「懲戒免職」と「懲戒解雇」。ニュースや日常会話では、どちらも「不祥事を起こして職を失うこと」という意味で、ほとんど同じように使われがちです。しかし、この2つの言葉は、法律上まったく別の制度に基づく、まったく別の処分です。
一方は公務員に対して行われる「懲戒処分」であり、もう一方は民間企業の労働者に対して行われる「普通解雇とは異なる契約解除」です。根拠となる法律も、手続きも、退職手当(退職金)の扱いも、処分を受けた後の不服申立ての方法も、大きく異なります。
本記事では、社会保険労務士の立場から、国家公務員法・地方公務員法・労働基準法・労働契約法など、実際の条文や行政官庁の公表資料といった一次情報に基づき、「懲戒免職」と「懲戒解雇」の違いを整理して解説します。なお、本記事は税務に関する内容は取り扱っておりません。
1. まず押さえておきたい「懲戒処分」の全体像
「懲戒処分」とは、組織の規律に違反した者に対して、その責任を追及し、制裁として科される処分の総称です。この「懲戒処分」という大きな枠組みの中に、
- 公務員に対する懲戒処分(戒告・減給・停職・免職)
- 民間企業の労働者に対する懲戒処分(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇など)
という2つの体系が存在しています。つまり、「懲戒免職」と「懲戒解雇」は、どちらも「懲戒処分のうち最も重い、職を失わせる処分」という点では共通していますが、適用される対象者がまったく異なる、という関係にあります。
2. 「懲戒免職」とは何か-公務員に科される最も重い懲戒処分
2-1 根拠となる法律:国家公務員法・地方公務員法
「懲戒免職」は、国家公務員・地方公務員に対してのみ科される処分です。
国家公務員については、国家公務員法第82条第1項において、次の3つのいずれかに該当する場合に、任命権者が懲戒処分として「免職、停職、減給又は戒告」を行うことができると定められています。
- 国家公務員法・国家公務員倫理法またはこれらの法律に基づく命令に違反した場合
- 職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合
- 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合
(出典:国家公務員法第82条|e-Gov法令検索)
地方公務員についても、地方公務員法第29条第1項に、国家公務員法とほぼ同様の3類型の懲戒事由と、「戒告、減給、停職又は免職」という処分の種類が定められています。
(出典:地方公務員法第29条|e-Gov法令検索)
つまり、法律上は「懲戒免職」という単独の条文があるわけではなく、懲戒処分の一種類として「免職」が位置づけられているというのが正確な理解です。実務上、この「免職」処分を指して「懲戒免職」と呼んでいます。
2-2 懲戒処分の種類と「免職」の位置づけ
公務員の懲戒処分は、軽い順に「戒告」「減給」「停職」「免職」の4種類です。免職以外の処分では公務員としての身分は失われませんが、免職処分を受けると公務員としての身分そのものを失います。
(出典:人事院「服務・懲戒制度」)
なお、減給の程度については、国家公務員の場合、人事院規則12-0において、1年以下の期間、俸給月額の5分の1以下の範囲で行うことが定められています。
2-3 処分権者と手続き
懲戒処分を行う権限(懲戒権)を持つのは、国家公務員法第84条に定める「任命権者」です。処分に不服がある職員は、国家公務員の場合は国家公務員法第90条以下に定める人事院への審査請求、地方公務員の場合は地方公務員法に定める人事委員会・公平委員会への審査請求という、行政機関内部の不服申立て制度を利用することになります。これは、後述する民間企業の懲戒解雇の争い方(労働審判や訴訟など)とは大きく異なる点です。
3. 「懲戒解雇」とは何か-民間企業の労働者に対する処分
3-1 根拠:労働契約法第15条と就業規則
一方、「懲戒解雇」は、民間企業に雇用される労働者に対して行われる処分です。公務員の懲戒処分のように、「懲戒解雇」という処分の種類そのものを直接定めた法律条文は存在しません。かわりに、労働契約法第15条が、使用者の懲戒権行使全般に対する歯止めとして機能しています。
労働契約法第15条は、使用者が労働者を懲戒できる場合において、その懲戒が労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、権利の濫用として当該懲戒を無効とする、と定めています。
(出典:労働契約法第15条|e-Gov法令検索)
そして、この条文が前提とする「使用者が労働者を懲戒することができる場合」とは、就業規則に懲戒の種類・事由があらかじめ明記されている場合を指すと解されています。労働基準法第89条第9号は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、表彰及び制裁(懲戒)の定めをする場合には、その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載し、行政官庁(労働基準監督署長)に届け出ることを義務付けています。
(出典:労働基準法第89条|e-Gov法令検索)
つまり、民間企業が労働者を懲戒解雇するためには、あらかじめ就業規則に懲戒解雇の事由と手続きを明確に定め、周知しておくことが大前提となります。就業規則に根拠のない懲戒解雇は、そもそも有効に行うことができません。
3-2 懲戒解雇が有効となるための要件
懲戒解雇が法的に有効と認められるためには、単に就業規則に懲戒解雇事由が定められているだけでは足りず、労働契約法第15条の要件、すなわち「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方を満たす必要があります。行為の重大性、企業秩序への影響、過去の処分歴、他の労働者との処分の均衡、弁明の機会の付与といった手続きの適正さなどが、総合的に考慮されることになります。
