育児休業や介護休業を控えた従業員から「育休中の給付金はいくらもらえますか」と質問されたとき、その支給額を決定づける最も重要な書類のひとつが「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」です。
正式名称が長く、初めて手続きを行う人事労務担当者の方や、これから育児休業を取得される被保険者ご本人にとっては、「何のための書類なのか」「誰が、いつまでに、どこへ提出するのか」が分かりにくい書類でもあります。
本記事では、社会保険労務士の立場から、雇用保険法および雇用保険法施行規則の根拠条文、厚生労働省が公表している資料に基づき、この証明書の目的・提出先・提出期限・記入時の注意点・よくある間違いまでを体系的に整理して解説します。制度の理解を深めていただき、正確でスムーズな手続きの一助となれば幸いです。
なお、本記事は2026年8月時点で公表されている厚生労働省の情報をもとに作成しています。制度は改正されることがあるため、実際の手続きにあたっては、必ず最新の情報を厚生労働省・管轄のハローワークでご確認ください。また、税務に関する内容は本記事の対象外です。
目次
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書とは
- この証明書の法的根拠
- どのような場面で必要になるか
- 提出者・提出先・提出期限
- 証明書とあわせて提出する添付書類
- 記入時に押さえておきたいポイント
- 支給額はどう決まるのか(賃金日額の算定)
- よくある記入ミス・実務上の注意点
- 令和8年8月1日からの手続き見直しのポイント
- まとめ
- 参考文献・出典
1. 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書とは
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書は、育児休業給付金や介護休業給付金の支給額を算定するための基礎資料として、事業主が被保険者の賃金支払状況をハローワーク(公共職業安定所)に証明する書類です。
育児休業給付金・介護休業給付金は、休業開始前の一定期間における賃金額をもとに「休業開始時賃金日額」を算出し、これに給付率(原則67%、育児休業給付金は6か月経過後は50%)を乗じて支給額を計算する仕組みになっています。つまり、この証明書に記載された賃金額そのものが、給付金の額に直結する非常に重要な書類なのです。
厚生労働省が公表している様式集や記入例においても、この書類は「休業を開始した日」「賃金支払対象期間」「賃金支払基礎日数」「控除前の賃金額」を正確に記載することが求められており、育児休業だけでなく介護休業の給付金申請の際にも、同一の様式が使用されます。
なお、この書式はハローワークのウェブサイトから一般にダウンロードできる形式では公開されておらず、事業所の所在地を管轄するハローワークの窓口で交付を受けるか、郵送で取り寄せる必要がある点も実務上のポイントです。
2. この証明書の法的根拠
この証明書の提出義務は、単なる実務慣行ではなく、雇用保険法および同法施行規則に明確な根拠があります。
育児休業給付金の根拠
育児休業給付金は雇用保険法第61条の7に規定されています。同条第1項では、育児休業給付金の支給要件として、育児休業を開始した日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上(またはこれによりがたいときは賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上)ある月が通算して12か月以上あること(いわゆる「みなし被保険者期間」)が必要である旨が定められています。
また、疾病・負傷・出産・事業所の休業などのやむを得ない理由により引き続き30日以上賃金を受けられなかった場合には、その日数を2年間に加算できる特例が雇用保険法施行規則第101条の29に定められています。
そして、育児休業給付金の支給を受けようとする被保険者は、支給単位期間の初日から起算して4か月を経過する日の属する月の末日までに、所定の申請書に休業等開始時賃金証明票(=本証明書)や母子健康手帳、労働者名簿、賃金台帳その他の賃金支払状況を証明できる書類を添えて、事業主を経由して管轄公共職業安定所長に提出しなければならないことが、雇用保険法施行規則第101条の30に規定されています。
介護休業給付金の根拠
介護休業給付金については、雇用保険法第61条の4にその支給要件・支給額の計算方法が定められており、こちらも休業開始前の賃金水準(休業開始時賃金日額)を基準に給付額が算定される仕組みです。介護休業給付金の申請にあたっても、本証明書に基づいて賃金日額が確認されます。
このように、本証明書は法律上・省令上、給付金支給の可否および支給額を判断するために不可欠な添付書類として位置づけられています。事業主に虚偽の証明を行う意図がなくても、記載内容に誤りがあれば給付額の算定に直接影響するため、正確な記載が強く求められます。
3. どのような場面で必要になるか
