「有給休暇は入社何ヶ月から取れる?」「パートやアルバイトにも有給はあるの?」「会社から取得を拒否されたらどうすればいい?」——こうした疑問を持つ方は非常に多く、実際に厚生労働省の統計でも有給休暇の取得は年々関心が高まっているテーマです。
本記事では、社会保険労務士の立場から、労働基準法の条文、厚生労働省の通達・リーフレット、行政官庁が公表する統計データという一次情報のみを根拠として、有給休暇(年次有給休暇)の制度を体系的に解説します。制度の正確な理解は、労働者にとっても、企業の労務管理を担う人事担当者にとっても欠かせません。
なお、本記事は令和8年8月時点で確認できる公的資料に基づいて作成しています。制度は改正される可能性があるため、実際の運用にあたっては最新の法令・通達をご確認ください。また、税務に関する内容は本記事の対象外です。
1. 有給休暇(年次有給休暇)とは何か
有給休暇とは、正式には「年次有給休暇」といい、労働基準法第39条に定められた、賃金が支払われる休暇のことです。労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的としており、原則として労働者が請求した時季に取得できる法律上の権利です。
厚生労働省の解説によれば、年次有給休暇の権利は、法律で定められた要件(後述する継続勤務年数と出勤率)を満たすことによって法律上当然に発生するものであり、労働者の請求によってはじめて発生するものではないとされています(労働基準法第39条第1項)。つまり、会社の許可を得て初めて発生する恩恵的な制度ではなく、要件を満たした瞬間に労働者に付与される法定の権利である点が、有給休暇を理解するうえでの出発点になります。
2. 有給休暇が発生する要件(労働基準法第39条第1項)
労働基準法第39条第1項は、次のとおり規定しています。
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
条文から読み取れる有給休暇発生の要件は、次の2点です。
- 雇入れの日から起算して6か月間継続勤務していること
- 全労働日(労働契約上、労働義務が課されている日)の8割以上出勤していること
この2つの要件を満たす労働者には、雇用形態(正社員・契約社員・パート・アルバイト等)を問わず、法律上当然に有給休暇が発生します。労働基準法は労働者を保護するための最低基準を定めた法律であり、企業がこの基準を下回る取り扱いをすることは認められません(労働基準法第1条第2項)。
3. 有給休暇の付与日数(原則的な付与のルール)
労働基準法第39条第1項・第2項に基づく、通常の労働者(週の所定労働日数が5日以上、または週の所定労働時間が30時間以上の労働者)に対する付与日数は、次のとおりです。
| 継続勤務年数 | 付与日数 |
|---|---|
| 6か月 | 10日 |
| 1年6か月 | 11日 |
| 2年6か月 | 12日 |
| 3年6か月 | 14日 |
| 4年6か月 | 16日 |
| 5年6か月 | 18日 |
| 6年6か月以上 | 20日 |
この日数は法定の最低基準であるため、企業の判断で下回る日数に減じることはできません。一方で、法定日数を上回る有給休暇を企業が独自に付与することは、労働者の福利厚生の充実につながるものとして認められています。
4. パート・アルバイトへの比例付与(労働基準法第39条第3項)
週の所定労働日数が少ない、いわゆる短時間労働者(パートタイマー・アルバイト等)についても、6か月間の継続勤務と8割以上の出勤という要件を満たせば、有給休暇が発生します。ただし、所定労働日数に応じて日数を按分する「比例付与」の仕組みが労働基準法第39条第3項および労働基準法施行規則第24条の3に定められています。
比例付与の対象となるのは、週所定労働日数が4日以下(かつ週所定労働時間が30時間未満)の労働者です。週所定労働日数が1日であっても、要件を満たせば少ない日数ながら有給休暇が発生する点は、実務上見落とされがちなポイントであり、パート・アルバイトを雇用する事業主は特に注意が必要です。
5. 年5日の年次有給休暇取得義務(働き方改革関連法による改正)
2018年の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」による労働基準法改正により、2019年4月から、すべての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対し、そのうち年5日については、使用者が労働者ごとに時季を指定して取得させることが義務付けられました(労働基準法第39条第7項・第8項)。
厚生労働省のリーフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」によれば、この制度は、同僚への気兼ねや請求することへのためらい等から有給休暇の取得率が低調な現状を踏まえ、取得促進を図る目的で導入されたものです。
