はじめに
「懲戒解雇をされたら、離職票にはどう書かれるのか」「懲戒解雇は失業保険(基本手当)にどう影響するのか」——このような疑問は、解雇された労働者だけでなく、懲戒処分を検討する事業主・人事労務担当者からも数多く寄せられます。
離職票は、退職後の生活に直結する雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)の受給に関わる重要な書類です。とりわけ懲戒解雇の場合、離職理由の記載内容によって、給付制限の有無や期間、所定給付日数が大きく変わる可能性があります。
本稿では、社会保険労務士の立場から、労働基準法・労働契約法・雇用保険法等の法令、厚生労働省やハローワークが公表している一次資料に基づき、懲戒解雇と離職票の関係を体系的に整理します。個別の労使トラブルにおける結論を断定するものではなく、あくまで制度と手続きの正確な理解を目的とした一般的な解説であることをあらかじめお断りいたします。
1. 離職票とは何か
1-1 離職票交付の法的根拠
離職票(正式名称:雇用保険被保険者離職票)は、事業主が労働者の離職に伴いハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を提出した後、ハローワークから事業主を経由して離職者本人に交付される書類です。
事業主のこの届出義務は、雇用保険法施行規則第7条に定められており、労働者が離職した日の翌日から10日以内に提出することとされています。
1-2 離職票-1と離職票-2の違い
離職票には「離職票-1」(求職者給付等の受給資格を確認するための資格喪失確認通知書を兼ねる様式)と「離職票-2」(離職理由の区分や離職前の賃金支払状況等が記載された様式)の2種類があります。基本手当(失業給付)の額や給付日数は、離職票-2に記載された離職前6か月間の賃金支払状況等をもとに算定されます。
離職理由、事業主が記載した離職理由に対する離職者本人の異議の有無、離職者本人の署名は、この離職票-2に記載される仕組みになっています。
2. 懲戒解雇とは何か
2-1 解雇の種類における位置づけ
解雇は一般に、労働者側の能力不足や勤務態度の問題等を理由とする「普通解雇」、経営上の必要性から人員削減を行う「整理解雇」、そして就業規則等に定める服務規律違反や非違行為を理由とする「懲戒解雇」に大別されます。懲戒解雇は、労働者に対する制裁としての性質を持つ最も重い処分であり、退職金の不支給・減額や解雇予告手当の除外認定と結びつくことが多い点が特徴です。
2-2 懲戒処分・解雇の有効性に関する法律上の要件
懲戒処分については、労働契約法第15条が「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。
また、解雇一般については、労働契約法第16条が「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています(いわゆる解雇権濫用法理)。懲戒解雇であっても、この2つの条文が定める要件を満たさなければ、法的には無効と判断され得ることになります。
2-3 就業規則への明記(労働基準法第89条)
懲戒解雇を行うためには、あらかじめ就業規則にその事由と手段(懲戒の種類及び程度)を明記し、労働者に周知しておくことが前提となります。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、制裁の定めをする場合においてはその種類及び程度に関する事項を就業規則に記載しなければならないことを定めています。就業規則に根拠のない事由による懲戒解雇は、労働契約法第15条・第16条の要件を満たさないと判断されるリスクが高くなります。
3. 懲戒解雇と解雇予告のルール
3-1 労働基準法第20条・第21条
使用者が労働者を解雇する場合、労働基準法第20条により、少なくとも30日前に予告をするか、予告に代えて30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う義務があります。この義務は懲戒解雇であっても原則として適用されます。
3-2 労働基準監督署長による除外認定
もっとも、労働基準法第20条第1項ただし書は、「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」には、この限りでないとしています。ただし、この除外事由に該当することについては、同条第3項が準用する第19条第2項により、所轄労働基準監督署長の認定(いわゆる解雇予告除外認定)を受ける必要があります。認定を受けずに即時解雇し、予告手当も支払わなかった場合は、労働基準法違反として罰則(同法第119条)の対象となり得ます。
実務上、懲戒解雇に伴う離職票の手続きにおいては、就業規則の該当部分の写しに加えて、労働基準監督署へ提出した解雇予告除外認定に関する資料の添付が、ハローワークから求められる場合があります。
4. 離職証明書における「懲戒解雇」の記載
4-1 離職理由コードの仕組み
離職証明書(離職票のもととなる書類)には、離職理由欄が設けられており、事業主は該当する離職理由に丸印を付けて提出します。ハローワークは、この離職証明書の記載内容と添付書類をもとに、離職票に記載する離職理由コードを判定します。
