【社会保険労務士が解説】懲戒処分における「戒告」とは?意味・効果・実施手順を法的根拠とともに徹底解説

目次

はじめに

「懲戒処分」という言葉を聞くと、多くの方は懲戒解雇や出勤停止といった重い処分を思い浮かべるかもしれません。しかし、実務上もっとも多く行われている懲戒処分は、実は最も軽い部類に位置づけられる「戒告(かいこく)」です。

戒告は、労働者に始末書の提出を求めたり、口頭・文書による厳重注意を行ったりすることで将来を戒める処分であり、経済的な不利益を伴わないことが多い一方で、労働者の人事評価や将来のキャリアに影響を及ぼす可能性がある重要な処分です。

本記事では、社会保険労務士の立場から、戒告の法的な位置づけ、就業規則における定め方、懲戒処分としての有効性の判断基準、実施の手順や注意点について、労働基準法・労働契約法などの法令、厚生労働省の公表資料、裁判例といった一次情報に基づいて解説します。就業規則の整備や懲戒処分の実施を検討されている企業の人事労務担当者の方、また、ご自身が戒告処分を受けて内容を理解したいという労働者の方の参考になれば幸いです。

なお、本記事は一般的な法令解説を目的としたものであり、個別の事案については、具体的な事実関係を踏まえて弁護士や社会保険労務士等の専門家にご相談いただくことをお勧めします。また、税務に関する内容は本記事の範囲外とさせていただきます。

戒告とは何か

戒告の意味

戒告とは、企業秩序に違反した労働者に対して、その将来を戒める(いましめる)ことを目的として行われる、懲戒処分の中で最も軽い処分の一つです。一般的には、口頭や文書による厳重注意という形で行われ、始末書の提出を求めないケースが多いとされています。

これに対し、実務上「けん責(譴責)」という処分がしばしば区別して用いられます。けん責は、戒告と同様に将来を戒める処分ですが、始末書の提出を求める点で戒告と異なるという整理が一般的に行われています。もっとも、「戒告」「けん責」という言葉の使い分けや始末書提出の要否は、法令上一律に定義されているものではなく、各企業が就業規則でどのように定めるかによって内容が決まります。したがって、自社の就業規則における戒告・けん責の定義や取扱いを正確に確認することが不可欠です。

就業規則上の位置づけ(相対的必要記載事項)

懲戒処分に関する定めは、就業規則に必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項ではなく、「定めをする場合」に記載が必要となる相対的必要記載事項です。この点は労働基準法第89条第9号に明記されています。

第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。(中略) 九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

つまり、企業が懲戒処分(制裁)を行いたい場合には、あらかじめ就業規則にその種類(戒告、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇など)と程度(対象となる事由や量定の考え方)を定めておく必要があるということです。厚生労働省が公表している「モデル就業規則」(令和7年12月版)においても、第12章「表彰及び制裁」の解説部分で、次のように説明されています。

表彰及び制裁について、その種類及び程度に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項に当たりますので、これらについて定めをする場合には、必ず就業規則に記載しなければなりません。

(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和7年12月版)

就業規則への根拠規定がなければ懲戒はできない

懲戒処分を行うためには、単に相対的必要記載事項として記載が求められるというだけでなく、そもそも就業規則にあらかじめ懲戒の種類と事由を定めておくことが、懲戒権行使の前提条件であると解されています。この考え方の基礎となっているのが、フジ興産事件に関する最高裁判所第二小法廷判決(平成15年10月10日)です。同判決は、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要するとの考え方を示しました。

厚生労働省のモデル就業規則の解説(第68条「懲戒の事由」部分)でも、この最高裁判決の考え方を踏まえ、次のように説明されています。

懲戒処分については、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件 最高裁第3小法廷判決昭和54年10月30日)において、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、「規則の定めるところ」により懲戒処分をなし得ると述べられています。したがって、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできません。

(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和7年12月版)

このように、戒告を含む懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒の種類(戒告等)と、どのような行為が懲戒事由に該当するのかを明確に定めておくことが大前提となります。就業規則を整備していない、あるいは懲戒の定めが曖昧な企業においては、たとえ労働者に問題行動があったとしても、懲戒処分としての戒告を行うことができない、あるいは処分の有効性が争われるリスクがある点に注意が必要です。

戒告の懲戒処分としての有効性――労働契約法第15条

懲戒権濫用法理とは

戒告は比較的軽い処分ではありますが、だからといって使用者が自由に行えるわけではありません。懲戒処分の有効性については、労働契約法第15条が次のように定めています。

(懲戒) 第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

(出典:労働契約法第15条)

この規定は、いわゆる「懲戒権濫用法理」を明文化したものです。すなわち、懲戒処分が有効となるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 客観的合理的理由があること:就業規則に定められた懲戒事由に該当する事実が客観的に存在すること
  2. 社会通念上相当であること:当該行為の性質・態様、被害の程度、労働者の反省の状況、過去の処分歴、他の労働者に対する処分との均衡など諸般の事情に照らして、選択された処分が重すぎないこと

