【社会保険労務士が解説】北海道の最低賃金はいくら?最新の改定状況と企業が知っておくべき基礎知識

北海道内で事業を営む経営者・人事労務担当者の方、そして北海道内で働く方にとって、「最低賃金」は毎年欠かせない確認事項です。最低賃金は、最低賃金法(昭和34年法律第137号)に基づき国が賃金の最低限度を定める制度であり、これに違反すると罰則の対象にもなり得ます。

本記事では、社会保険労務士の立場から、厚生労働省・北海道労働局が公表している一次情報(法令、告示、公表資料)に基づき、北海道の最低賃金の現状と今後の見通し、そして企業が実務上留意すべきポイントを、公平性を保ちながら整理して解説します。なお、本記事は税務に関する内容は取り扱いません。

目次

1. 最低賃金制度とは何か

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。厚生労働省の解説によれば、労働者・使用者双方の合意があっても最低賃金額より低い賃金を定めた場合、その部分は法律により無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます(厚生労働省「最低賃金制度とは」)。

根拠となる条文は次のとおりです。

最低賃金法第4条第1項 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。 同条第2項 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。

(出典:厚生労働省「最低賃金制度とは」

最低賃金には、大きく分けて「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があり、両方の適用を受ける場合は高い方の金額が適用されます。

2. 北海道の最低賃金(地域別最低賃金)の現状

2-1. 現行の北海道最低賃金は時間額1,075円

北海道労働局の公表資料によれば、北海道内の事業場で働くすべての労働者(正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト、学生など雇用形態を問わない全ての人)及びその使用者に適用される北海道最低賃金は、令和7年(2025年)10月4日から時間額1,075円に改定されています(北海道労働局/厚生労働省ハローワーク名寄「令和7年度 北海道最低賃金の改定について」)。前年の1,010円からの引き上げとなり、北海道の地域別最低賃金が初めて1,000円台に乗った翌年度の改定にあたります。

厚生労働省は、都道府県ごとの地域別最低賃金額及び発効日の一覧を「地域別最低賃金の全国一覧」ページで公表しており、令和7年度地域別最低賃金全国一覧のPDFを確認することができます(厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」)。

2-2. 最低賃金に算入される賃金・されない賃金

最低賃金額と実際に支払われている賃金額を比較する際には、すべての賃金項目が対象になるわけではありません。北海道内自治体の広報でも周知されているとおり、次の賃金は最低賃金の対象額に算入されません。

  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当
  • 臨時に支払われる賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 時間外・休日・深夜の割増賃金

(出典:北海道苫小牧市「令和7年度最低賃金について」

したがって、基本給に各種手当を含めた「総支給額」ベースで単純に比較するのではなく、上記の除外対象を差し引いた金額で最低賃金を満たしているかを確認する必要があります。固定残業代(みなし残業代)を採用している企業では、基本給部分のみで最低賃金額を下回っていないかのチェックが特に重要になります。

3. 令和8年度(2026年度)の改定に向けた最新動向

3-1. 中央最低賃金審議会が示した引き上げ目安

厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会は、2026年度の最低賃金(時給)の引き上げ額の目安について、全国平均で55円(4.9%増)とする目安を取りまとめました。北海道が属するランクの目安額は56円とされています(北海道新聞デジタル「最低賃金引き上げ 北海道内の目安額は56円 時給1131円に 厚労審が決定」)。

3-2. 北海道地方最低賃金審議会による答申

この目安を受け、北海道労働局長の諮問機関である北海道地方最低賃金審議会は、2026年8月5日、北海道内の最低賃金を現行の1,075円から56円(5.2%)引き上げ、時間額1,131円とするよう北海道労働局長に答申しました。中央最低賃金審議会が示した目安額と同額での答申であり、引き上げは6年連続となります(日本経済新聞「北海道の最低賃金、56円引き上げ1131円 6年連続」)。