使用者による時季指定にあたっては、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めることとされています。また、労働者が自ら請求・取得した日数や、後述する計画的付与によって取得した日数は、使用者が指定すべき5日から控除されます。
なお、使用者はこの制度に対応するため、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成し、当該有給休暇を与えた期間中およびその期間の満了後3年間保存しなければならないとされています。
この年5日の取得義務に違反した場合、労働基準法第120条により、対象労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
6. 時季指定権と時季変更権(労働基準法第39条第5項)
有給休暇をいつ取得するかは、原則として労働者が自由に指定できます(時季指定権)。労働基準法第39条第5項本文は、使用者は労働者が請求する時季に有給休暇を与えなければならないと定めています。
ただし、同項ただし書では、労働者が請求した時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は他の時季にこれを与えることができるとされています。これを時季変更権といいます。
重要なのは、時季変更権はあくまで「取得日をずらす」権利であり、有給休暇の取得そのものを拒否する権利ではないという点です。正当な理由なく労働者が請求した時季の有給休暇取得を拒んだ場合、労働基準法第39条第5項違反となり、労働基準法第119条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となり得ます。
7. 計画的付与制度(労働基準法第39条第6項)
労働基準法第39条第6項は、労使協定を締結することにより、有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ取得時季を計画的に定めることができる旨を定めています。これを計画的付与制度といいます。
計画的付与は、企業や部署単位で一斉に休業日を設定する方式、班別に交替で付与する方式、個人別に付与日を割り振る方式などがあり、いずれの場合も、労働者が自由に取得できる日数として最低5日は残しておく必要があります。同僚への気兼ねから取得をためらう労働者でも休みやすくなる仕組みとして、厚生労働省も導入を推奨しています。
8. 半日単位・時間単位の有給休暇
有給休暇は本来1労働日を単位として付与されるものですが、実務上は柔軟な取得を可能にする仕組みも存在します。
半日単位の取得は、労働基準法に明文の規定はないものの、労働者が希望し、使用者が同意した場合には、行政解釈上、差し支えないものとして運用が認められています。
一方、時間単位での取得については、労働基準法第39条第4項に明文の規定があります。労使協定を締結することにより、年5日を限度として、時間を単位として有給休暇を与えることができるとされています。時間単位年休は、通院や子どもの学校行事など、1日単位では使いづらい場面での取得を可能にするための制度です。
9. 有給休暇の繰越と時効(労働基準法第115条)
その年度に取得しきれなかった有給休暇は、翌年度に繰り越すことができます。ただし、労働基準法第115条により、年次有給休暇を請求する権利は、発生した日から2年間で時効により消滅すると定められています。したがって、ある年度に付与された有給休暇は、その年度と翌年度の合計2年間のうちに取得しなければ、以降は消滅することになります。
10. 出勤率の算定における特例(労働基準法第39条第10項)
有給休暇発生の要件である「全労働日の8割以上出勤」を判定する際、労働者の責によらない一定の休業期間については、出勤したものとみなす特例が労働基準法第39条第10項に定められています。具体的には、業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間、育児休業・介護休業をした期間、産前産後の女性が労働基準法第65条により休業した期間が該当します。これらの期間を欠勤扱いとして出勤率を計算し、有給休暇の発生を妨げることは認められません。
11. 有給休暇の「買い上げ」は原則禁止
有給休暇をあらかじめ金銭で買い取る(買い上げる)ことは、原則として認められません。行政通達(昭和30年11月30日基収第4718号)は、年次有給休暇の買い上げを予約し、これに基づいて労働基準法第39条により請求できる有給休暇の日数を減じたり、請求された日数を与えなかったりすることは、労働基準法第39条違反であるとの解釈を示しています。
年次有給休暇制度は、労働者に現実に休暇を取得させ、心身の疲労を回復させることに本来の趣旨があるため、あらかじめ金銭に置き換えることは制度趣旨に反するとされているのです。なお、退職時に結果的に消化しきれず残ってしまった日数や、時効により消滅する日数について、使用者が任意で金銭を給付すること自体は、直ちに労働基準法違反となるものではないと解されていますが、これによって有給休暇の取得を抑制する効果を持つことは望ましくないとされています。