厚生労働省が公表している「離職区分コード早見表」では、離職者に交付される離職票に記載されるコードのうち、「1A」は解雇等による離職、「3A」は退職勧奨のほか事業縮小や賃金大幅低下等による正当理由自己都合離職等を指すとされています。どのコードに該当するかは、事業主が提出した離職証明書の記載及び添付書類をもとに、ハローワークの雇用保険適用部門が判断することとされています。
4-2 「重責解雇」という区分
離職理由欄では、単なる「解雇」と「重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)」が区別されています。重責解雇とは、刑法の規定に違反する行為、故意または重過失による設備・器具の破壊、事業所の信用失墜、重大な就業規則違反等により解雇された場合がこれに該当するとされています。懲戒解雇は、この「重責解雇」に区分されるケースが多いですが、懲戒解雇であれば自動的に重責解雇となるわけではなく、あくまで離職に至った経緯・事実関係に基づいてハローワークが判断します。
4-3 添付書類
懲戒解雇による離職の場合、ハローワークへの届出にあたっては、就業規則(該当部分の写し)に加えて、労働基準監督署へ提出した解雇予告に関する資料の添付が求められることが、各労働局が公表する提出書類一覧で示されています。
5. 懲戒解雇が失業給付(基本手当)に与える影響
5-1 特定受給資格者に該当しないケースがある
倒産や解雇等により再就職の準備をする時間的余裕がないまま離職を余儀なくされた者は、雇用保険法上「特定受給資格者」として、給付制限を受けずに基本手当を受給できるなどの取扱いを受けます。しかし、労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)は、この特定受給資格者の対象から除かれる取扱いとなっている点に注意が必要です。厚生労働省が公表する特定受給資格者の判定基準は、離職区分コード早見表を通じて確認できます。
5-2 給付制限期間
雇用保険の被保険者が正当な理由なく自己の都合によって退職した場合、基本手当は受給資格決定日から7日間の待期期間の満了後、一定期間支給されない「給付制限」が課されます。厚生労働省の案内によれば、退職日が令和7年4月1日以降である場合の給付制限期間は原則1か月、令和7年3月31日以前である場合は原則2か月とされています。
もっとも、この短縮の取扱いには例外があり、退職日から遡って5年間のうちに2回以上正当な理由なく自己都合退職し受給資格決定を受けた場合には給付制限は3か月となります。そして重要な点として、自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇(重責解雇)された場合も、給付制限は3か月とされています。つまり懲戒解雇が重責解雇と判定された場合、令和7年4月以降の1か月への短縮措置の対象外となり、原則どおり3か月の給付制限がかかることになります。
5-3 所定給付日数への影響
基本手当を受けられる日数の上限(所定給付日数)は、離職日における年齢、被保険者であった期間、離職理由等によって定められています。特定受給資格者に該当する場合と比べ、一般の離職者(自己都合退職や重責解雇による離職者を含む区分)は、所定給付日数が少なく設定される場合があります。具体的な日数は個々の状況により異なるため、正確な内容はハローワークインターネットサービスの公表資料や、管轄のハローワークへの確認が必要です。
6. 離職理由に納得できない場合の対応
6-1 離職者本人による確認・異議申立て
事業主は、離職者が離職する日までに、事業主が記入した離職理由を離職者本人に確認させ、その離職理由に異議が「有り」か「無し」かを離職者自身に○で囲ませたうえで、離職者の氏名を記載させる取扱いとなっています。これは、離職理由の判定が離職者本人の認識と食い違うことを防ぐための重要な確認プロセスです。
6-2 ハローワークにおける最終判定
離職区分コード早見表はあくまでハローワークの雇用保険適用部門が離職票を発行する際の判断基準であり、最終的な離職理由の判定は、雇用保険の受給資格決定時に、離職者本人に対する確認と調査を経て行われるとされています。したがって、離職証明書上の記載に異議がある場合は、離職者本人がハローワークでの手続きの際にその旨を申し出て、事実関係を確認してもらうことが可能です。
7. 退職証明書との違いと記載上の注意(労働基準法第22条)
7-1 退職証明書は離職票とは別の書類
離職票とは別に、労働者は労働基準法第22条に基づき、使用者に対して退職証明書の交付を請求することができます。同条第1項は、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由(退職の事由が解雇の場合はその理由を含む)について、労働者から請求があった場合には使用者が遅滞なく証明書を交付しなければならないと定めています。また、解雇予告がされた日から退職の日までの間に、労働者が解雇の理由について証明書を請求した場合も、使用者は遅滞なくこれを交付する義務を負います(同条第2項)。
7-2 労働者が請求した事項のみを記載
