【社会保険労務士が解説】カスハラ対策の義務化はいつから?改正労働施策総合推進法と企業が講ずべき10の措置

目次

はじめに

「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」が、いよいよ法律上の義務になります。これまで多くの企業が任意の取組みとしてカスハラ対策を進めてきましたが、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)の改正により、事業主にはカスハラ防止のための雇用管理上の措置を講ずることが法的義務として課されることになりました。

本稿では、社会保険労務士の立場から、厚生労働省が公表している一次情報(法律・指針・リーフレット・調査結果)に基づき、カスハラ対策義務化の概要と、企業が施行までに準備すべき事項を整理します。なお、本稿は令和8年(2026年)8月時点で公表されている情報をもとに作成しており、税務に関する事項は取り扱っておりません。また、内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。

カスハラの実態|厚生労働省の調査データから

厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によれば、過去3年間に労働者から「顧客等からの著しい迷惑行為」、いわゆるカスハラの相談があったと回答した企業の割合は27.9%にのぼり、前回調査(令和2年度)と比較して8.4ポイント増加したことが明らかになっています(出典:政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介」)。

また、カスハラがあったと判断した企業からは、具体的な事例として「継続的、執拗な言動」「威圧的な言動」「精神的な攻撃」などが挙げられており、顧客対応を行う労働者の就業環境に深刻な影響を及ぼしている実態がうかがえます。こうした状況を背景に、国はカスハラ対策の強化を法制度に組み込む方針を固め、今回の法改正に至りました。

カスハラ対策義務化の法的根拠|改正労働施策総合推進法

成立・公布・施行のスケジュール

カスハラ対策の義務化は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)によって実現するものです。この改正法は令和7年(2025年)6月4日に成立し、同年6月11日に公布されました。

改正法は公布日から起算して1年6か月以内で政令に定める日から施行されることとされており、カスタマーハラスメント防止措置及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止措置については、令和8年(2026年)10月1日が施行日と定められています(出典:厚生労働省福井労働局「労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法及び女性活躍推進法の改正について」)。なお、治療と仕事の両立支援に関する規定など一部の規定は、これに先行して令和8年4月1日から施行されています。

条文上の位置づけ

改正後の労働施策総合推進法では、カスタマーハラスメント防止のための事業主の雇用管理上の措置義務が新たに規定として設けられました。同法第33条第1項において、事業主は、職場において行われる顧客等の言動により労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされています。

そして、同条第4項に基づき、事業主が講ずべき措置等について、厚生労働大臣が指針を定めることとされています。この指針が、令和8年2月26日付で告示された「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)です(出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)について【概要】」)。

なお、自社の労働者が取引先等、他社の労働者に対してカスタマーハラスメントを行った場合、当該取引先等の事業主から事実確認等の協力を求められたときは、これに応じるよう努めることとされている点も、同法第33条第3項に定められた特徴的な規定です(出典:厚生労働省リーフレット)。

職場における「カスタマーハラスメント」の定義|3つの要素

指針及び厚生労働省のリーフレットによれば、職場における「カスタマーハラスメント」とは、職場において行われる次の①〜③の要素をすべて満たすものと定義されています(出典:厚生労働省「令和8年10月1日から、ハラスメント対策が強化されます!カスタマーハラスメント対策の義務化【改正労働施策総合推進法・指針の内容】」)。

  1. 顧客等の言動であること
  2. その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

厚生労働省の資料では、これら①〜③をすべて満たす場合にカスハラに該当するとされており、正当な苦情や要望であって社会通念上許容される範囲内のものは、カスハラには該当しないとされています。また、対面でのやり取りに限らず、電話やSNS等のインターネット上で行われる言動も対象に含まれる点に留意が必要です。

「顧客等」の範囲

指針上の「顧客等」とは、顧客、取引の相手方、施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者その他当該事業主の行う事業に関係を有する者を指すとされ、今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある者も含まれるとされています。病院や福祉施設等においては、施設の利用者及びその家族もこの「顧客等」に含まれることが明確化されています。

社会通念上許容される範囲を超えた言動の具体例

厚生労働省のリーフレットでは、社会通念上許容される範囲を超えた言動として、以下のような例が挙げられています。

言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの

  • そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求
  • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求
  • 不当な損害賠償要求

手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
  • 威圧的な言動
  • 継続的、執拗な言動
  • 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

これらはあくまで例示であり、実際の該当性は個別の事情に照らして総合的に判断されることになります。

事業主が必ず講ずべき措置|指針が示す枠組み

指針では、事業主が必ず講じなければならない措置として、以下の枠組みが示されています(出典:厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日から、ハラスメント対策が強化されます!」)。

1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

  • カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
  • カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を、労働者に周知すること(管理監督者への相談体制、複数人での対応、犯罪に該当し得る言動への警察通報、本社・本部との情報共有体制等)

2. 相談体制の整備

  • 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
  • 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること

3. 事後の迅速かつ適切な対応

  • 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • 被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を行うこと
  • 再発防止に向けた措置を講ずること

4. 対応の実効性を確保するための抑止措置

  • 特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備すること

5. そのほか併せて講ずべき措置

  • 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること
  • 相談したこと等を理由として、労働者が不利益な取扱いを受けない旨を定め、周知・啓発すること

