正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁止する「同一労働同一賃金」制度について、その解釈指針である同一労働同一賃金ガイドラインが約5年ぶりに大きく見直されました。令和8年4月28日に関係省令・告示が公布され、令和8年10月1日から施行・適用されます。
本記事では、社会保険労務士の立場から、今回の見直しの背景から具体的な改正内容、企業の実務対応まで、厚生労働省が公表している一次資料に基づき、公平かつ正確に解説します。
1. そもそも同一労働同一賃金とは何か
同一労働同一賃金とは、同一企業・団体における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指す考え方です。どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにすることが目的とされています。
この制度の法的根拠となっているのが「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)と「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)です。パートタイム・有期雇用労働法は2020年4月に施行され、中小企業については2021年4月1日から全面適用されています。
これらの法律の内容を補い、どのような待遇差が「不合理」に当たり、どのような待遇差は「不合理」に当たらないのかについて、原則的な考え方と具体例を示したものが「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」、いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」(平成30年厚生労働省告示第430号)です。
2. なぜ今、ガイドラインが見直されるのか|改正の経緯
同一労働同一賃金制度は施行から5年が経過しました。この間、非正規雇用労働者と通常の労働者との間の待遇差の不合理性が争われた裁判例が複数積み重ねられており、ガイドライン策定時には十分に想定されていなかった論点についても、司法判断が示されるようになりました。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省は令和7年2月から労働政策審議会の「同一労働同一賃金部会」を開催し、見直しに向けた議論を重ねてきました。同部会での議論は令和7年12月に部会報告として取りまとめられ、この報告を踏まえたガイドライン改正案を含む省令・指針案要綱について、令和8年3月に労働政策審議会への諮問・答申が行われています。
そして令和8年4月28日、改正後の省令・告示が公布されました。施行・適用日は令和8年10月1日です。企業規模を問わず、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者を雇用(受入れ)するすべての事業主が対象となります。
なお、今回の労働政策審議会の議論では、待遇差が不合理かどうかの立証責任を事業主側に転換すべきかどうかも論点となりましたが、法的枠組み自体の変更については意見の一致に至らず、パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法そのものの改正は見送られました。今回の見直しは、あくまで法律の解釈指針であるガイドラインおよび関連する省令・告示の改正という形で行われている点は、実務上おさえておくべき重要なポイントです。
3. 今回の改正の全体像|3つの柱
厚生労働省が公表している資料によれば、令和8年10月1日施行の改正は、大きく次の3つの柱から構成されています。
- 雇い入れ時の労働条件明示事項の追加(パートタイム・有期雇用労働法施行規則の改正)
- 同一労働同一賃金ガイドラインの改正(令和8年厚生労働省告示第203号)
- 雇用管理の改善等に関する措置内容の改正(令和8年厚生労働省告示第202号、雇用管理指針の改正)
以下、それぞれの内容を具体的に見ていきます。
4. 【柱1】雇い入れ時の労働条件明示事項の追加
パートタイム・有期雇用労働法施行規則(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則)が改正され、同法第6条第1項に基づく労働条件明示事項に、「事業主に対して法第14条第2項の規定による説明を求めることができる旨」が追加されます。
パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項は、非正規雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との待遇の相違の内容や理由等について事業主が説明しなければならないことを定めた規定です。今回の改正により、この「説明を求めることができる」という権利の存在自体を、雇い入れの段階からあらかじめ明示することが義務付けられることになります。
これに合わせて、厚生労働省は改正内容に対応した「モデル労働条件通知書」を公表しています。企業においては、自社の労働条件通知書・雇用契約書の様式を、この明示事項を盛り込んだ形に見直す必要があります。
5. 【柱2】同一労働同一賃金ガイドラインの改正内容
今回の見直しの中心となるのが、同一労働同一賃金ガイドラインそのものの改正です。厚生労働省が公表した資料に基づき、主な改正点を整理します。
5-1. 裁判例を踏まえた待遇項目ごとの記載の見直し・充実
改正後のガイドラインでは、これまで記載が十分でなかった待遇項目について、近年の裁判例を踏まえた考え方が新たに示され、あるいは記載が充実されました。対象となる主な待遇項目は次のとおりです。
賞与・退職手当 賞与や退職手当の性質・目的には、労務の対価の後払いや功労報償など様々なものが含まれるとした上で、これらの性質・目的が妥当するにもかかわらず、通常の労働者との職務の内容等の相違に応じた均衡のとれた内容を非正規雇用労働者に支給しない場合には、不合理と認められるものに当たり得ることに留意すべきとされました。賞与については記載の充実、退職手当については新規の記載追加という位置づけです。
無事故手当 通常の労働者と業務の内容が同一である非正規雇用労働者には、通常の労働者と同一の無事故手当を支給すべきことが新たに記載されました。
家族手当 労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれる非正規雇用労働者には、通常の労働者と同一の家族手当を支給すべきことが新たに記載されました。逆に言えば、契約更新を繰り返しておらず継続的な勤務が見込めない場合にまで、一律に同一の支給を求める趣旨ではない点にも留意が必要です。
住宅手当 転居を伴う配置転換の有無に応じて支給される住宅手当については、通常の労働者と同一の転居を伴う配置転換がある非正規雇用労働者には、通常の労働者と同一の住宅手当を支給すべきことが新たに記載されました。