4. 「懲戒免職」と「懲戒解雇」の違いを7つの視点で比較する
ここまでの内容を踏まえ、両者の違いを実務上のポイントごとに整理します。
4-1 適用対象・根拠法令の違い
最も大きな違いは、適用対象です。「懲戒免職」は国家公務員法・地方公務員法に基づき公務員にのみ科される処分であるのに対し、「懲戒解雇」は労働契約法・労働基準法および各企業の就業規則に基づき、民間企業に雇用される労働者に対して行われる処分です。根拠となる法体系がまったく異なります。
4-2 労働基準法の適用関係の違い
意外と知られていませんが、一般職の国家公務員には、国家公務員法附則第16条により、労働組合法・労働関係調整法・労働基準法などの適用が原則としてありません。
(出典:国家公務員法附則第16条に関する記述|労働政策研究・研修機構「日本労働研究雑�ス」)
一方、地方公務員については、地方公務員法第58条第3項により、労働基準法の一部の規定(第7章「技能者の養成」や第75条から第93条までの災害補償・就業規則等の規定など)が適用除外とされているものの、労働基準法そのものは原則として適用されます。これに対し、民間企業の労働者には、労働基準法が全面的に適用されます。この違いにより、次に述べる「解雇予告」の扱いにも差が生じます。
4-3 解雇予告・解雇予告手当の違い
労働基準法第20条は、使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めています。ただし、労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、この限りではないとされていますが、この除外を主張するには、行政官庁(所轄労働基準監督署長)による除外認定を受けなければならないと、同条第3項・第19条第2項が定めています。
(出典:労働基準法第20条|e-Gov法令検索)
この「労働者の責めに帰すべき事由」に該当する具体例としては、厚生労働省の通達(昭和23年11月11日基発第1637号、昭和31年3月1日基発第111号)において、事業場内における盗取・横領・傷害等の刑法犯に該当する行為、採用条件となる重要な経歴の詐称などが挙げられています。
(出典:「解雇予告除外認定の申請について」福井労働局公表資料)
重要なのは、就業規則上「懲戒解雇」に該当すると会社が判断しても、労働基準監督署長の除外認定を受けられなければ、原則どおり解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要になるという点です。除外認定の基準は、就業規則上の懲戒解雇事由と必ずしも一致しません。
これに対し、一般職の国家公務員は前述のとおり労働基準法の適用がないため、懲戒免職に労働基準法第20条の解雇予告の考え方はそのまま当てはまりません。
4-4 退職手当(退職金)の取り扱いの違い
公務員の退職手当については、国家公務員退職手当法という個別の法律があります。同法第12条第1項は、懲戒免職等処分を受けて退職した者に対しては、退職手当の全部または一部を支給しないこととする処分を行うことができると定めています。
(出典:国家公務員退職手当法第12条|法令リード(条文引用)、国家公務員退職手当法|e-Gov法令検索)
さらに同法第15条では、退職手当の支払後に、在職期間中に懲戒免職処分を受けるべき行為があったと認められた場合には、退職手当管理機関が返納を命ずる処分を行うことができるとされています。
(出典:国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律|衆議院)
一方、民間企業の退職金は、そもそも法律上の支払義務があるものではなく、就業規則や退職金規程に定めがある場合にはじめて支払義務が生じる、労働契約上の制度です。したがって、懲戒解雇に伴う退職金の不支給・減額についても、就業規則等にその旨の定めがあることが前提となります。そのうえで、不支給・減額が有効と認められるかどうかは、労働契約法第15条の権利濫用法理に照らして、退職金の持つ賃金の後払い的性格や功労報償的性格を踏まえ、個別に相当性が判断されることになります。
4-5 不服申立て・救済手続きの違い
処分を受けた側が不服を申し立てる手続きにも違いがあります。国家公務員が懲戒免職処分に不服がある場合は、国家公務員法第90条以下に基づき人事院に対して審査請求を行う制度が用意されています。地方公務員についても、地方公務員法に基づき人事委員会・公平委員会への審査請求という手続きがあります。
これに対し、民間企業の労働者が懲戒解雇に不服がある場合には、こうした専用の行政審査制度はなく、会社との個別の話し合いのほか、労働基準監督署への相談、都道府県労働局によるあっせん、労働審判、民事訴訟といった、一般の労働紛争解決の枠組みを利用することになります。
4-6 雇用保険の適用と給付制限の違い
一般職の国家公務員は、国家公務員退職手当法などにより離職後の所得保障の仕組みが別途用意されていることなどから、雇用保険の適用対象とはなりません(雇用保険法上、国、都道府県等に勤務する者で、離職した場合に一定の給与が支給される者は適用除外とされています)。
一方、民間企業の労働者が加入する雇用保険では、「自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合」(いわゆる重責解雇)に該当すると、基本手当(失業給付)の給付制限がかかります。この給付制限期間は、原則として待期期間満了後1か月以上3か月以内で公共職業安定所長が定める期間とされ、重責解雇に該当する場合の給付制限期間は3か月とされています。
