就職活動やインターンシップの場で学生・求職者が受けるハラスメント、いわゆる「就活ハラスメント」。この問題について、2025年に大きな法改正が行われ、2026年10月1日から企業(事業主)に新たな法的義務が課されることになりました。
本記事では、社会保険労務士の立場から、就活ハラスメントに関する法改正の内容を、根拠となる法令・告示・行政資料に基づいて正確に解説します。採用担当者、人事労務担当者の方はもちろん、これから就職活動を控える学生の方にもご参考いただける内容としています。
なお、本記事は2026年8月時点で公表されている一次情報(法律、指針、行政発表資料)に基づいて作成しています。制度の詳細は今後、通達等でさらに明確化される可能性がありますので、実務対応にあたっては必ず厚生労働省の最新情報をご確認ください。
目次
- 就活ハラスメントとは何か
- なぜ今、就活ハラスメント対策が法制化されるのか(実態調査からみる背景)
- 法改正の全体像~令和7年法律第63号~
- 改正の中核「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」防止措置の義務化
- 「求職者等」「求職活動等」の範囲はどこまでか
- 事業主が講ずべき具体的な措置内容
- パワーハラスメントは今回の義務化の対象外という重要な留意点
- 施行日と企業が準備すべきスケジュール
- 中小企業・外国人材採用における留意点
- 学生・求職者側の相談先
- 社会保険労務士としてのまとめ
- 参考文献・出典一覧
1. 就活ハラスメントとは何か
「就活ハラスメント」とは、法律上の正式な用語ではありませんが、一般的には、採用選考を行う企業の採用担当者等が、その優越的な立場を利用して、就職活動中の学生等に対して行うセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントに類する言動を指す言葉として使われています。
これまで、男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が定めるハラスメント防止措置義務は、あくまで「労働者」を対象とするものでした。しかし、就職活動中の学生は、内定・入社前の段階では労働契約関係にある「労働者」ではないため、企業がこれらの学生に対する言動について防止措置を講じる法的義務は、これまで存在していませんでした。
そのため、これまで就活ハラスメントへの対応は、行政指針において「望ましい取組み」として位置づけられるにとどまっていました。今回の法改正は、この状況を大きく転換するものです。
2. なぜ今、就活ハラスメント対策が法制化されるのか(実態調査からみる背景)
法改正の背景には、就職活動中の学生が置かれている実態があります。厚生労働省が委託事業として実施した「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(実施:PwCコンサルティング合同会社)では、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に加え、就活等セクハラについても特別サンプル調査が行われています。
同報告書では、過去3年間に企業へ寄せられたハラスメント相談のうち、パワハラが最も多く、セクハラ、カスハラと続く一方、就活等セクハラに関する相談があったとする企業も一定数存在することが示されています。また、面接やOB・OG訪問、インターンシップといった採用活動の様々な場面で、学生が不快な言動を受ける事例が確認されており、就職活動中の学生が労働者と異なり相談窓口や法的保護の枠組みの外に置かれてきたことが、対策強化の必要性として指摘されてきました。
こうした実態を踏まえ、厚生労働省の労働政策審議会における議論を経て、2025年の通常国会に関連法案が提出され、成立に至りました。
3. 法改正の全体像~令和7年法律第63号~
今回の法改正の根拠となる法律は、正式名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)といいます。この法律は2025年(令和7年)6月11日に公布されました。
この改正法は、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法など複数の法律にまたがる改正を含んでおり、主な内容は次の2点に整理できます。
- 顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)の防止措置の義務化
- 求職者等に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる就活セクハラ)の防止措置の義務化
このうち、本記事のテーマである「就活ハラスメント」に直接関わるのは、男女雇用機会均等法の改正による「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」の防止措置義務化です。
なお、厚生労働省は2026年4月24日付で、改正法の施行に関する通達(「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」等)を発出しており、あわせて「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」と題するQ&Aも公表しています。実務対応にあたっては、これらの通達・Q&Aもあわせて確認することが重要です。
4. 改正の中核「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」防止措置の義務化
改正後の男女雇用機会均等法第13条第1項は、「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」について、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等の求職活動等が阻害されるものと定義しています。
この改正により、2026年10月1日から、すべての事業主は、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止するために、雇用管理上必要な措置を講じることが法的義務となります。これまでの「望ましい取組み」から、「講じなければならない義務」へと明確に格上げされた点が、今回の改正の最大のポイントです。
また、同法第13条第3項に基づき、事業主が講ずべき具体的な措置の内容を示す指針として、2026年(令和8年)2月26日に「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)が公布されています。
5. 「求職者等」「求職活動等」の範囲はどこまでか
今回の義務化にあたって実務上特に重要なのが、保護の対象となる「求職者等」の範囲です。厚生労働省が運営するポータルサイト「あかるい職場応援団」の解説によれば、「求職者等」には次のような者が含まれます。
- 企業の求人に応募する者(いわゆる求職者)
- 求職者以外の者であって、事業主が実施する労働者の採用に資する活動に参加する者(会社説明会、面接、OB・OG訪問等に参加する学生等を含む)
- 教育実習、看護実習その他の実習を受ける者
つまり、正式な応募段階に至っていない会社説明会やインターンシップ、OB・OG訪問の場面に参加する学生等も、保護の対象に含まれることになります。採用活動の入口から出口まで、企業と学生・求職者が接するほぼすべての場面が、今回の防止措置義務の対象となり得る点に留意が必要です。
6. 事業主が講ずべき具体的な措置内容