答申された金額は、異議申し立ての受け付けなど所定の手続を経たうえで正式に決定される仕組みとなっており、報道時点では2026年10月1日に適用される見通しとされています(日本経済新聞「北海道の最低賃金、56円引き上げ1131円 6年連続」)。

実務上の留意点:答申はあくまで「答申」の段階であり、法的拘束力を持つ正式な最低賃金額の決定・公示は、異議申出等の手続を経た後に北海道労働局長が行います。企業の給与実務においては、必ず北海道労働局が発表する正式な官報公示・発効日を確認したうえで対応することが重要です。最新の公示状況は、北海道労働局のホームページ(北海道労働局「北海道最低賃金について」)で確認できます。

4. 特定(産業別)最低賃金について

地域別最低賃金のほかに、特定の産業について設定される「特定最低賃金」があります。北海道労働局の周知資料によれば、令和7年12月1日発効の北海道の特定最低賃金は次のとおりです。

特定最低賃金の件名最低賃金額(時間額)効力発生年月日
処理牛乳・乳飲料、乳製品、砂糖・でんぷん糖類製造業1,113円令和7年12月1日
鉄鋼業1,165円令和7年12月1日
電子部品・デバイス・電子回路、電気機械器具、情報通信機械器具製造業1,116円令和7年12月1日
船舶製造・修理業、船体ブロック製造業1,105円令和7年12月1日

(出典:北海道労働局 最低賃金広報資料

特定最低賃金は、対象業種において地域別最低賃金よりも高い水準で設定されており、対象業種に該当する事業場では、地域別最低賃金ではなく特定最低賃金が優先して適用されます。ただし、18歳未満・65歳以上の者や、雇入れ後一定期間内で技能習得中の者など、特定最低賃金の適用が除外される労働者もいるため、自社が対象業種に該当するか、また対象労働者に該当するかは、北海道労働局や所轄の労働基準監督署に個別に確認することをお勧めします。

5. 最低賃金の適用対象となる労働者

最低賃金は、雇用形態にかかわらず、北海道内の事業場で働くすべての労働者に適用されます。正社員はもちろん、契約社員、パートタイマー、アルバイト、学生アルバイトなども区別なく対象です(釧路市「北海道の最低賃金が改定されます」)。

派遣労働者については、労働相談Q&Aの整理によれば、派遣先の地域における地域別最低賃金または特定最低賃金が適用されるとされています(最低賃金法第13条、第18条。出典:日本労働組合総連合会「労働相談Q&A|5.最低賃金」)。したがって、派遣元の所在地が北海道外であっても、派遣先の事業場が北海道内にある場合には、北海道の最低賃金が適用される点に留意が必要です。

5-1. 例外的に減額が認められる場合

最低賃金法第7条では、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、以下に該当する労働者について最低賃金額から一定率を減額した額を適用できる特例が定められています。

  • 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
  • 試用期間中の者
  • 職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練を受ける者のうち、厚生労働省令で定める者
  • 軽易な業務に従事する者
  • 断続的労働に従事する者

(出典:法令リード「最低賃金法」第7条社長のための労働相談マニュアル「最低賃金の適用除外」

この減額特例は、使用者が任意に判断できるものではなく、必ず所轄の労働基準監督署を通じて都道府県労働局長の許可を受ける必要があります。許可を得ずに減額して支払うことは最低賃金法違反となる点に注意してください。

6. 最低賃金違反の法的リスク

最低賃金法第40条は、地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係る違反(第4条第1項違反)について、罰則を定めています。

最低賃金法第40条 第4条第1項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、50万円以下の罰金に処する。

(出典:労働新聞社「最低賃金法 第39条~第42条」厚生労働省「最低賃金制度とは」

一方、船員に適用される特定最低賃金以外の特定最低賃金に違反した場合には、最低賃金法上の罰則ではなく、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)違反として、同法第120条により30万円以下の罰金の対象となる整理がなされています(出典:日本労働組合総連合会「労働相談Q&A|5.最低賃金」)。