12. 罰則の整理
有給休暇に関するルールへの違反には、次のような罰則が定められています。
- 労働基準法第39条第5項違反(労働者が請求した時季の有給休暇取得を正当な理由なく拒んだ場合):労働基準法第119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 労働基準法第39条第7項違反(年5日の取得義務を果たさなかった場合):労働基準法第120条により、対象労働者1人につき30万円以下の罰金
いずれも、労働者への配慮を欠いた労務管理を続けることが、企業にとって現実的な法的リスクとなり得ることを示しています。
13. 有給休暇取得の実態(厚生労働省「就労条件総合調査」)
厚生労働省が公表した令和7年「就労条件総合調査」(常用労働者30人以上の民営企業を対象とする調査、令和7年1月1日時点、有効回答3,820社)によれば、令和6年(または令和5会計年度)における年次有給休暇の取得状況は次のとおりです。
- 労働者1人平均付与日数:18.1日(前年調査16.9日)
- 労働者1人平均取得日数:12.1日(前年調査11.0日、昭和59年以降過去最多)
- 労働者1人平均取得率:66.9%(前年調査65.3%、昭和59年以降過去最高)
取得率は10年連続で上昇を続けていますが、産業別に見ると、最も高い「電気・ガス・熱供給・水道業」の75.2%に対し、最も低い「宿泊業,飲食サービス業」は50.7%にとどまっており、業種によって20ポイント以上の差が生じています。政府は「過労死等防止対策大綱」において、年次有給休暇取得率について70%以上とする目標を掲げており、着実に目標水準に近づきつつある状況です。
14. 実務上のポイント(社会保険労務士の視点から)
有給休暇は、労働者にとっては当然の権利であると同時に、企業にとっては適正な労務管理が求められる制度です。特に、2019年4月から始まった年5日の取得義務は、企業規模を問わずすべての事業主に適用されるため、次のような点への注意が必要です。
- 労働者ごとの基準日(付与日)と、年5日の取得義務がかかる1年間の期間を正確に管理すること
- 年次有給休暇管理簿を作成し、法定の期間保存すること
- 労働者の意見を聴取したうえで、計画的な時季指定を行うこと
- パート・アルバイトを含め、比例付与の対象者を漏れなく把握すること
これらは制度の理解不足によって意図せず労働基準法違反に陥りやすい領域でもあるため、就業規則の整備や労務管理体制の構築にあたっては、専門家である社会保険労務士に相談することも有効な選択肢です。
15. まとめ
有給休暇は、労働基準法第39条を根拠として、要件を満たす労働者に法律上当然に発生する権利です。付与日数のルール、パート・アルバイトへの比例付与、年5日の取得義務、時季指定権と時季変更権、計画的付与、時間単位年休、2年の時効、買い上げの原則禁止など、制度は多岐にわたりますが、いずれも労働者の心身のリフレッシュという制度趣旨に基づいて設計されています。
厚生労働省の統計が示すとおり、有給休暇の取得率は着実に向上していますが、業種による差も依然として存在します。労働者・企業の双方が制度を正確に理解し、適正に運用していくことが、働きやすい職場づくりの土台になるといえるでしょう。
参考文献・引用元(一次情報)
- 厚生労働省「労働基準法」(e-Gov法令検索)第39条・第115条・第119条・第120条:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049/
- 厚生労働省「労働基準法施行規則」(e-Gov法令検索)第24条の3(比例付与):https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023/
- 厚生労働省リーフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」:https://www.mhlw.go.jp/content/001140963.pdf
- 厚生労働省リーフレット「年次有給休暇の時季指定義務」:https://www.mhlw.go.jp/content/000350327.pdf
- 厚生労働省「令和7年就労条件総合調査の概況」:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/index.html
- 厚生労働省「令和7年就労条件総合調査の概況」(詳細版PDF):https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/dl/gaikyou.pdf
- 行政通達(年次有給休暇の買い上げに関する解釈)昭和30年11月30日基収第4718号
※本記事は執筆時点で確認できる公的資料に基づいて作成しています。法令・通達は改正される場合がありますので、実務での適用にあたっては最新の情報をご確認いただくか、顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