令和8年厚生労働省告示第52号(求職者等セクハラ防止指針)では、事業主が講ずべき措置として、主に次のような内容が示されています。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
求職者等に対するセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発するとともに、行為を行った者については厳正に対処する旨の方針及び対処内容を、就業規則等の文書に規定し周知することが求められます。
(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
求職者等からの相談にも対応できる相談窓口をあらかじめ設置し、その存在を求職者等にも周知することが求められます。メール、電話、Webフォームなど、求職者等が利用しやすい複数の相談方法を用意することが望ましいとされています。
(3)事後の迅速かつ適切な対応
相談があった場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認し、行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講じることが求められます。
(4)そのほか併せて講ずべき措置
相談者のプライバシー保護、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止についての周知・啓発なども、あわせて求められる措置として位置づけられています。
これらは、既存の職場におけるセクシュアルハラスメント防止措置(現行の男女雇用機会均等法に基づく措置)と共通する枠組みを、求職者等にも拡張したものと理解することができます。既に社内でセクハラ防止規程や相談窓口を整備している企業であっても、その適用範囲を「求職者等」まで広げる形での規程改定・運用見直しが必要になります。
7. パワーハラスメントは今回の義務化の対象外という重要な留意点
実務上、誤解が生じやすいポイントとして強調しておきたいのが、今回の法改正で防止措置が義務化されるのは「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」のみであり、求職者等に対するパワーハラスメント(いわゆる圧迫面接や不適切な言動など)は、今回の法改正による義務化の対象には含まれていないという点です。
指針においては、パワーハラスメント類似行為や妊娠・出産関連ハラスメント類似行為への注意についても「望ましい取組み」として言及されていますが、法的な措置義務までは課されていません。この点は、社内での研修や規程整備を行う際に、セクハラとパワハラを混同しないよう正確に説明する必要があります。
8. 施行日と企業が準備すべきスケジュール
今回の改正法の施行日は、2026年(令和8年)10月1日です。改正法の公布(2025年6月11日)から1年6か月以内で政令で定める日に施行するとされていたところ、政令により2026年10月1日と定められています。
施行まで一定の準備期間がある一方で、企業が対応すべき事項は多岐にわたります。一般的に想定される準備事項としては、次のようなものが挙げられます。
- 就業規則・ハラスメント防止規程における「求職者等」への適用範囲の明記
- 採用担当者・面接官向けの研修の実施(禁止事項、適切な質問内容、SNS利用時の留意点などの周知)
- 求職者等向けの相談窓口の整備と、募集要項や説明会等での周知
- 相談を受けた場合の事実確認・対応フローの整備
厚生労働省は、改正内容の周知のためのリーフレット(簡易版・詳細版)を公表しているほか、既存の「就活ハラスメント防止対策企業事例集」も公開しています。自社の対応を検討する際の参考資料として活用することが有用です。
9. 中小企業・外国人材採用における留意点
今回の求職者等セクハラ防止措置の義務化は、企業規模による適用除外が設けられていません。したがって、大企業だけでなく中小企業も含め、採用活動を行うすべての事業主が対象となります。
また、技能実習生や特定技能外国人など、外国人材の採用活動においても、同様に防止措置の対象となります。厚生労働省は、特定技能所属機関や登録支援機関に対しても、改正法の施行を踏まえた適切な対応を求める周知資料を発出しています。文化的背景の違いから生じる意図せぬ不適切な発言についても、注意が必要とされています。
10. 学生・求職者側の相談先
万が一、就職活動中にセクシュアルハラスメントと思われる言動を受けた場合、まずは応募先企業の相談窓口への相談が考えられますが、企業に相談しても適切に対応してもらえない場合や、社外で相談したい場合には、お近くの都道府県労働局雇用環境・均等部(室)や、総合労働相談コーナーへの相談が可能です。相談は無料であり、匿名での相談にも対応しているとされています。
11. 社会保険労務士としてのまとめ
今回の法改正は、これまで法の直接の保護対象から外れていた「就職活動中の学生等」を、初めて明確な形で保護の対象に位置づけるものであり、労働法制における一つの大きな転換点といえます。企業にとっては、採用活動の入口段階からハラスメントリスクを管理する体制づくりが、コンプライアンス上の必須事項となります。
一方で、今回義務化されるのはセクシュアルハラスメントへの対応に限られ、パワーハラスメントについては引き続き「望ましい取組み」の段階にとどまっている点も、正確に理解しておく必要があります。制度の詳細については、施行日である2026年10月1日に向けて、今後さらに通達やQ&Aによる解釈の明確化が行われる可能性がありますので、企業の人事労務担当者の方は、厚生労働省の公表情報を継続的に確認しながら、自社の就業規則・研修体制の整備を計画的に進めることをお勧めします。
対応にお悩みの際は、顧問社会保険労務士など専門家への相談もあわせてご検討ください。
12. 参考文献・出典一覧
本記事は、以下の一次情報に基づいて作成しています。
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)(2025年6月11日公布)
- 事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号)(2026年2月26日公布) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)(2026年2月26日公布) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
- リーフレット(詳細版)「2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf
- 厚生労働省「求職者等に対するセクシュアルハラスメントとは」(あかるい職場応援団) https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/harassment_list/kyushoku_sexual-hara
- 厚生労働省「就活ハラスメント防止対策企業事例集」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001060585.pdf
- 令和5年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(実施:PwCコンサルティング合同会社)
※本記事は、上記の一次情報をもとに、社会保険労務士の立場から一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。実際の制度対応にあたっては、必ず厚生労働省の最新の公表資料をご確認いただくとともに、必要に応じて社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
