はじめに
「神奈川 最低 賃金」というキーワードで検索される方の多くは、「今の神奈川県の最低賃金がいくらなのか知りたい」「自社の賃金が最低賃金を下回っていないか確認したい」「来年の改定はどうなるのか気になる」といった目的をお持ちだと思います。
本記事では、社会保険労務士の立場から、神奈川県の最低賃金について、厚生労働省・神奈川労働局が公表している一次情報(報道発表資料、告示、法令)のみを根拠として、できるだけ正確に、かつ実務に役立つ形で解説します。憶測や未確定情報は「未確定」であることを明記した上でご紹介しますので、安心してご参照ください。
なお、本記事は2026年8月9日時点で公表されている情報に基づいて作成しています。最低賃金は毎年改定されるため、最新情報は必ず神奈川労働局の公式ページでご確認ください。
1. 最低賃金制度とは何か(法的根拠)
最低賃金制度は、最低賃金法(昭和34年法律第137号)に基づき、国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
最低賃金法第4条第1項は、使用者は最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない旨を定めています。さらに同条第2項では、最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は、その部分について無効とし、無効となった部分は最低賃金額と同様の定めをしたものとみなすと規定されています。つまり、労使双方が合意していたとしても、最低賃金を下回る賃金を定める契約は法律上無効となり、使用者は差額を支払う義務を負います。
最低賃金には、産業や職種を問わず都道府県内のすべての労働者に適用される「地域別最低賃金」と、特定の産業に属する基幹的労働者に適用される「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります(最低賃金法第9条、第15条)。神奈川県内で単に「神奈川県の最低賃金」という場合、通常はこの地域別最低賃金を指します。
参考・出典:
- 最低賃金法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
2. 【最新】神奈川県の最低賃金は現在いくらか
2-1. 現行の神奈川県最低賃金(令和7年10月4日発効)
現在適用されている神奈川県最低賃金は、時間額1,225円です。これは令和7年(2025年)10月4日に発効したもので、改正前の1,162円から63円(引上率5.42%)の引き上げとなりました。神奈川労働局長は令和7年9月4日付で官報公示を行い、この額が正式に決定されています。
この神奈川県最低賃金は、神奈川県内の事業場で働く常用労働者はもちろん、臨時、パート、アルバイトなど雇用形態や呼称を問わず、すべての労働者とその使用者に適用されます。
参考・出典:
- 神奈川労働局「令和7年度『神奈川県最低賃金』を改正決定します」(令和7年8月28日局長記者会見発表資料) https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/home/houdou/20250827_00001.html
2-2. 令和8年度(2026年度)の改定動向【重要:現時点ではまだ「答申」段階です】
2026年8月4日、神奈川労働局長の諮問機関である神奈川地方最低賃金審議会は、神奈川県最低賃金を現行の1,225円から**54円引き上げて1,279円(引上率4.40%)**とすることが適当である旨を、神奈川労働局長に答申しました。この答申どおりに改定された場合の効力発生日は、令和8年(2026年)10月1日が予定されています。
ただし、ここで重要な注意点があります。答申はあくまで審議会から労働局長への「意見」であり、最終的な決定ではありません。最低賃金法の規定に基づき、この答申を受けて労働局長が異議申出についての公示を行い、公示期間中に異議申出がなければ、正式な改正決定・官報公示という手続を経て、初めて法的効力を持つ最低賃金額として確定します。したがって、本記事執筆時点(2026年8月)では、1,279円はまだ確定額ではなく、今後の手続を経て正式決定される予定の額であるという点にご留意ください。正式決定後は、神奈川労働局の公式ページで改めて公表されますので、給与計算に反映される際は必ず官報公示後の正式な発効日をご確認ください。
参考・出典:
- 神奈川労働局「神奈川県最低賃金額54円の引上げへ-本日、神奈川地方最低賃金審議会が答申-」(令和8年8月4日) https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/home/houdou/20260804_00001.html
3. 最低賃金はどのように決まるのか(決定の仕組み)
最低賃金の改定は、以下のような流れで進められます。
- 中央最低賃金審議会(厚生労働大臣の諮問機関)が、全国を複数のランクに分けたうえで、各都道府県の引き上げ「目安」を審議・提示します。
- その目安を踏まえ、各都道府県の地方最低賃金審議会(神奈川県の場合は神奈川地方最低賃金審議会)が、地域の実情を踏まえて具体的な改定額を審議します。
- 地方最低賃金審議会が労働局長に対して答申を行います。
- 労働局長が答申を受けて異議申出の公示を行います。
- 異議申出がない場合(またはあっても再協議の結果問題がない場合)、労働局長が改正決定を行い、官報公示します。
- 公示された発効日から、新しい最低賃金額が法的効力を持ちます。
このように、最低賃金の改定には審議会での調査審議と、公示・異議申出という法定の手続が必要であり、一定の期間を要します。神奈川県においても、令和7年度の改定では7月に諮問を受けてから約2か月弱の審議を経て答申・決定に至っています。
参考・出典:
- 神奈川労働局「神奈川県最低賃金額54円の引上げへ-本日、神奈川地方最低賃金審議会が答申-」 https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/home/houdou/20260804_00001.html
4. 神奈川県の特定(産業別)最低賃金について
神奈川県には、地域別最低賃金とは別に、特定の産業に属する労働者に適用される「特定(産業別)最低賃金」が7業種について設定されています。具体的には以下の業種です。
- 塗料製造業
- 鉄鋼業
- 電線・ケーブル製造業
- 一般機械器具製造業
- 電気機械器具製造業
