に一本化される見通しです。学生ではない労働者が週に20時間以上働くと社会保険へ加入することになるため、社会保険料の負担を避けたい労働者は、今後は週20時間を超えないように労働時間を調整することが予想されます。いわば「106万円の壁」が「週20時間の壁」に置き換わる形です。

2-4. 企業が取るべき実務対応

新たに社会保険の加入対象となる従業員が発生する場合、資格取得手続きの実施はもちろん、労働条件通知書の見直しや就業規則・賃金規程の確認が必要になります。届出を怠った場合、厚生年金保険法上の罰則(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象となり得る点にも留意が必要です。あわせて、企業の保険料負担が急激に増加する場合に備え、厚生労働省は保険料の一部を国が支援する制度や、キャリアアップ助成金の拡充など各種の支援策を用意していますので、自社の対象範囲を早めに把握し、対象者への説明を計画的に進めることが望まれます。

詳細は厚生労働省の特設サイト(社会保険の適用拡大について|厚生労働省)で随時更新されていますので、あわせてご確認ください。


3. カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月1日施行)

3-1. 法的根拠と施行日

2025年6月11日、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)が公布されました。この改正により、カスタマーハラスメントや求職者等に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる「求職者等セクハラ」)の防止措置が事業主の義務となり、施行日は令和8年(2026年)10月1日とされています。

3-2. 事業主に求められる措置

改正法では、事業主に対し、職場において顧客等から受ける就業環境を害する言動について、労働者からの相談に応じ適切に対応するための体制整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられます。あわせて、厚生労働省は2026年2月26日付で「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)を公布しており、企業はこの指針に沿った相談窓口の整備、対応マニュアルの作成、従業員への研修実施などの対応が求められます。

3-3. 対策の必要性を裏付けるデータ

厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によると、過去3年間に労働者から顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)に関する相談があったと回答した企業の割合は27.9%であり、前回の令和2年度調査と比較して8.4ポイント増加しています。すでに一定数の企業がカスハラの相談を受けている実態がうかがえ、法改正を待たずに対策を進める必要性が高いテーマといえます。

3-4. 東京都など自治体レベルの先行対応

なお、法改正に先行して、東京都では2024年10月4日に東京都カスタマーハラスメント防止条例が成立し、2025年4月1日から施行されています。本社や事業所が東京都内にある企業は、国の指針とあわせて条例上の対応状況も確認しておくとよいでしょう。

詳細は厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省」で公開されているリーフレットや指針本文をご確認ください。


4. 障害者の法定雇用率、2026年7月に2.5%から2.7%へ引き上げ

4-1. 引き上げの内容

障害者雇用促進法に基づく民間企業の法定雇用率は、段階的な引き上げが続いています。2024年4月に2.3%から2.5%へ引き上げられたのに続き、2026年7月1日には2.5%から2.7%へ引き上げられます。これにともない、雇用義務の対象となる事業主の範囲も、常時雇用する労働者数がおおむね40人以上から37.5人以上(実質38人以上)へと拡大される見込みです。

4-2. 達成状況からみる実務上の課題

厚生労働省が公表した障害者雇用状況の集計結果によれば、民間企業が雇用する障害者数は過去最高を更新した一方で、法定雇用率を達成している企業の割合は5割に届いていないとされています。未達成企業のうち、障害者を1人も雇用していない企業の割合も一定数存在すると報告されており、引き上げ後はこれまで対象外だった企業も新たに雇用義務を負うことになるため、早期の準備が重要です。

4-3. 未達成の場合の取り扱い

法定雇用率を達成していない事業主に対しては、障害者雇用納付金の徴収に加え、状況によって行政指導や勧告が行われることがあり、正当な理由なく勧告に従わない場合は企業名が公表される可能性があります。採用計画の見直しや、既存業務の切り出しによる職域拡大など、中長期的な視点での対応が求められます。


5. 育児・介護休業法の改正(2025年4月・10月施行分の再確認)

2026年に向けた新たな話題が多い一方で、2025年に施行された育児・介護休業法の改正内容についても、運用が定着しているかを改めて確認しておく必要があります。

5-1. 子の看護休暇の対象拡大(2025年4月1日施行)

厚生労働省の特設サイトによれば、2025年4月1日の改正により、従来の「子の看護休暇」は「子の看護等休暇」に名称が変更され、対象となる子の範囲が小学校3年生修了まで延長されたほか、取得事由に感染症に伴う学級閉鎖等や入園式・卒園式が追加されました。また、労使協定によって除外できる労働者の要件のうち、「引き続き雇用された期間が6か月未満」の要件が撤廃されています。