病気休職・休暇 労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれる非正規雇用労働者にも、通常の労働者と同一の病気休職・休暇(療養への専念を目的とした休暇に限る)期間に係る給与を保障すべきことについて、記載が充実されました。
夏季冬季休暇 非正規雇用労働者にも、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与すべきことが新たに記載されました。
褒賞 一定の期間勤続した労働者に付与される褒賞については、通常の労働者と同一の期間勤続した非正規雇用労働者には、通常の労働者と同一の褒賞を付与すべきことが新たに記載されました。
5-2. いわゆる「正社員人材確保論」に関する記載の明確化
通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に待遇の相違がある場合、その要因として「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」といった目的が挙げられることがあります。今回の改正では、こうした目的があること自体をもって、直ちに当該待遇の相違が不合理ではないと当然に認められるものではない旨が明記されました。企業が待遇差の理由として人材確保の目的のみを形式的に主張しても、それだけでは合理性の説明として十分でない場合があることを示す記載といえます。
5-3. 通常の労働者の待遇引下げによる解消は認められない旨の明確化
事業主が通常の労働者と非正規雇用労働者との間の待遇の相違を解消しようとする場合、パートタイム・有期雇用労働法の目的に照らせば、通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく、非正規雇用労働者の労働条件の改善を図ることが求められる旨が明確化されました。待遇差の是正を、正社員側の待遇引下げによって行うことは、制度の趣旨に沿わないという考え方が示されたものです。
5-4.「その他の事情」の明確化
パートタイム・有期雇用労働法第8条は、基本給・賞与その他の待遇のそれぞれについて、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。今回の改正では、この「その他の事情」について、行政通達で示されてきた具体例(職務の成果、能力、経験、合理的な労使慣行等)がガイドラインにも記載されました。また、事業主が非正規雇用労働者の意向を十分に考慮せず一方的に待遇を決定した場合には、当該待遇の相違が不合理と認められる事情として考慮され得る旨も明確化されています。
5-5. 無期雇用フルタイム労働者への波及
無期雇用フルタイム労働者は、パートタイム・有期雇用労働法上の「短時間・有期雇用労働者」には該当しません。しかし、これらの労働者との労働契約を締結・変更する際の「均衡の考慮」に当たっては、ガイドラインの趣旨が考慮されるべきであることが記載されました。いわゆる正社員間・無期契約社員間の待遇差についても、ガイドラインの考え方が一定の指針として意識されることになります。
5-6. 派遣労働者に関する記載の見直し
ガイドラインにおける派遣労働者・協定対象派遣労働者に関する記載についても、パートタイム・有期雇用労働者に関する記載と同様の見直しが行われています。労働者派遣を活用する企業においても、派遣先均等・均衡方式や労使協定方式の運用に影響し得る内容です。
6. 【柱3】雇用管理指針(雇用管理改善措置指針)の改正内容
「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」(平成19年厚生労働省告示第326号)についても、同一労働同一賃金ガイドラインの改正内容と整合する形で改正が行われます。主な改正事項は次のとおりです。
- 雇用管理の改善等に関する措置を講ずるに当たり、職業能力開発促進法についても適用があることを認識し、遵守しなければならないこと
- 職務の内容や成果等を公正に評価して昇給に反映する等、公正な評価に基づき賃金を決定することが望ましいこと
- パートタイム・有期雇用労働者の過半数を代表する者(いわゆるパ有過半数代表)について、労働基準法第41条第2号の監督・管理者でないこと、事業主の意向に基づかない民主的な方法により選出された者であることなど、要件を明確化
- パ有過半数代表として正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止を強化する記載への改正
- パ有過半数代表が事務を円滑に遂行できるよう、事務スペースや事務機器の提供等、必要な配慮を行わなければならないこと
- 給食施設・休憩室・更衣室等の福利厚生施設の利用に関する便宜供与への配慮
- 通常の労働者への転換推進措置について、複数の措置を講ずることが望ましいこと、面談やメール等を活用して労働者の意向を確認し配慮すべきこと
- 待遇の相違の内容等の説明方法について、資料を用いた口頭説明、または説明事項を全て記載した分かりやすい資料の交付等によるべきこと、資料交付が困難な場合でも事後の閲覧等の工夫に努めるべきこと
- 法第14条第2項に基づく説明の求めがない場合であっても、契約更新の際等に待遇の相違に関する資料を交付すること、説明を求められることを周知することが望ましいこと
- パートタイム・有期雇用労働者との話合いの機会やアンケート実施等により、意見を聴く機会を設けるよう努めること
- 通常の労働者への転換制度の内容・転換実績等について、ウェブサイト等での定期的な公表が望ましいこと
このように、単なる待遇の説明義務にとどまらず、労使コミュニケーションの促進や、非正規雇用労働者の意見を聴く機会の確保が、雇用管理上のあるべき姿として明記された点が特徴といえます。
7. 改正は「法改正」ではなく「解釈指針の見直し」である点に注意
繰り返しになりますが、今回の見直しはパートタイム・有期雇用労働法や労働者派遣法そのものの条文改正ではなく、施行規則・告示(ガイドライン・雇用管理指針)の改正です。したがって、待遇差の不合理性を判断する法律上の枠組み(パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条等)自体が変わるわけではありません。
もっとも、ガイドラインは行政による助言・指導・勧告等の運用や、事業主による自主点検の際の実務上の判断基準として広く用いられているものであり、記載の充実・新設は、企業実務における対応の目安が具体化されたことを意味します。また、退職金や各種手当を新たに明示的な対象とした点は、これまで判断に迷いやすかった論点について、行政としての整理が示されたものと位置付けられます。
8. 違反した場合の行政上の取扱い