- 輸送用機械器具製造業
- 自動車小売業
神奈川労働局が公表している「特定(産業別)最低賃金金額改正一覧」によれば、令和7年度はこれら7業種すべてについて改定が行われず、いずれも神奈川県最低賃金(地域別最低賃金)である1,225円を下回る水準にとどまっています。特定最低賃金は地域別最低賃金を下回る場合には適用されない仕組みになっているため、実務上は、これら7業種に属する事業場であっても、地域別最低賃金である1,225円を基準に賃金を確認すれば足ります。
参考・出典:
- 神奈川労働局「特定(産業別)最低賃金金額改正一覧【賃金室】」(令和7年11月26日更新) https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/saiteichingin_chinginseido/_119730.html
5. 最低賃金の対象となる賃金・ならない賃金
最低賃金額と実際の賃金を比較する際、支払われている賃金のすべてが比較対象になるわけではありません。最低賃金法及び関係法令により、以下の賃金は最低賃金の比較対象から除外されます。
- 精皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
- 時間外労働、休日労働に対する割増賃金
- 深夜労働に対する割増賃金の割増部分
これらを除いた所定内賃金(基本給、役職手当、精皆勤手当・通勤手当・家族手当以外の諸手当など)が、最低賃金と比較される対象となります。給与計算の実務では、諸手当の性質を一つひとつ確認し、最低賃金の対象に含まれるかどうかを正しく判断することが重要です。
参考・出典:
- 神奈川労働局「最低賃金の計算例【賃金室】」 https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/jirei_toukei/saichikansan.html
6. 最低賃金の計算方法(時給制・日給制・月給制別)
最低賃金額以上の賃金が支払われているかどうかは、賃金の支払形態によって計算方法が異なります。
6-1. 時給制の場合
時間給の額が、そのまま最低賃金額と比較されます。時間給≧最低賃金額であれば問題ありません。
6-2. 日給制の場合
日給を1日の所定労働時間数で割った金額が、最低賃金額と比較されます。 (日給額÷1日の所定労働時間数)≧最低賃金額
6-3. 月給制の場合
神奈川労働局が示す計算例によれば、月給制の場合は次のような手順で確認します。
- 月給額から、最低賃金の対象とならない手当(精皆勤手当、通勤手当、家族手当など)を控除し、最低賃金の対象となる月給額を算出します。
- 年間の所定労働日数×1日の所定労働時間数により、年間総所定労働時間を算出します。
- (最低賃金の対象となる月給額×12か月)÷年間総所定労働時間 を計算し、時間当たりの単価を求めます。
- この単価が最低賃金額以上であるかどうかを確認します。
月給制の場合、年間所定労働時間を用いて時給換算するのがポイントです。単純に「月給÷1か月の暦日数×24時間」のような簡便な方法では正確な比較ができない点に注意が必要です。
参考・出典:
- 神奈川労働局「最低賃金の計算例【賃金室】」 https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/jirei_toukei/saichikansan.html
7. 派遣労働者への最低賃金の適用
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律に基づき派遣されている労働者(派遣中の労働者)については、派遣元ではなく、派遣先の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金が適用されます(最低賃金法第13条)。神奈川県内の派遣先で就業する派遣労働者には、派遣元の所在地にかかわらず、神奈川県最低賃金が適用される点に注意が必要です。特定最低賃金についても同様の考え方が採られています(同法第18条)。
参考・出典:
- 最低賃金法(e-Gov法令検索)第13条、第18条 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
8. 最低賃金を下回った場合のリスク・罰則
最低賃金を下回る賃金しか支払っていなかった場合、単に差額を追加で支払えばよいというだけでなく、法律上の罰則が科される可能性がある点にも注意が必要です。
8-1. 地域別最低賃金違反の場合
使用者が地域別最低賃金の定めに違反した場合(最低賃金法第4条第1項違反)、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
8-2. 特定(産業別)最低賃金違反の場合
特定最低賃金は最低賃金法上の罰則の対象ではなく、特定最低賃金額に達しない賃金しか支払わなかった場合は、賃金の全額払い原則(労働基準法第24条)違反として扱われ、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
8-3. 労働者の申告に対する不利益取扱いの禁止
労働者は、事業場に最低賃金法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告し、是正のための措置をとるよう求めることができます(最低賃金法第34条第1項)。使用者が、この申告をしたことを理由として労働者に対し解雇その他不利益な取扱いをした場合には、同法第39条により、6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金という、最低賃金法上最も重い罰則が科される可能性があります。
このように、最低賃金割れは是正すべき賃金差額の支払いにとどまらず、刑事罰の対象にもなり得る重大なコンプライアンス事項です。
参考・出典:
- 最低賃金法(e-Gov法令検索)第4条、第34条、第39条、第40条 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
9. 最低賃金の減額特例許可制度
一定の事情がある労働者については、都道府県労働局長の許可を受けることで、最低賃金額を減額して適用することが認められています(最低賃金法第7条)。対象となり得るのは、次のような労働者です。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
- 試用期間中の者