本証明書(正式には「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書・所定労働時間短縮開始時賃金証明書」、様式第10号の2の2)は、次のような場面で使用されます。
- 育児休業給付金の初回申請時(産前休業や出生時育児休業から引き続き育児休業を取得する場合を含む)
- 出生時育児休業給付金(産後パパ育休)の申請時
- 介護休業給付金の申請時
- 育児時短就業給付金において、育児休業から引き続き同一の子について育児時短就業を開始したのではなく、新たに時短就業給付の対象となる場合
なお、育児休業を分割して取得する場合(原則2回まで、やむを得ない事由がある場合の3回目以降を含む)、2回目以降の休業について改めて本証明書を作成し直す必要はありません。初回の育児休業給付金申請時に提出したもので足りるとされています。ただし、2回目以降の休業であっても、初回給付金の申請様式自体は「育児休業給付受給資格確認票 兼(初回)給付金支給申請書」を用いる必要があり、その際に受給資格確認欄・賃金月額証明欄への記載は不要とされています。
4. 提出者・提出先・提出期限
提出者
本証明書は、原則として事業主が作成し、事業主を経由して提出します。雇用保険法施行規則第101条の30では、「事業主を経由して」提出することが原則とされており、やむを得ない理由により事業主を経由することが困難な場合に限り、被保険者本人が直接提出できる旨が定められています。
提出先
提出先は、**事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)**です。被保険者の住所地を管轄するハローワークではない点に注意が必要です。
提出期限
提出期限は給付金の種類によって異なります。
- 育児休業給付金:初めて育児休業給付金の支給を受けようとするときは、支給単位期間の初日から起算して4か月を経過する日の属する月の末日まで(雇用保険法施行規則第101条の30)に、育児休業給付受給資格確認票と併せて提出します。受給資格確認の審査には一定の期間を要するため、実務上は育児休業開始後、できるだけ早い段階で提出することが望ましいとされています。
- 介護休業給付金:介護休業給付金の支給申請は、介護休業終了日の翌日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日までに行う必要があり、本証明書はその支給申請書を提出するまでに提出することとされています。事業主を経由して支給申請書を提出する場合には、証明書を支給申請と同時に提出することも可能です。
いずれの給付金についても、期限を過ぎると支給を受けられなくなるおそれがあるため、休業取得の申出を受けた時点から、スケジュールを逆算して準備を進めることが重要です。
5. 証明書とあわせて提出する添付書類
本証明書の記載内容(休業開始日、賃金支払状況、賃金額など)を客観的に確認できる資料として、次のような書類の添付が必要とされています。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿またはタイムカード
- 育児(または介護)の事実が確認できる書類(母子健康手帳の写し、育児休業申出書、育児休業取扱通知書、介護対象家族の状況が分かる書類など)
これらはいずれも、休業開始日や賃金支払基礎日数・賃金額を裏付けるための客観的資料として求められるものであり、記載内容と添付書類の内容に齟齬があると、ハローワークから確認や差し戻しを受ける原因となります。
6. 記入時に押さえておきたいポイント
(1)「休業等を開始した日」の記載
証明書の記載の起点となるのが「休業等を開始した日」欄です。育児休業給付金の場合、原則として実際に育児休業を開始した日を記載しますが、産前休業を経て育児休業に入る場合など、起算点の考え方には細かいルールがあります。厚生労働省の資料では、産前休業を開始する日前に子を出生した場合は「当該子を出生した日の翌日」、産前休業を開始する日前に先行する母性保護のための休業をした場合は「当該先行する休業を開始した日」を起算点とする、といった具体的な取扱いが示されています。この日を誤ると、賃金の算定対象期間全体がずれてしまうため、慎重な確認が必要です。
(2)賃金支払対象期間と賃金支払基礎日数
証明書には、休業開始前の賃金支払対象期間を1か月ごとに区切って記載し、各月の賃金支払基礎日数と賃金額を記入します。育児休業給付金の場合、原則として賃金支払基礎日数が11日以上(これによりがたい場合は労働時間数が80時間以上)ある月を「完全月」として扱い、完全月が12か月に達するまで遡って記載する必要があります。基礎日数が11日未満(かつ労働時間数80時間未満)の月は、原則として算定の対象から除外される点も重要なポイントです。
(3)賃金額は「控除前」の総額
記載する賃金額は、税金や社会保険料などを控除する前の総支給額です。手取り額を記載してしまうと給付額の算定に誤差が生じるため注意が必要です。
7. 支給額はどう決まるのか(賃金日額の算定)
育児休業給付金・介護休業給付金の額は、この証明書に基づいて算定される「休業開始時賃金日額」をもとに計算されます。基本的な考え方は次のとおりです。
- 証明書に記載された、賃金支払基礎日数が11日以上(または労働時間80時間以上)ある完全月を、休業開始前から遡って原則6か月分集計する