戒告は懲戒処分の中でも軽い処分であるため、減給や出勤停止、懲戒解雇と比較すれば、相当性の要件を満たしやすい面はあります。しかし、それでも懲戒事由に該当する事実が客観的に認められない場合や、処分の手続に著しい不備がある場合には、戒告処分であっても無効と判断される可能性がある点は変わりません。

罪刑法定主義類似の考え方

懲戒処分は、企業内の秩序を維持するための制裁である一方、労働者に不利益を課す処分であることから、刑事罰における罪刑法定主義に類似した考え方が妥当するとされています。すなわち、あらかじめ就業規則に明確な定めがない行為について懲戒処分を科すことはできず、また、就業規則の懲戒規定を制定する前に行われた行為に遡って懲戒処分を科すこともできないと解されています。この点についても、厚生労働省のモデル就業規則の解説において、次のように述べられています。

また、就業規則に懲戒規定を設ける前にした労働者の行為に対して、さかのぼって懲戒処分をすることや、1回の懲戒事由に該当する行為に対し複数回の懲戒処分を行うことはできません。

(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和7年12月版)

このように、戒告処分を行う際にも、対象となる行為が就業規則制定(または懲戒規定新設)後のものであること、そして同一の事案について二重に処分(二重処罰)していないことを確認する必要があります。

厚生労働省モデル就業規則にみる懲戒処分の種類と戒告(けん責)の位置づけ

モデル就業規則における懲戒の種類

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)第67条「懲戒の種類」では、懲戒処分として以下の4種類が例示されています。

第67条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。 ① けん責 始末書を提出させて将来を戒める。 ② 減給 始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。 ③ 出勤停止 始末書を提出させるほか、_日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。 ④ 懲戒解雇 予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和7年12月版)

このモデル規定では「けん責」という名称が用いられ、始末書の提出を伴う処分として位置づけられています。企業によっては、始末書の提出を伴わない、より軽い注意処分として「戒告」を設け、「戒告」「けん責」「減給」「出勤停止」「懲戒解雇」の5段階、あるいはこれに降格や諭旨解雇を加えた段階的な処分体系を就業規則で定めている例もあります。どちらの制度を採用するか、また両者をどう区別するかは、各事業場の実情に応じて就業規則で決定すべき事項です。

減給の制裁における上限規制(労働基準法第91条)

戒告そのものは経済的制裁を伴わない処分ですが、実務では戒告よりも重い処分として減給が用いられることも多いため、あわせて確認しておきましょう。就業規則で減給の制裁を定める場合には、労働基準法第91条により、その上限が法定されています。

第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

(出典:労働基準法第91条)

これは、1つの懲戒事案について減給できる額は平均賃金の1日分の半額までとし、複数の事案がある場合でも、1回の賃金支払期における減給の総額は賃金総額の10分の1を超えてはならないとするものです。10分の1を超える部分は、次期の賃金支払期に繰り越して減給することになります。厚生労働省のモデル就業規則の解説でも、この上限規制について明確に言及されています。

就業規則で、減給の制裁を定める場合において、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない(労基法第91条)こととされています。

(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和7年12月版)

なお、戒告処分は減給を伴わない処分であるため、この労働基準法第91条の直接の規制対象にはなりません。ただし、戒告に伴って賞与査定や昇給・昇格の判断において一定の不利益を事実上受けることはあり得ます。もっとも、就業規則において「懲戒処分を受けた場合は昇給させない」といった欠格条件を一律に定めることが、実質的に減給の制裁に該当し労働基準法第91条の制限を受けるかどうかについては、その制度設計によって評価が異なり得るため、慎重な検討が必要です。

戒告処分の対象となる懲戒事由

モデル就業規則にみる懲戒事由の例

懲戒処分(けん責・減給・出勤停止に相当する比較的軽い処分)の対象となる事由について、厚生労働省のモデル就業規則第68条第1項では、次のような例が挙げられています。

第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。 ① 正当な理由なく無断欠勤が_日以上に及ぶとき。 ② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。 ③ 過失により会社に損害を与えたとき。 ④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。 ⑤ 服務規律・ハラスメント禁止規定等に違反したとき。 ⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和7年12月版)

戒告は、これらの懲戒事由に該当する行為の中でも、特に程度が軽微なものや、初回の違反、注意・指導によって改善が期待できるケースなどに適用されることが一般的です。度重なる違反や重大な結果を招いた行為については、より重い処分(減給、出勤停止、さらには懲戒解雇)が検討されることになりますが、その際にも、これまでの処分歴や指導の経緯(戒告を経ているかどうか)が、次の処分の相当性を判断する重要な要素となります。

ハラスメント防止と懲戒規定の関係

近年、職場におけるハラスメント防止の観点から、懲戒規定の整備が一段と重要になっています。厚生労働省のモデル就業規則の解説では、この点について次のように述べられています。

パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントについては、それらの言動を行った者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知する必要があります。(労働施策総合推進法第30条の2、均等法第11条、第11条の3、育児・介護休業法第25条)

(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和7年12月版)

このように、職場におけるパワーハラスメントについては労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第30条の2、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産等に関するハラスメントについては雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)第11条・第11条の3、育児・介護休業等に関するハラスメントについては育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第25条に基づき、事業主には雇用管理上必要な措置を講ずる義務があります。この措置の一環として、ハラスメント加害者に対する懲戒処分(戒告を含む)の規定を明確に定め、周知することが求められています。