- 職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練を受ける者のうち、基礎的な技能及び知識を習得させることを内容とするものを受ける者であって厚生労働省令で定めるもの
- 軽易な業務に従事する者
- 断続的労働に従事する者
これらに該当する場合であっても、当然に減額が認められるわけではなく、使用者があらかじめ都道府県労働局長の許可を受ける必要があります。無許可のまま最低賃金を下回る賃金を支払うことは、通常の最低賃金違反と同様に扱われますので、該当する可能性がある場合は、事前に神奈川労働局へ相談することをお勧めします。
参考・出典:
- 最低賃金法(e-Gov法令検索)第7条 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
10. 最低賃金の周知義務
最低賃金の適用を受ける労働者を使用する事業場では、最低賃金の概要(最低賃金額、対象とならない賃金の範囲など)を、常時、作業場の見やすい場所に掲示する、又はその他の方法により労働者に周知させる措置を講じなければなりません(最低賃金法第8条)。この周知義務に違反した場合、最低賃金法第41条に基づき30万円以下の罰金の対象となり得ます(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る)。改定のたびに、就業規則や賃金規程の確認だけでなく、掲示物の更新も忘れずに行う必要があります。
参考・出典:
- 最低賃金法(e-Gov法令検索)第8条、第41条 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
11. 中小企業・小規模事業者向けの支援策
最低賃金の引き上げに伴う賃上げ原資の確保が難しい中小企業・小規模事業者を対象に、生産性向上のための設備投資等を行い、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げた場合に、その費用の一部を助成する「業務改善助成金」という制度があります。神奈川労働局は、令和7年度の最低賃金改定に際しても、この助成金や、神奈川働き方改革推進支援センターによる無料相談等の活用を呼びかけています。
賃上げの原資確保にお悩みの事業主の方は、こうした支援策の活用も含め、早めに専門家へご相談されることをお勧めします。
参考・出典:
- 神奈川労働局「令和7年度『神奈川県最低賃金』を改正決定します」 https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/home/houdou/20250827_00001.html
12. 社会保険労務士からのまとめ
神奈川県の最低賃金は、全国的に見ても高い水準で推移しており、毎年のように大きな引き上げが続いています。現行の1,225円(令和7年10月4日発効)に続き、令和8年度についても54円引き上げて1,279円とする答申が神奈川地方最低賃金審議会から出されており、令和8年10月1日の効力発生が予定されています。ただし、本記事執筆時点ではまだ正式決定前の「答申」段階ですので、給与計算への反映は、必ず神奈川労働局による正式な官報公示・発効日の確認を経てから行ってください。
事業主の皆様におかれましては、次の点を改めてチェックすることをお勧めします。
- 現在支払っている賃金が、最低賃金の対象となる賃金の範囲で、最低賃金額以上になっているか
- 月給制の場合、年間所定労働時間を用いた正しい方法で時給換算しているか
- パート・アルバイト・派遣労働者も含め、すべての労働者に最低賃金が適用されているか確認できているか
- 最低賃金の概要を、作業場の見やすい場所に掲示するなど、適切に周知できているか
- 賃上げに伴う原資確保のために活用できる公的支援策を把握できているか
最低賃金は労働条件の根幹に関わる事項であり、違反した場合には罰則の対象となるだけでなく、企業の信用にも影響を及ぼしかねません。自社の賃金制度が最低賃金の要件を満たしているか不安がある場合は、顧問社会保険労務士など専門家へのご相談をご検討ください。
参考文献・出典一覧
本記事は、以下の一次情報(法令及び行政機関が公表する資料)に基づいて作成しています。
- 最低賃金法(昭和34年法律第137号)/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
- 神奈川労働局「令和7年度『神奈川県最低賃金』を改正決定します~63円引上げ 時間額1,225円に~」(局長記者会見発表資料、令和7年8月28日) https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/home/houdou/20250827_00001.html
- 神奈川労働局「神奈川県最低賃金額54円の引上げへ-本日、神奈川地方最低賃金審議会が答申-」(令和8年8月4日) https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/home/houdou/20260804_00001.html
- 神奈川労働局「特定(産業別)最低賃金金額改正一覧【賃金室】」(令和7年11月26日更新) https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/saiteichingin_chinginseido/_119730.html
- 神奈川労働局「神奈川県の最低賃金金額改正一覧【賃金室】」(令和7年9月8日更新) https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/saiteichingin_chinginseido/_119684.html
- 神奈川労働局「最低賃金の計算例【賃金室】」 https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/jirei_toukei/saichikansan.html
※本記事は2026年8月時点で公表されている一次情報に基づいて作成したものであり、今後の法改正・改定手続の進行により内容が変わる可能性があります。個別の事案における実務上の判断については、所轄の労働基準監督署又は顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。本記事は特定の事案に対する法的助言を目的とするものではありません。