- その6か月間の賃金総額(賞与など臨時に支払われる賃金を除く)を180で除して「休業開始時賃金日額」を算出する
- 休業開始時賃金日額に支給日数を乗じ、原則67%(育児休業給付金は育児休業開始から6か月経過後は50%)の給付率を乗じて、各支給単位期間の給付額を算定する
このように、証明書の記載内容がそのまま給付額の計算式に組み込まれるため、記載ミスは被保険者本人の受給額に直接影響します。事業主の担当者には、賃金台帳と突き合わせながら正確に記入することが求められます。
8. よくある記入ミス・実務上の注意点
実務上、ハローワークからの差し戻し(返戻)の原因として多く見られるのは、次のようなケースです。
- 「休業等を開始した日」の記載誤り(産休・育休の起算点の取り違え)
- 賃金支払対象期間の区切り方の誤り(賃金締切日と実際の記載期間のずれ)
- 賃金支払基礎日数の数え方の誤り(欠勤控除がある月の日数の数え違い)
- 控除前賃金ではなく手取り額を記載してしまうミス
- 完全月が12か月に満たないにもかかわらず、遡り記載が不足しているケース
こうしたミスは、給付金の支給決定が遅れる直接の原因となります。従業員の生活に直結する給付金であるからこそ、賃金台帳をもとに時間をかけて丁寧に確認することが、結果的に手続きの迅速化につながります。
9. 令和8年8月1日からの手続き見直しのポイント
厚生労働省は、育児休業等給付の申請手続きをより行いやすくするため、令和8年8月1日から事務取扱いの一部を見直しています。本証明書の記載実務にも関わる主な変更点は次のとおりです。
- 育児休業給付に係る育児休業終了後、同一の子について初回の育児時短就業を開始した場合であって、育児休業終了から育児時短就業開始までの間に賃金の支払いがないことが賃金証明書および添付書類で確認できるときは、賃金証明書のうち育児休業開始前の賃金支払状況に関する欄(⑨欄・⑩欄・⑪欄)の記載を省略できることとされました。
- 出生時育児休業給付金の申請時に申告する賃金の範囲についても、申請の早期化を図る観点から取扱いが見直されています。
これらの見直しは、令和8年8月1日以降に開始する休業等から適用されるものが含まれるため、対象となる従業員の休業開始日によって取扱いが異なる場合があります。実際の記載にあたっては、事業所の所在地を管轄するハローワークに確認しながら進めることをお勧めします。
10. まとめ
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書は、育児休業給付金・出生時育児休業給付金・介護休業給付金といった、従業員の生活を支える重要な給付金の支給額を決定づける根幹の書類です。
- 法的根拠は雇用保険法第61条の4・第61条の7、雇用保険法施行規則第101条の29・第101条の30などに定められている
- 提出者は原則として事業主、提出先は事業所所在地を管轄するハローワーク
- 提出期限は給付金の種類ごとに異なるため、休業開始の申出を受けた段階からスケジュール管理が必要
- 記載内容の正確性が、そのまま従業員が受け取る給付額に直結する
制度は今後も改正が続くことが見込まれる分野です。人事労務ご担当者の皆様におかれましては、最新の厚生労働省の公表資料を随時ご確認いただくとともに、個別の判断に迷う場合には、社会保険労務士や管轄のハローワークへご相談いただくことをお勧めいたします。
11. 参考文献・出典
本記事は、以下の公的機関が公表している一次情報をもとに作成しています。
- 厚生労働省「育児休業等給付について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000135090_00001.html - 厚生労働省「育児休業等給付の申請手続きを見直します(令和8年8月1日から)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001720846.pdf - 厚生労働省「育児休業給付金の申請手続きを行う事業主の方・育児休業取得予定の方へ」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000809393.pdf - 厚生労働省「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001282596.pdf - 厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158665.html - 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第61条の4、第61条の7
- 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)第101条の29、第101条の30
本記事は一般的な制度の解説を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。実際の手続きにあたっては、必ず最新の法令・通達および管轄のハローワークの案内をご確認ください。また、本記事は税務に関する内容を含みません。