これらは、既に義務化されているパワーハラスメント防止措置の枠組みと共通する部分が多い一方、カスタマーハラスメント特有の内容(悪質なケースへの対処方針の整備や、他社からの協力要請への対応等)も盛り込まれている点が特徴です。

対策を講じる際の留意点

指針では、カスハラ対策を講じるにあたり、次の点にも留意する必要があるとされています。

  • 消費者法制により定められている消費者の権利を不当に制限しないこと
  • 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)に定められている、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供義務との整合性を図ること

カスハラ対策は、労働者保護の観点からの措置である一方、正当な顧客対応や障害のある方への合理的配慮を不当に制限するものであってはならないという点は、企業として特に注意すべきバランス感覚といえます。

東京都カスタマーハラスメント防止条例との関係

国の法改正に先行して、東京都では令和6年(2024年)10月4日に「東京都カスタマーハラスメント防止条例」が成立し、令和7年(2025年)4月1日から施行されています。都内に事業所を置く企業は、この条例に基づく対応も併せて求められている状況にあります。

また、東京都は都内で事業を営む中小企業等(常時雇用する従業員数が300人以下)を対象に、「カスタマー・ハラスメント防止対策推進奨励金」を設けています。カスハラ対策マニュアルの策定・改定に加え、録音・録画機器の導入、AI技術を用いたシステムの導入、外部人材の活用といった取組みのいずれかを実施することが支給要件とされ、支給額は定額40万円です(出典:東京しごと財団「カスタマーハラスメント防止対策推進事業企業向け奨励金」)。募集要項や受付方式は年度ごとに見直されているため、最新情報は東京都及び東京しごと財団の公式サイトで確認する必要があります。

国の法改正への対応を検討する際は、都道府県や市区町村が独自に定める条例の有無・内容も併せて確認することが実務上重要です。

義務に違反した場合の取扱い

改正労働施策総合推進法に基づくカスハラ防止措置義務について、違反した事業主に対する直接の罰則規定は設けられていません。もっとも、既に義務化されているパワーハラスメント防止措置と同様の法構造が採られており、行政による助言・指導・勧告等の対象となり得ることが想定されます。

加えて、法律上の措置義務とは別に、企業がカスハラ対策を怠り、労働者の心身の健康を損なう事態が生じた場合には、労働契約法第5条に定める安全配慮義務違反を構成し、労働者に対する損害賠償責任が問われる可能性がある点にも留意が必要です。法令上の義務化の有無にかかわらず、使用者には労働者が安全で健康的に働ける環境を整備する責務があることを、改めて意識しておく必要があります。

企業が施行までに準備すべきこと

社会保険労務士の立場から、施行日である令和8年10月1日に向けて企業が取り組むべき事項を整理すると、おおむね次のような流れになります。

  1. 現状の把握:自社における顧客対応の実態や、過去のカスハラ関連の相談・トラブル事例を確認する
  2. 方針の策定:カスハラには毅然とした態度で対応し労働者を保護するという事業主の方針を明文化する
  3. 社内規程・マニュアルの整備:対応フロー、悪質なケースへの対処方針、警察への通報基準などを定める
  4. 相談窓口の設置・周知:相談窓口を明確にし、担当者が適切に対応できる体制を整える
  5. 研修・周知啓発の実施:管理監督者・現場従業員それぞれに向けた研修を行う
  6. 就業規則等の見直し:必要に応じてカスハラに関する規定を就業規則等に盛り込む
  7. 他社との連携体制の確認:取引先の労働者による自社労働者へのカスハラ、あるいはその逆のケースについて、協力対応の在り方を確認する

これらの措置は、既存のパワーハラスメント防止体制と重複する部分も多いため、既存の相談窓口や規程を活用しながら、カスタマーハラスメントに特有の要素(悪質事案への対処方針、顧客等との関係整理、消費者の権利や合理的配慮への留意等)を追加していく形で整備を進めることが、実務上効率的と考えられます。

まとめ

改正労働施策総合推進法により、令和8年(2026年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策は企業にとって「望ましい取組み」から「法律上の義務」へと位置づけが変わります。厚生労働大臣が定めた指針(令和8年厚生労働省告示第51号)では、カスハラの定義、顧客等の範囲、事業主が必ず講ずべき措置の内容が具体的に示されており、企業はこれらの内容を踏まえた社内体制の整備を進める必要があります。

一方で、カスハラ対策は労働者保護と消費者の正当な権利・合理的配慮とのバランスを取りながら進めるべき性質のものでもあります。自社の業種・業態に応じた実効性のある対策を講じるためには、厚生労働省が公表しているマニュアルや指針、都道府県の条例等の一次情報を確認しつつ、専門家である顧問社会保険労務士等に相談しながら準備を進めることをお勧めします。


参考文献・出典

※本記事は、上記一次情報等をもとに、社会保険労務士の立場から令和8年8月時点の情報を整理したものです。制度の詳細や最新の運用状況については、必ず厚生労働省及び都道府県労働局等の公式発表をご確認ください。また、個別の事案への対応については、顧問の社会保険労務士や弁護士等の専門家にご相談ください。

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