5-2. 「柔軟な働き方を実現するための措置」の義務化(2025年10月1日施行)

2025年10月1日からは、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者を対象に、事業主が次の5つの選択肢のうち2つ以上を選んで制度化することが義務付けられました。

  • 始業時刻等の変更(フレックスタイム制または時差出勤制度)
  • テレワーク等(月10日以上、原則時間単位での取得を可能にする)
  • 保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
  • 養育両立支援休暇の付与(年10日以上、原則時間単位で取得可能)
  • 短時間勤務制度

制度の選択にあたっては、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)等からの意見聴取の機会を設けることとされており、企業は制度の導入だけでなく、対象従業員への個別周知・意向確認までを一連の実務として行う必要があります。

5-3. 育児休業取得状況の公表義務の拡大

男性労働者の育児休業等の取得状況について、インターネット等で公表しなければならない企業の範囲も拡大されています。自社が対象企業に該当するかどうか、従業員規模とあわせて確認しておきましょう。


6. 労働基準法の抜本改正をめぐる動向|約40年ぶりの見直し議論

6-1. 議論の背景

2025年1月、厚生労働省の労働基準関係法制研究会は報告書を公表し、テレワークや副業・兼業の普及、多様な働き方の広がりに対応するための労働基準法の包括的な見直しの方向性を示しました。検討されている主な論点は、連続勤務日数の上限規制、法定休日の特定義務、勤務間インターバル制度の義務化、有給休暇取得時の賃金算定方法の明確化、いわゆる「つながらない権利」に関するガイドラインの策定、副業・兼業者の労働時間通算ルールの見直し、週44時間労働の特例措置の廃止などです。

6-2. 2026年通常国会への法案提出は見送り

当初は2026年の通常国会への改正法案提出も想定されていましたが、2025年12月、政府は改正法案の通常国会への提出を見送る方針を示しました。これにより、2026年通常国会への労働基準法改正案の提出は見送りとなりましたが、連続勤務上限(14連勤禁止)、勤務間インターバル義務化、法定休日の特定、有休の通常賃金方式、週44時間特例の廃止、副業・兼業の割増通算見直し、「つながらない権利」ガイドラインなどの論点そのものは、引き続き検討課題として残っています。

6-3. 人事労務担当者への影響

法案提出が見送られたとはいえ、研究会報告書で示された方向性は、今後の法改正の土台として維持される可能性が高いと考えられます。特に、休日の特定義務や勤務間インターバルなど、シフト勤務や変形労働時間制を採用している企業の運用に直接関わる論点が含まれているため、法改正が現実になった場合に備え、現行の労務管理体制を点検しておくことは無駄にはならないでしょう。


7. まとめ|2026年の人事労務担当者が優先すべき対応

2026年は、最低賃金の引き上げ、社会保険の適用拡大、カスタマーハラスメント対策の義務化、障害者法定雇用率の引き上げなど、施行時期が明確に定まっている制度変更が複数重なる年です。まずは、次の点を時系列で整理し、社内の対応スケジュールに落とし込むことをおすすめします。

  1. 2026年7月:障害者の法定雇用率が2.7%に引き上げ。対象事業主の範囲拡大への該当有無を確認
  2. 2026年8〜10月:地域別最低賃金の改定。従業員の時給換算額の点検
  3. 2026年10月:社会保険の適用拡大(賃金要件の撤廃)。対象従業員の洗い出しと資格取得手続きの準備
  4. 2026年10月:カスタマーハラスメント対策・求職者等セクシュアルハラスメント対策の義務化。相談体制の整備と指針に沿った規程整備

あわせて、2025年に施行済みの育児・介護休業法の改正内容が、就業規則や実際の運用にきちんと反映されているかを見直すことも重要です。制度は「導入して終わり」ではなく、対象従業員への周知や運用状況の確認まで含めて、初めて実効性のあるものになります。

労働関係法令は改正頻度が高く、施行日や対象範囲の細部は今後の政省令や告示によって変更される可能性もあります。自社の状況に即した対応については、厚生労働省・日本年金機構などの公式情報を確認いただくとともに、必要に応じて顧問社会保険労務士にご相談ください。


参考文献・出典一覧

※本記事は、2026年8月時点で公表されている法令・行政資料等の情報に基づき作成しています。制度の詳細や施行スケジュールは、今後の政省令・告示等により変更される可能性があります。個別の事案への適用については、必ず最新の公的情報をご確認いただくか、顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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