また、最低賃金に達しない賃金しか支払っていなかった場合、罰則の有無にかかわらず、労働者との間で最低賃金額との差額を遡って支払う義務が生じます。これは最低賃金法第4条第2項により、最低賃金に達しない部分の定めが無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされることによるものです(出典:厚生労働省「最低賃金制度とは」)。

なお、最低賃金法第8条では、最低賃金の適用を受ける労働者がいる場合、最低賃金の概要を常時作業場の見やすい場所に掲示するなどして労働者に周知させる措置を講じる義務が使用者に課されています(出典:日本労働組合総連合会「労働相談Q&A|5.最低賃金」)。

7. 企業が取るべき実務対応

7-1. 賃金台帳・給与計算の総点検

最低賃金の改定時期には、基本給だけでなく、諸手当を含めた賃金体系全体を確認することが不可欠です。特に、固定残業代を導入している企業や、月給制で時給換算が必要な労働者を雇用している企業では、実際の時間単価が最低賃金額を下回っていないかを個別に確認する必要があります。厚生労働省は、最低賃金額以上かどうかをセルフチェックできる「最低賃金に関するセルフチェックシート」を公表しており、こうしたツールを活用した確認も有効です(厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」)。

7-2. 求人票・労働条件通知書の見直し

ハローワークに求人を提出している事業者は、最低賃金の改定に伴い、公開中の求人内容(時間給等)が新しい最低賃金額を満たしているかを確認し、必要に応じて求人者マイページ等から変更手続を行う必要があります(厚生労働省ハローワーク小樽「令和7年度北海道最低賃金改定」)。試用期間・トライアル雇用期間・研修期間中の賃金も最低賃金額を下回ることはできない点にも注意が必要です。

7-3. 賃上げに向けた公的支援の活用

北海道労働局は、最低賃金の引き上げに対応する中小企業・小規模事業者向けに、生産性向上等のための支援策を案内しています。具体的には、生産性向上に資する設備投資等を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に助成される「業務改善助成金」、非正規雇用労働者の正社員化等に取り組む事業主向けの「キャリアアップ助成金」、人材確保等に取り組む事業主向けの「人材確保等支援助成金」などが用意されています(札幌市「北海道の最低賃金」)。

また、中小企業・小規模事業者向けに、最低賃金の引き上げに向けた環境整備等について無料相談を行う「北海道働き方改革推進支援センター」も設置されています(札幌市「北海道の最低賃金」)。これらの制度の詳細な要件・申請手続については、厚生労働省または北海道労働局の公式ページ、あるいは顧問社会保険労務士への相談を通じて、最新の公募要領を確認したうえで活用を検討することをお勧めします。

8. まとめ

北海道の最低賃金は、令和7年(2025年)10月4日から時間額1,075円に改定されており、令和8年(2026年)度についても、北海道地方最低賃金審議会が56円引き上げの時間額1,131円とする答申を行うなど、近年、引き上げが継続する傾向にあります。企業としては、地域別最低賃金だけでなく、対象業種に該当する場合は特定最低賃金の適用の有無、算入されない賃金項目の整理、そして減額特例の適正な運用など、複数の観点から自社の賃金制度を点検することが求められます。

最低賃金は、労働基準法や社会保険諸法令とも密接に関連する分野です。自社の賃金体系が最低賃金額を満たしているか判断に迷う場合や、特定最低賃金の適用関係、減額特例の許可申請などでお悩みの場合は、最新の公示情報を踏まえたうえで、顧問社会保険労務士など専門家への相談をご検討ください。


参考・出典一覧

本記事は、記事執筆時点で公表されている一次情報(法令・厚生労働省及び北海道労働局の公表資料・報道発表等)に基づき作成しています。最低賃金額は今後の正式な公示により変更される可能性がありますので、実際の運用にあたっては、必ず厚生労働省・北海道労働局の最新の公表情報をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については、顧問社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

目次