パートタイム・有期雇用労働法第18条は、厚生労働大臣(権限の一部は都道府県労働局長に委任)が、パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るために必要があると認めるときは、事業主に対して報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができると定めています。同条第2項では、同法第6条第1項、第9条、第11条第1項、第12条から第14条まで、第16条の規定に違反している事業主が勧告に従わなかった場合、その旨を公表することができるとされています。
さらに、事業主が第18条に基づく報告を求められたにもかかわらず報告をせず、または虚偽の報告をした場合には、同法第30条により20万円以下の過料の対象となります。今回のガイドライン・雇用管理指針の改正は、こうした既存の行政上の履行確保の仕組みの運用において、判断の目安として用いられていくことになります。
9. 企業が令和8年10月の施行までに進めるべき実務対応
社会保険労務士の立場から、施行日までに企業が確認・準備しておくべき事項を整理します。
- 労働条件通知書・雇用契約書の様式を、「法第14条第2項の説明を求めることができる旨」の明示に対応した内容に見直すこと(厚生労働省公表のモデル労働条件通知書を参考にできます)
- 家族手当・住宅手当・退職手当・賞与・夏季冬季休暇・褒賞・無事故手当・病気休職休暇について、非正規雇用労働者への適用状況を改めて点検すること
- 待遇差が存在する場合、その待遇の性質・目的に照らして、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情のいずれを考慮して差を設けているのかを整理し、説明できる状態にしておくこと
- パートタイム・有期雇用労働者から待遇差の説明を求められた場合の対応フロー(資料の準備、説明担当者、記録方法)を整備すること
- パ有過半数代表の選出方法が、事業主の意向に基づかない民主的な手続によるものになっているか確認すること
- 非正規雇用労働者との話合いの機会やアンケート等、意見を聴く機会の設定を検討すること
なお、厚生労働省は中小企業・小規模事業者向けに、社会保険労務士等の専門家による無料相談支援を行う「働き方改革推進支援センター」や、非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善に取り組む事業主への「キャリアアップ助成金」といった支援策も用意しています。自社のみで対応が難しい場合には、こうした公的支援策の活用や、顧問社会保険労務士への相談も選択肢となります。
10. まとめ
令和8年10月1日に施行される同一労働同一賃金ガイドライン等の見直しは、法律そのものの改正ではないものの、5年間の運用と裁判例の蓄積を踏まえ、家族手当・住宅手当・退職手当・賞与・夏季冬季休暇・褒賞・無事故手当・病気休職休暇といった具体的な待遇項目について、これまで以上に踏み込んだ考え方が示されるものです。あわせて、雇い入れ時の説明義務の明示や、雇用管理指針における労使コミュニケーションの促進策も強化されます。
不合理な待遇差の是正は、一度の見直しで完結するものではなく、労使が話し合いながら継続的に取り組んでいくべき課題です。施行日である令和8年10月1日までに時間的余裕があるとはいえ、就業規則・賃金規程・労働条件通知書の見直しには相応の準備期間を要します。早めの自社点検と、必要に応じた専門家への相談をお勧めします。
参考文献・出典
本記事の内容は、以下の厚生労働省等の公表資料に基づいています。
- 厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」<br>https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
- 厚生労働省「令和8年改正の概要」(パートタイム・有期雇用労働法施行規則/雇用管理指針の主な改正事項)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001695902.pdf
- 事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第202号)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001695909.pdf
- 短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第203号)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001695910.pdf
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則及び短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第87号)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001695908.pdf
- 同一労働同一賃金ガイドライン 新旧対照表(解説付き)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001695906.pdf
- 改正省令及び告示の周知に係るQ&A<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001695919.pdf
- 同一労働同一賃金ガイドライン及び雇用管理指針に関するQ&A(令和8年改正)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001716915.pdf
- 労働政策審議会 同一労働同一賃金部会 部会報告(令和7年12月)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/001629296.pdf
- 短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(平成30年厚生労働省告示第430号/見直し案)<br>https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001598238.pdf
- パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)条文<br>e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC1000000076
※本記事は執筆時点で厚生労働省が公表している一次資料に基づき作成しています。法令・指針の適用にあたっては、必ず厚生労働省の最新公表資料または所轄の労働局または顧問社会保険労務士等にご確認ください。