戒告処分を実施する際の手順と留意点

戒告は懲戒処分の一種である以上、口頭での注意とは異なり、一定の手続を踏んで慎重に実施する必要があります。ここでは、一般的に留意すべきポイントを整理します。

就業規則の懲戒事由・種類への該当性の確認

まず、対象となる労働者の行為が、就業規則に定められた懲戒事由のいずれかに該当するかを確認する必要があります。前述のとおり、就業規則に定めのない事由で懲戒処分を行うことはできないというのが最高裁判例(国鉄札幌運転区事件)の考え方です。該当性が不明確な場合は、拡大解釈によって処分を行うのではなく、就業規則の規定内容そのものを慎重に検討する必要があります。

事実確認と本人への弁明の機会

懲戒処分を行うにあたっては、対象となる事実関係を客観的な資料や関係者からの聴取によって十分に確認することが重要です。また、処分の相当性を担保する観点から、本人に弁明の機会を与えることが望ましいとされています。就業規則や懲戒規程に弁明の機会の付与を手続要件として定めている場合には、これを怠ると手続的な瑕疵として処分の有効性が争われる要因となり得ます。

処分の相当性の検討

労働契約法第15条が求める「社会通念上の相当性」を確保するため、次のような要素を総合的に考慮して処分内容(戒告とするか、より重い処分とするか)を決定する必要があります。

  • 行為の性質・態様(故意か過失か、悪質性の程度など)
  • 会社に生じた損害や影響の程度
  • 本人の反省の状況や改善の見込み
  • 過去の処分歴・指導歴との整合性
  • 同様の事案における他の労働者への処分との公平性・均衡

二重処罰の禁止

同一の非違行為について、重ねて懲戒処分を行うことはできません(二重処罰の禁止)。既に口頭注意や指導を行った事案について、後日あらためて戒告処分を行う場合には、当該指導が正式な懲戒処分(戒告)に当たるものであったのか、単なる業務指導であったのかを明確に整理しておく必要があります。

処分の通知と記録の保存

戒告処分を行う場合には、処分の内容、対象となった事実、根拠となる就業規則の条項などを記載した書面(懲戒処分通知書等)を作成し、本人に通知することが一般的です。あわせて、始末書の提出を求める場合には、その位置づけ(けん責として扱うか等)を就業規則の規定に照らして明確にしておくことが望まれます。処分に関する記録は、後日の紛争に備えて適切に保存しておくことが重要です。

戒告処分が労働者に与える影響

戒告は経済的な不利益を直接伴わない処分であることが多いものの、次のような影響を及ぼす可能性があります。

  • 人事評価・考課への反映
  • 賞与や昇給・昇格の査定における不利な要素としての考慮
  • 将来、同種の行為を繰り返した場合に、より重い懲戒処分(減給、出勤停止、懲戒解雇等)の理由の一つとして考慮されること

厚生労働省のモデル就業規則の懲戒解雇事由の例示(第68条第2項)においても、「数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき」が懲戒解雇事由の一つとして挙げられています。このように、戒告は単発の処分にとどまらず、その後の処分歴の起点となる場合がある点で、労働者にとっても軽視できない処分であるといえます。

まとめ

本記事では、懲戒処分の中でも軽微な処分に位置づけられる「戒告」について、労働基準法・労働契約法等の法令や厚生労働省の公表資料、最高裁判例を踏まえて解説してきました。要点を整理すると、次のとおりです。

  • 戒告(けん責)は懲戒処分の一種であり、就業規則における相対的必要記載事項として、定める場合には種類・程度を明記する必要がある(労働基準法第89条第9号)
  • 懲戒処分を行うには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類・事由を定めておくことが前提となる(フジ興産事件最高裁判決、国鉄札幌運転区事件最高裁判決の考え方)
  • 戒告であっても、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は、懲戒権の濫用として無効となり得る(労働契約法第15条)
  • 減給処分を行う場合は、労働基準法第91条による上限規制(1回につき平均賃金の1日分の半額、総額で一賃金支払期の賃金総額の10分の1)を遵守する必要がある
  • 戒告は軽微な処分であっても、その後の懲戒歴や人事評価に影響を及ぼし得るため、実施に当たっては事実確認・弁明の機会の付与・処分の相当性の検討など、適正な手続を踏むことが重要である

就業規則における懲戒規定の整備や、実際の懲戒処分の実施にあたっては、法令や裁判例の考え方を踏まえた慎重な対応が求められます。自社の就業規則の内容が現在の法令や実務の考え方に適合しているか不安がある場合や、具体的な懲戒処分の実施を検討されている場合には、顧問社会保険労務士や弁護士等の専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

参考文献・出典一覧


本記事は、記事作成時点で公表されている法令・行政資料・判例に基づく一般的な解説であり、個別の事案における法的判断を保証するものではありません。実際の懲戒処分の実施や就業規則の改定にあたっては、必ず最新の法令・通達等をご確認いただくとともに、顧問社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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