(出典:「給付制限期間」が2か月に短縮されます|厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)
なお、会社が就業規則上「懲戒解雇」と判断したことと、ハローワークが雇用保険上の「重責解雇」と認定することは、必ずしも一致しません。重責解雇に該当するか否かは、最終的にハローワークが個別に判断します。
4-7 再就職時の制限(欠格条項)の違い
国家公務員法第38条・地方公務員法第16条には、懲戒免職の処分を受け、その処分の日から一定期間(2年)を経過しない者は、公務員となることができない旨の欠格条項が定められています。つまり、懲戒免職には、将来にわたって公務員になれなくなるという、身分法上の強い効果が伴います。
これに対し、民間企業の懲戒解雇には、こうした法律上の欠格条項はありません。ただし、離職票の離職理由の記載内容や、転職活動における経歴の説明などを通じて、実務上、再就職に影響が生じ得る点には留意が必要です。
5. 共通して大切な視点:処分の「相当性」と「適正な手続き」
これほど法的な根拠や手続きが異なる「懲戒免職」と「懲戒解雇」ですが、共通して重視されているのが、処分の重さが行為の内容に見合っているか(相当性)、そして処分に至るまでの手続きが適正であったか、という点です。
民間企業においては、解雇に関する基本的なルールとして、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用として無効になるという考え方(解雇権濫用法理)が確立しており、労働契約法第16条にも明記されています。これは懲戒解雇にも当然に及ぶ考え方です。
(出典:「労働基準法の概要(解雇・退職)」|厚生労働省静岡労働局)
公務員の懲戒免職についても、懲戒権者の裁量には一定の幅が認められつつ、処分事由の有無や処分の重さの選択について、裁量権の逸脱・濫用がないかという観点からの統制が及ぶとされています。いずれの制度においても、「重大な非違行為=直ちに免職・解雇が認められる」わけではなく、事案ごとの個別具体的な事情の考慮が不可欠であるという点は共通しています。
6. 社会保険労務士として企業にお伝えしたい実務上の留意点
民間企業の人事労務の実務にあたる立場から、懲戒解雇を検討する際には、次のような点に特に注意が必要です。
- 就業規則に懲戒解雇事由が明確に定められているか:抽象的な規定では、いざという場面で処分の根拠として機能しない可能性があります。
- 解雇予告除外認定の要否を事前に検討しているか:懲戒解雇=即日解雇・予告手当不要、と短絡的に考えるのは危険です。除外認定を受けられなければ、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要になります。
- 本人に弁明の機会を与えるなど、手続きの適正さが確保されているか:処分の内容だけでなく、手続きの過程も有効性の判断に影響します。
- 過去の処分事例との均衡が取れているか:同種の行為に対して処分の重さが著しく異なると、権利濫用と判断されるリスクが高まります。
これらは、労働契約法第15条・第16条という、企業規模を問わず適用される基本ルールに基づく留意点です。懲戒処分、とりわけ懲戒解雇のような重い処分を検討する際には、就業規則の整備状況や事実関係の証拠化も含め、早い段階から専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
7. まとめ
- 「懲戒免職」は国家公務員法・地方公務員法に基づき、公務員に対してのみ科される懲戒処分の一種です。
- 「懲戒解雇」は労働契約法・労働基準法および就業規則に基づき、民間企業の労働者に対して行われる処分です。
- 適用対象・根拠法令だけでなく、労働基準法の適用関係、解雇予告手当の要否、退職手当の取り扱い、不服申立ての方法、雇用保険の適用、再就職時の欠格条項の有無など、実務上の効果は多くの点で異なります。
- 一方で、処分の重さが行為に見合っているか(相当性)、適正な手続きを経ているかが問われる点は、両制度に共通する重要な視点です。
言葉としては似ていても、法的な位置づけがまったく異なる「懲戒免職」と「懲戒解雇」。両者の違いを正しく理解することは、公務員制度や労働法制への理解を深めるうえで大切な視点です。
参考文献・出典一覧
- 国家公務員法第82条(懲戒の場合)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法第29条(懲戒)|e-Gov法令検索
- 人事院「服務・懲戒制度」
- 労働契約法第15条・第16条|e-Gov法令検索
- 労働基準法第20条・第89条|e-Gov法令検索
- 「解雇予告除外認定の申請について」福井労働局公表資料
- 国家公務員退職手当法|e-Gov法令検索
- 国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律|衆議院
- 「給付制限期間」が2か月に短縮されます|厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク(鳥取労働局公表資料)
- 「労働基準法の概要(解雇・退職)」|厚生労働省静岡労働局
- 国家公務員法附則第16条に関する解説|労働政策研究・研修機構「日本労働研究雑誌」
※本記事は、社会保険労務士の立場から、公表されている法令および行政官庁の資料に基づき一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案における処分の有効性等については、事実関係や適用される就業規則・条例等により判断が異なりますので、具体的な対応をご検討の際は、顧問社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。