もっとも、同条第3項は「前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない」と定めています。これは、たとえ懲戒解雇の事実であっても、労働者本人が請求していない事項を退職証明書に記載してはならないことを意味します。加えて同条第4項は、使用者があらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げる目的で、証明書に秘密の記号を記入すること等を禁止しています。これらの規定は、離職後の労働者の再就職活動における不利益を防止する趣旨に基づくものであり、事業主が退職証明書や離職証明書を作成する際には十分な注意が必要です。
8. 事業主が実務で注意すべきポイント
8-1 客観的合理的理由と社会的相当性の確保
懲戒解雇は、労働契約法第15条・第16条が求める「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を欠く場合、無効と判断されるリスクがあります。就業規則上の懲戒事由への該当性、本人への弁明の機会の付与、処分の相当性(他の処分歴とのバランス等)について、事前に慎重な検討を行うことが求められます。
8-2 手続の適正化と記録の保存
懲戒解雇に至る事実関係については、就業規則の該当条項、非違行為の証拠、本人への注意指導の経緯等を記録・保存しておくことが、後日の紛争を防ぐ観点からも重要です。また、離職証明書の離職理由欄への記載は、事実に基づいて正確に行う必要があり、実態と異なる記載は、離職者本人からの異議申立てやハローワークの調査によって是正される可能性があります。
まとめ
懲戒解雇と離職票の関係を整理すると、以下の点が重要なポイントとなります。
- 離職票は雇用保険法施行規則第7条に基づく事業主の届出を経て交付される書類であり、離職理由コードは離職証明書の記載と添付書類をもとにハローワークが判定する。
- 懲戒解雇は、労働契約法第15条・第16条の要件(客観的合理的理由・社会的相当性)を満たさなければ法的に無効となり得る。
- 懲戒解雇に伴う解雇予告の除外には、労働基準監督署長の認定(労働基準法第20条・第19条第2項)が必要な場合がある。
- 懲戒解雇が「重責解雇」と判定された場合、特定受給資格者には該当せず、基本手当の給付制限は原則3か月となる。
- 離職理由に異議がある場合は、離職者本人による確認・異議申立ての機会が制度上用意されている。
- 退職証明書には、労働基準法第22条第3項により労働者が請求しない事項を記載してはならない。
懲戒解雇に関する判断や離職票の記載内容は、個別の事実関係によって結論が異なります。実際の対応にあたっては、就業規則の整備状況や事案の詳細を踏まえ、顧問社会保険労務士や弁護士等の専門家に相談のうえ、慎重に進めることをお勧めします。
参考文献・出典
- 厚生労働省「特定受給資格者となる離職理由の判定基準」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00064.html - 厚生労働省「離職区分コード早見表」(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001366800.pdf - 厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00045.html - 厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508.html - e-Gov法令検索「労働基準法」(昭和22年法律第49号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049/ - e-Gov法令検索「労働契約法」(平成19年法律第128号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128 - 愛知労働局(厚生労働省)「解雇」(労働契約法第16条・第17条の解説)
https://aichi-elcc.mhlw.go.jp/roudou_hourei/4563/ - 鹿児島労働局「Q7 労働基準法第20条の手続が適正であれば、解雇は許されるのでしょうか。」
https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/qa07/0703.html - 神奈川労働局ハローワーク「雇用保険被保険者離職証明書の記入例」(PDF)
https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-hellowork/content/contents/001294242.pdf - 東京労働局ハローワーク「離職票の交付を伴う喪失届の添付資料」(PDF)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/content/contents/001696679.pdf - 滋賀労働局「解雇理由証明書」様式(PDF)
https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/000951481.doc
本記事は、上記の法令・行政官庁公表資料等の一次情報に基づき、社会保険労務士の立場から一般的な制度解説として作成したものです。個別の事案における法的判断や対応方針を保証するものではありません。具体的な手続き・対応については、最寄りのハローワークまたは顧問社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
